後付けの理由だろうと、それっぽければいいんじゃねーの?
「じゃあ話すけど……でもその前に。アリサ様、本当にあんな奴の話を聞きたかったんですか? ダンジョンの入り口を石で塞いで自分の目的に誘導しようとするとか、どう考えてもまともな相手じゃないですよね?」
「む? いや、それはそうなのだが……」
至極真っ当に聞こえるリナの問いかけに、しかしアリサが微妙に顔をしかめる。すると横にいたロネットが、アリサの代わりにその口を開いた。
「ほら、私達少し前に、王都や学園で沢山の人のお願いを聞いて回ったりしましたよね? あの時の相手もあんな感じの人が多かったので、今回もそうじゃないかと思ったんですけど……」
「あっ!? あー…………」
「ははは。なるほど、そうきたか」
その意見には、俺もリナも思わず苦笑いだ。確かにサブクエに関わるキャラの言動って、大抵唐突かつ理不尽、あるいは非常識だもんなぁ。実際俺もあの大男の態度は理不尽だと感じてはいたものの、もしリナが「これはあのサブクエね!」とか言ってたら、そういうもんだとすんなり受け入れてただろうし。
「えっと、確かにそうかも知れないけど、でもアイツは違うのよ! 少なくともアタシは知らないから、ただの変な人だと思うわ」
「そうなのか? 正直私にはその違いがわからんのだが……まあいい。ではリナは単にあの男が無礼な不審者だったから話に乗らなかったということか?」
「あの、アリサさん? 無礼な不審者の時点で、話に乗らないのは当然では?」
「……そうだな? 確かにそうだ。ではこの話はこれで終わりか。すまんなリナ。手間を取らせた」
「いや、その、いいんですけど……むぅ」
アリサが謝罪したことで会話が終わり、何とも言えない微妙な空気が辺りを満たす。ならまあそれでもいいんだが、俺としてはもうちょっと気になることがあるので、ここは話を続けさせてもらおう。
「なあリナ、あいつがゲーム……俺達の知ってる感じの奴じゃなかったとしても、最強武器ってのは割と興味があったから、話くらいは聞いてもよかったんじゃねーか?」
「っ!? そう、それよ! アタシはそっちの話がしたかったの! で、アタシの意見なんだけど、まず前提として、『本当の最強武器』は絶対手に入らないと思うのよ。だってあれ、ある場所が……ねえ?」
「あー、そりゃまあそうだろうな」
プロエタにおける最強武器は、その全てが裏ダンジョンである「絶望の逆塔」にある。なので当然この近くにそんなものがあるわけがないし、誰かが手に入れて持ってきたというのも考えづらい。あのダンジョンの中にいる雑魚は、普通に魔王より強いしな。
「でしょ? まあそれでもあのオッサンが考える『最強武器』が存在する可能性はそれなりにあると思うけど、そこにも問題があるの。得られる報酬は、多分それを得るのに相応しい試練とセットなのよ。ほら、バランスって大事でしょ?」
「ふむ?」
「えっと……?」
「あっ」
アリサとロネットが微妙に首を傾げているなか、俺だけはリナの言いたいことがわかって小さく声をあげる。
ここは「プロミスオブエタニティ」というゲームを元にした世界であり、ゲームにはバランスが大事だ。五〇レベル相当の武器があるのは五〇レベル相当の能力がなければ辿り着けない場所であり、もし万が一、本当に「最強武器」があるのだとしたら、今の俺達にとっては自殺と同義になるほど難易度の高い場所ということになるのだ。
「わかりやすく言うと、強い武器ほど強い魔物や凶悪な罠が守ってたりするってことよ。だからあのオッサンが言う『最強武器』が言うほど大した物じゃないならわざわざ行く必要がないし、逆に本当に強い武器だったら、準備もなしにそれがある場所に飛び込んだりできないと思ったの。
あるいは丁度いい強さの場所に、丁度いい強さの武器があったかも知れないけど……」
そこで一旦言葉を切ると、リナが拳を握って振り上げる。
「そんなところ攻略してたら、夏が終わっちゃうじゃない! ただでさえ一ヶ月しかないのに、ここで別のダンジョン攻略に一〇日とかかけてたら、海にいく時間がなくなっちゃうのよ!」
「……つまりリナは、海に行きたかったからあの男の話を断ったということか?」
「はっ!?」
最後の最後で本音がダダ漏れになってしまったリナにアリサがジト目を向け、それに気づいたリナの額から滝のように汗が流れ始める。そっと視線を俺の方に向けてきたが、そんな目をされても……ハァ、仕方ねーなぁ。
「まあまあ、アリサ。俺達が一緒のパーティを組んで、初めての長期休暇だろ? よくわかんない奴の変な誘いに乗るより親睦を深める方を優先するのは、そう悪い判断じゃねーと思うぜ?」
「シュヤクー! そうそう、そうなのよ! アリサ様ならわかってくれますよね? ロネットも! ね? ね!」
「フフフ、そうだな。私とて皆と海に行くのを楽しみにしていないわけじゃないんだ。そもそも本当に海があるのかどうかすら未だに半信半疑ではあるが、だからこそ期待もしている」
「それに休みがあけたら、ドラゴン装備を揃えるんですよね?」
「おう、そのつもりだぜ」
夏休みが明け、メインダンジョンを三〇階まで攻略したら、俺達は「火竜の寝床」のレッドドラゴンを周回するつもりでいる。あそこでウロコを大量ゲットして、全員分の装備を調える予定なのだ。
何せあれはいいものだからな。その頃ならレベル的にも丁度いい相手になってるだろうし、そもそも元は一限……一つしか手に入らないはずの武具だからな。性能は折り紙付きなので、あれがありゃ半端な装備なんてそれこそ出番がないだろう。
「なら確かに怪しい誘いに乗る必要は、私もないと思います。いつでもいいというのならともかく、今すぐでなければ駄目というのも……」
「選択を急がせるのなんて、詐欺の常套手段じゃない! だからこれでよかったの! ふーっ、やっとアタシの正しさが証明できたわ!」
「だな。即興で考えたにしちゃ納得の理由だ」
「でしょー? アタシにかかればこんなもん……ちょっ、何てこと言うのよシュヤク!」
「痛い!? 痛いから叩くなよ!?」
「ギニャー! クロが頑張って罠を解除してるのに、どうして皆で楽しくお喋りしてるニャー!」
と、図星を突かれたリナが俺をポコポコ叩いているところに、別の声が飛んでくる。振り向けばそこには尻尾をブワッと膨らませてご立腹なクロエの姿があった。
「お、クロエ。終わったのか?」
「お疲れ様、クロちゃん」
「そうだニャ! 凄く疲れたニャ! なのに何で皆は遊んでるニャ!?」
「いや、別に遊んでいたわけではないぞ? 罠があるのでは動くこともできんから、先ほどの男のことについて話をしていただけだ」
「そうですよクロエさん。ほら、お疲れならサバクッキーをどうぞ」
「それはもらうニャ! フニャー、サクサクでウマウマニャー」
ロネットからクッキーを受け取り、クロエの機嫌が一瞬で直る。単純と言ってしまえばそれまでだが、この前向きさと切り替えの早さは間違いなくクロエのいいところだ。
「それでクロエ、奥の様子はどうだったんだ?」
「もぐもぐ……ひとまず見えるとこだけ調べたけど、結構な数の罠があったニャ。あれ全部解除するのは相当面倒くさいニャ」
「ふむ。ならば発動させないように進むのか?」
「クロ達だけならそれでもいけると思うニャ。でもあのおっちゃんを連れて行くなら、ちゃんと解除した方がいいニャ」
「そうですね。ヘンダーソンさんに罠を発動させないように動いてもらうのは、ちょっと難しい気がします」
「あと、通路の奥にチラッと何かが動いてるのが見えたニャ。間違いなく魔物もいるニャ。戦闘になったら危ないから、やっぱりある程度は解除しといた方がいいと思うニャ」
「そっか。なら悪いけど、もうひと頑張り頼むぜ?」
「まったくシュヤクは仕方ないニャー。でもクロは頼りになるから仕方ないニャー。あー、仕方ないから頑張るニャー」
「わかったわかった。ちゃんと俺からもサバ缶をやるよ」
「やったニャ! やる気一〇〇倍ニャ!」
俺の言葉に、クロエが嬉しそうにはしゃぐ。そのまま踊るように作業を終えれば……さあ、次は俺達の出番だ。





