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前略、親友殿~いつまでも、かわらずに~  作者: 藤原 高彬
第一章:異世界からの帰還
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第25話 ツーリング

第05節 そして、また旅に〔1/8〕

◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 バイクを買った時。オレたちはバイクショップの店員から、ツーリングの心得を聞かされていた。


 第一に、仲間を信頼するのは当然だけど、頼り過ぎるのはNG。

 地図が読めない、ルートを覚えられないメンバーが、「前の仲間に着いていけばいい」と思っていると、(はぐ)れたり間違って余所のバイクを仲間と誤認してそっちに着いていったりしてしまうという冗談みたいなトラブルが起きる。また当然ながら仲間におんぶにだっこで依存することを前提にしていると、仲間たちの負担が増え、不満が溜まり、結果楽しいツーリングにはならない。

 だから、最低限地図の見方を覚え、ルートを把握し、次の休憩(チェック)地点(ポイント)を各自で確認しておく必要がある。


 第二に、機械に頼り過ぎるのもNG。

 バイク用カーナビは、意外に精度が悪く、現在地の把握に於いて既に間違えている場合もある。また無線は隊列が伸びれば届かなくなる恐れがあるし、そうでなくともトラックのような高出力無線機を搭載した車両の近くにいるとか地形や建物の状況などでも電波の感度が悪くなる。そして携帯電話(ケータイ)は、トラブルが起きた時その場所が圏外であるリスクを考慮する必要がある。

 だから、メンバーは相互に認識出来るような目印があると分かり易いし、無線などの他(ハンド)信号(サイン)なども併用して、確かに情報伝達出来るようにしなければならない。またそれでも逸れた時の再集合地点や連絡方法を事前に取り決めておく必要がある。そして最低限のメンテナンスと修理、とまではいかなくても応急処置くらいは、自分で出来るようにしておいた方が良いだろう。


 第三に、リーダーは「一番下に合わせる」。

 体力が一番劣るメンバーに合わせて休憩タイミングを取り、或いはメンバーの中に疲労の兆候(先行車がブレーキを踏んでいるのに、ブレーキランプに気付くのが遅れて追突しかける、など)が見えたら、予定外の場所でも即座に休憩を採る。誰かが疲労しているということは、それ以外のメンバーも自覚がないだけで疲労が蓄積しているということなのだから。

 ガソリンの給油タイミングも、そうだ。オレたちの場合は同一車種だけど、それぞれの走り方の個性で、消費量はかなり差が出る。なら、ガソリンの減りが一番早いメンバーの給油タイミングに合わせて、全員が給油する。

 そして行動は、基本隊列最後尾に合わせる。例えば、先頭が交差点に掛かった時。信号が青だったとしても、横断歩道の歩行者用信号が点滅を始めていたら、そのまま交差点を通過したら最後尾が交差点に掛かる時には信号が変わっている可能性が大きい。なら、信号が青でも減速し、後続を待つべき。また信号で隊列が分断されてしまったら、先行部隊はなるべく早く、安全な場所で停止して後続を待つ。


◇◆◇ ◆◇◆


 ところで、このバイクショップ店員さんのアドバイス。よく考えると、最初の二つは冒険者の迷宮(ダンジョン)攻略(アタック)の心得と同じだし、三番目のアドバイスは軍隊行軍の心得そのものだ。メンバー数が多くなると隊列が長くなり過ぎるから、サブリーダーを指名して隊を分ける、なんていうのは「分進合撃」の戦術機動そのものだし。つまり、規模の大小こそあれ、結局同じことなんだと妙に納得してしまったのだった。


 で、これらを踏まえてオレたちの場合。

 そもそもバイク用カーナビは搭載していない。タンクバッグにルートを記載した地図を入れて。そして『倉庫』のミーティングルームの壁(掲示板)に拡大コピーした全ルート図を掲示し、休憩その他のタイミングでその地図に現在地と現在時間を書き込むことにした。そうすることで、たとえ逸れても、自分が今どこにいるかさえ分かれば本隊の現在地を認識出来る、という事だ。当然掲示板にメッセージを残すことも出来る。その他、〔光球〕の魔法による誘導や〔報道(マスメディア)〕の魔法による通信などもオレたちの選択肢には含まれる。

 また、全車が同一車種であることから、修理用パーツや消耗品は、使い廻すことが出来る。例えば6台6車種だとすれば、故障が想定されるパーツ等は6車種分用意しなければいけないけれど、同一車種なら取り敢えず3セットずつ用意しておけば当座は(しの)げるはず。


 そして、ルートの選択。

 最初の目的地である京都まで、この町から約500km。高速道路(こうそく)を使えば、6時間半といったところ。だから一日で京都に入る計画も、無理とは言わない。

 けれどこれがオレたちの最初のツーリングであることを念頭に、途中で一泊するスローライディングを計画した。そうなると、高速を使う意味もなく。

 で、京都までは、一般道(したみち)で。そして一泊目は、キャンプする予定。但し、テントは張るものの宿泊は『倉庫』内で、夜は天体観測その他のレクリエーションをしよう、という話になっている。ちなみに、食事も『倉庫』の中で、と思ったら、「どうせなら外でBBQしよう!」ということに。……長野の山中のキャンプ場で、マグロの解体ショーだのブタの丸焼きだのをやる女子高生なんかが出没したら、一気に都市伝説になりそうだが。その辺は髙月に常識を期待したいところだ。

 ちなみに、俺たちのお(そろ)いのスーツには、髙月に「矛銃穂紋」を蛍光生地(きじ)で縫い込んでもらった。言わずと知れた、「カケル・リンドブルム子爵」の紋章だ。まるで暴走族のチームみたいだが、被視認性優先で。


◇◆◇ ◆◇◆


 出発したのは、8月7日火曜日朝8時。天気は、あいにく雨。但し西の方は晴れているとのこと。

 本当は、長距離ツーリングの場合、日の出前の出発の方が道路状況などを考えても適しているのだという。だけど、最近のオレたち(自宅組)はバイト三昧で家族にかなり心配をかけている。なら遊びに行く時くらいは、逆に普通の時間に出発しようということになった。

 それは、さすがに考え過ぎだろ。そう思ったけど、うちの両親は玄関先まで見送りに来る羽目になった。飯塚家では、6人分の弁当を作ってくれていた。いや、「可愛い子には旅をさせろ」って言うけれど、そんな大げさに旅立ちを見送らなくても。


 ツーリング・リーダーは、今回の旅では持ち回りですることにした。一日目は、オレ。

 でも、実際に「リーダー」を任されて、以前ソニアが「オレは情に拠るタイプ」って言った意味が、少しわかったような気がする。

 武田や飯塚といった〝理〟のタイプなら、距離や時間、燃費効率などの「効果」を念頭にツーリングスケジュールを組むだろう。飯塚が向こうの戦争で、兵士に「休め!」って言ったのも、兵士の疲労度を配慮し(おもんばかっ)て、というよりも、「疲れ切った兵士など役に立たない」という、合理的な判断の(もと)で、だ。ただそれが〝情〟の判断と一致する、というだけで。

 オレの場合、「疲れたのなら休もう」。そう短絡して結論を出してしまう。それが良い場合もあるけど、問題が生じる時もある。例えばそうやって休憩を多くとり過ぎた結果、予定時間に今日の宿泊予定地(キャンプ場)に辿り着けなかったら?

 ……『倉庫』で休憩し、外界では夜通し走る形で二日目に突入すればいい。


 それが、オレたちが「高校生」である意味でもある。

 向こうの世界の冒険者、将軍や軍師などとは違い、『失敗してもやり直すチャンスがある』のだから。

(2,905文字:2019/08/31初稿 2020/04/30投稿予約 2020/06/24 03:00掲載予定)

【注:違法無線の取り締まりの強化等により、高出力違法無線機を積んだトラックは絶滅状態だそうです。というかそれ以前に、スマホが万能過ぎて無線自体搭載していないトラックが増えているのだとか。けれど今なおライダーにとっては「近くにトラックがいる(イコール)無線が届かない」とイメージしてしまいます。

 同じく、バイク用のカーナビの精度が低いというのも、このバイクショップの店員の主観的な感想です】

・ 柏木宏「山中のキャンプ場で、マグロの解体ショーだのブタの丸焼きだのをやる女子高生なんかが出没したら、一気に都市伝説になりそうだ」

 武田雄二「山中で〝都市〟伝説とは、これ如何に?」

・ 水無月美奈「『そして、マタタビに』?」

 仔魔豹たち「にゃー、ニャー!」

 飯塚琴絵「はいはい、皆、ご飯ですよ?」

 飯塚翔「こ、コイツら魔性どころか野生まで捨て去りやがって」

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおよそマスツーリングでこうあって欲しい事を網羅していて安心しかないですw 何処を走ったか想像するのもまた楽し。京都に2泊行程なら国1使わずに行ってもいいなぁ。 [気になる点] 緊急回避で…
[一言] ツーリング心得の条そのよん:バイクで大気圏突入はやめましょう 「「「「「「出来るかっ!!」」」」」」 暴走族>今だと珍走団でしたっけ? こぬこ「なんだ、琴絵ママ以外のご主人様なんていない…
[一言]  なんか行軍と書きそうなツーリングだなぁ?
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