第44話 夜想曲を奏でる前に
第08節 夏の終わり〔2/3〕
注:奏でません。
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
平成30年8月20日月曜日。
今日は雫の実家である松村酒造のある町から、ボクの家のある町まで約550kmのロングライドです。
普通、ツーリングの場合。スケジュールの後半にロングライドを入れる事はありません。当然疲労が蓄積されているから。同様の理由で、ロングライドの前日に、海水浴などの体力を消耗する遊びを入れる事も。だけど、ボクらの場合。『倉庫』がある分、その辺りの調整はいくらでも出来ます。
もっともだからと言って、雫、オイルを塗っても日焼けが酷すぎたからって、男に軟膏を塗らせるな! ってか、全裸にシーツだけで背中を見せて「塗って♥」って、挑発って言わずして何て言う? せめてボトムスくらいは穿いてほしい。否、トップスだって、薬を塗るのは背中だけなんだから、背中を見せて前を隠す衣装なんかいくらでもあるでしょうに。……下半身も、前も、ボクに塗らせようという魂胆があるなんて、NGだから想定していません。って、ご両親にボクのことを受け入れてもらえたからって、無防備を通り過ぎて挑発の度が過ぎます。まだ、ボクの両親に雫を紹介した訳じゃないんですから。
ちなみに、雫のみならず髙月さんもソニアも、そしてエリスも。浜辺では男子にオイルを塗らせていました。髙月さんとエリスは敢えてワンピースの水着の上半身を脱いで。ソニアと雫はトップスを外して。ええ、完全に遊んで……じゃなく、誘惑しに来ています。
厳密には。わかっているんです。女子一同、こんな場所でボクら男子が理性を飛ばすほど短慮じゃない、って信頼してくれているから、その分余計に肌を晒してボクらの反応を見て楽しんでいるんだってことを。だけど、飯塚くんは当然のこと、ボクにしたところでそろそろもう一歩前に進み出ても、ボクらの関係は深まりこそすれ歪みはしません。さすがに他のメンバーの目があるところで情欲に心を支配させるつもりはありませんけど、それでも結構ギリギリなんです。
しかも、雫の挑発は。『倉庫』内で他者の目線の無いところでもしてきましたから。
正直、雫の全裸は、異世界にいる時に既に何度も見ています。形の良い胸も、くびれた腰も、柔らかそうなお尻も、手入れの行き届いた繁みも、全部。
だけど、異世界にいる間は。ボクらは運命共同体でした。家族で、兄弟姉妹のような関係性を維持していましたから、見てしまったことも(そして見られてしまうことも)お互いに許容していたんです。
が、地球に戻って来て、しかも雫のご両親に挨拶して、その関係を認められて。その上で、雫の裸を見せられて、冷静でいられるほど、ボクは枯れていません。
多分。遠からず、ボクは雫に対して欲情を吐き出すことになるでしょう。けどそれは、雫をボクの両親に紹介した後のことです。ただでさえ、ボクと雫の関係は、将来の結婚を前提とはしていません。最短で、高校卒業時。一番可能性の高い区切りとして、大学卒業時に、この関係が清算されるかもしれないんです。
なら、本来は、ボクは雫に手を出すべきじゃありません。けど、そうであるなら、なお。雫が大学を卒業する前に、或いは高校を卒業する前に。ボクの子を孕んでほしい。一般高校生の欲求としては異常な、けれどそれがボクの本音なんです。
欲望はどうあれ、なんにせよ今はその時期じゃありません。取り敢えず「彼女の両親にご挨拶」が終わったところに過ぎないのですから。次なるイベント、「彼女を両親に紹介」して、いよいよ高校生らしい男女交際が始まるのですから。
それから二人きりでデートして、最初のデートで手を握れたらいいですね。そして三度目くらいのデートで、気持ちが盛り上がったらキスをして、その先の話はその先で。ファーストデートに避妊具持参していくようながっついた真似は出来ませんし。……けど、既に女子が、『倉庫』にゴムを段ボール箱で備蓄しているのも知ってます。否、あれはきっと、イライザ女王へのお土産でしょう。そうに決まってます。だけど、油断したら襲われそうな気がしてなりません。
◇◆◇ ◆◇◆
さて、それはともかく今日のツーリングです。リーダーは、飯塚くん。
だけど、事前の不安を余所に、かなり大人し目のライディングです。って言うか、違います。さっきボクが、上から目線で飯塚くんを観察し過ぎていた所為で、手元が疎かになって、減速タイミングを間違えました。完全に、ボクのミス。上手く立て直せても中央分離帯側の路肩で転倒間違いなし、立て直せなかったらガードレールを突き破って反対車線に突っ込むところでした。が、目に見えないクッションがそこにあったかのように、それにぶつかり、おかげで走行車線内で立て直せました。
うん、これが〔慣性制御〕。成程、リーダーとして、全車をいつでもフォロー出来る体制でいたから、結果やんちゃなライディングにはならなかったんですね。
そして、どうやら今日の長距離走行で。〔慣性制御〕のお世話になったのは、ボクだけじゃないようです。
これは、この夏の旅行で既に1,200km以上走って、その疲労が溜まっているから。という訳じゃないと思います。基本的に異世界絡みの話をしなければいけない人たち全員に会い、伝えなければいけないことは全て伝えて、そして、もう旅行は終盤、帰路に差し掛かっています。そのことからくる、油断。或いは、これまで走行中に問題が起こったことがないから来る、気のゆるみが齎す集中力の低下。それが今日の長距離走行で、一気に出てきたようです。
だから、途中のSAで。飯塚くんは、2時間の長休止を宣言しました。
「おい、飯塚。いくらなんでも、2時間は長すぎねぇか? ただでさえ、到着予定時間は夕方なんだぜ? それなのに、2時間も休憩取ったら、完全に夜になっちまうじゃねぇか。なら、休憩は『倉庫』で採って、あとはひたすら走るべきだと思うが?」
柏木くんが、不審げに。彼はまだ、〔慣性制御〕のお世話になっていません。
「否、『倉庫』での休憩は、日の光を浴びれないっていう致命的な欠点があるから。今の皆に必要なのは、青空の下での休憩だ。体力の回復じゃなく、気分の安定。それが必要だ。
それに、今の精神状態で夕暮れの走行もまた危険だ。夕方に、西に向かって走るんだからな。一日目の山中走行も同じ方角だったけど、道が細い山道だから、西日の影響は意外に少なかった。だけど今回は、広い高速道路上だから。気が散った状態で走れば、前が見えないままでトラックに突っ込むぞ」
あ。今まで、そんなこと想定してもいませんでした。
走行する方角と、太陽の位置、なんて。そしてメンバーの、体力じゃなく精神状態。
ならいっそのこと、日没を待ってから走った方が、夕暮れの高速を走るよりはるかに安全、ってことですか。
本当に、このリーダーは。色んなことを配慮してくれます。
でも、恋人たちが夜想曲を奏でる時間を迎える前に、ボクの家まで辿り着きたいものです。
(2,814文字:2019/09/17初稿 2020/06/30投稿予約 2020/08/01 03:00掲載予定)
【注:このように、「ToDoリスト」に従って彼女との関係を深めて行こうと目論む童貞くんは、肉食彼女に食い散らかされるのがお約束となっております。
……令和元年9月中旬現在、ノクターンの方で18禁書いていたんですが、実はあっちの二人のモデルはこの二人だったり(当然設定は変えていますが)。おかげでこっちももろに引き摺られています(笑)。
ただ今回、彼らは夜の灯篭を必要としなかったようで】
・ 松村雫さんの攻めの姿勢は、ご両親の承諾の下。というより、積極的に指令が下っていた模様? なおその時の彼女が握っているシーツの中に、ゴム製品が二つ三つ。
・ 武田雄二くんたち男子諸君は現在、公衆便所にある「もう一歩前に!」という警句だけで、下半身が大変なことになっています。
・ 飯塚翔くんは、前作終了時点では〔慣性制御〕を同時に3つまでしか展開出来ませんでしたが、今では6つ以上展開出来るようになっているようです。
・ エリス「ぱぱ♥ その、白くてトロっとした液体、塗ってほしいな♥」
武田雄二「お巡りさんコイツです。コイツが女児に自分のことを『ぱぱ』と呼ばせた上で、いかがわしい液体を女児の身体に塗り付けようとしています」
水無月美奈「美奈の背中には欲情しなかったのに、エリスのには反応するって充分びょーきだよ!」
飯塚翔「……(破壊力があり過ぎて、反論する余力が残ってない)」
ちなみに、翔くんは美奈さんのにもしっかり反応してましたが、こっちははじめから予想出来ていたので取り繕えました。エリスのは完全に不意打ちだったので。
・ なおエリスは。健康的な女児のように、「すっぽーん」と全裸になったのではなく、恥じらいある妙齢の乙女のように、胸元(ふくらみは全くない)を隠しながらしずしずと肩紐から腕を抜き、「塗って♥」ってw
・ 「せめてボトムスくらいは穿いてほしい」。つまり、『倉庫』内で、シーツを纏った雫さんが「塗って♥」と言って背中を見せた時、お尻まで見せちゃっていたんです。
松村雫「雄二、実は、あれから随分おっきくなっていると思うけど♥ 確認、する?」
・ ゴムを数百個単位で備蓄する処女JKたち(笑)。『みなミナ工房』の名を使い、B to B仕入れをしました。業販価格で割引もwww




