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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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その執念はもうちょっと隠そうぜ?

 また少し時が流れ、八月一日。夏休み初日に俺達がしたのは、当然海イベントの起点となる「謎のダンジョンを調査せよ!」のクエストを受けること……ではなく、超レア後援者であるヒンダー・フンダー・ヘンダーソンさんと面会することだった。


 理由は言うまでもない。「夢にまで見た水着が手に入るのに、その前に海に行ってどうすんのよ!」とリナが力説したからだ。


 現実なら別に何回だって海に行けばいいんだろうが、ゲームだとイベントは毎年一回しかなかったからな。何か不思議な力で二回目以降が阻止された場合、来年までおあずけでは理性が保たない、「翼をください」をBGMに槍を片手に踊り狂うとか訳のわからんことを言われたら、こっちを優先せざるを得なかったのだ……いやまあ、別にいいんだけどさ。


「いやー、まさか自分にお声がかかるとは! 正直意外でした」


 ということで、王都にある討魔士ギルドの一室。部外者を学園に招くのは手続きが面倒だったので借りた一室に姿を見せたのは、芥子色の作業服っぽいものに身を包んだ、微妙に冴えない三〇代後半くらいのオッサンであった。


「初めまして、ヘンダーソンさん。俺達は王立グランシール学園の一年生で、俺はこのパーティのリーダーをやってるシュヤクです。本日は宜しくお願いします」


「こちらこそ宜しくお願いします」


 長方形のテーブル、その横長の方に座った俺が皆を代表して挨拶をすると、正面に座るヘンダーソンさんもそのままぺこりと頭を下げる。ちなみに俺の左右にはリナとロネットが座っており、アリサとクロエは更にその横、縦に短い部分の椅子に座っている。


 当然だが、モブロー達の姿はない。後援の申し出を受けたのはあくまでも俺達のパーティだからな。事実上合併しているようなものであっても、一パーティ五人という縛りがある以上、こういうときは別枠、別行動になるのだ。


 それとリーダーがアリサではなく俺なのは、貴族であるアリサだとヘンダーソンさんが気を遣うのではないかという理由からだ。ヘンダーソンさんが後援を申し出たのはガーランド伯爵家ではなく、あくまでもグランシール学園の生徒であるというのをアピールするためでもあるらしい。


 ま、その辺の判断はアリサやロネットに任せておけば問題ないので、俺は頼まれたらこうして真ん中に座るだけである。お飾り上等、それで話がスムーズに進むなら願ったりだ。


「にしても、本当に驚きました。他にも有力な方がシュヤクさん達を後援したいと申し出ていると聞いておりましたから……正直何故自分が選ばれたのか、今でもちょっと不思議に思ってるくらいです」


「ははは、そう謙遜しないでください。未知の遺跡の探索は、十分に魅力的な報酬だと思いますよ?」


 謙遜するヘンダーソンさんに、俺は笑顔でそう伝える。そう、他の多くの後援者がお金やアイテムなどを出資してくれているのに対し、ヘンダーソンさんが俺達に提供してくれたのは、手つかずの遺跡の調査を任せるという権利であった。


 つまり後援とは名ばかりで、実際の支援は出来高後払い。しかも危険を冒すのは俺達なので、ヘンダーソンさんが俺達に提供するのは、実質情報のみ。


 確かに普通なら、こんな条件の相手を選ぶことなどない。とはいえ「実はお宝があると知っているから選んだ」などと言えるはずもなく、適当にいい感じの誤魔化しを口にした俺に、ヘンダーソンさんは軽く苦笑しながら首を横に振る。


「いえいえ、それは……この際なので正直に言いますけれど、未知の遺跡の調査というのはほぼ儲けにならないのです。事情を知らない方はお宝がザクザク、という印象を持たれますけど、実際に見つかるのは食器の破片とか本の切れ端とかの、歴史的、資料的な価値はあるけれど金銭的な価値はないものがほとんどですからね。


 それに交通費くらいはともかく、支度金などを出せる余裕もありません。その辺も踏まえると、『遺跡内部で見つかった金銭的価値の高いものの所有権を全て譲渡する』という条件では、一般の討魔士の方は依頼を受けてくれないのですよ」


「あー、それはまあ……」


 その言葉に、今度は俺が苦笑を浮かべる。たとえばもし社畜時代の俺が「工賃どころか着手金すらもらえないけど、完成したアプリの販売実績に応じてロイヤリティがもらえるから、とりあえず無給で頑張って!」なんて仕事を振られたら、それを取ってきた営業を思い切りぶん殴ることだろう。


 だがこれが学生となれば話は違う。大学のサークルに同じ話が持ってこられたならば、「実務経験もつめるし成功すれば儲かりそうだし、失敗しても損するわけじゃねーなら、面白いから受けてみるか?」という風になる。


 それこそが社畜と学生の違い。それを理解しているからこそ、ヘンダーソンさんは学生でありながら目覚ましい活躍をした俺達に「後援」という名を借りた依頼を持ってきたのだ。そして俺達は、表向き「よい経験が積めるから」という理由でそれを受けた。まさにWin-Winの関係ってやつだな。


「それでヘンダーソンさん、その遺跡について、もう少し具体的なお話を伺っても宜しいですか?」


「あ、はい! 勿論です!」


 隣に座っていたロネットが問うと、ヘンダーソンさんが遺跡について語り始める。それはリナから事前に聞いていた情報がほとんどだったが……


「実は少し前から、遺跡の周辺で変な人を見かけるんです」


「変な人、ですか?」


「はい。てっきりその人も例の遺跡を見つけたんだと思ったんですが、念のため調べてみると、誰かが入った様子もなく……でもどういうわけか、遺跡の周辺にずっといるんですよ」


「それは確かに変ですね……?」


 ロネットの視線が、チラリと俺達の方に向く。だが俺は当然心当たりなんてないし、リナもまた軽く顔をしかめて小さく首を横に振ったので同じだろう。


「念のため聞くが、単に近くに住んでいる者とか、何らかの依頼を受けた討魔士が活動しているとかではないのか?」


「討魔士の方か確認はできないですけど、人里からは大きく離れた場所ですから、近隣住民というのは考えづらいかと」


「何で確認できないニャ? どうしてこんなところにいるのか、普通に聞いたらいいニャ」


「私もそうしようと思ったんですけど、こちらが声をかけても『自分のことは気にするな』の一点張りで……そうなるとそれ以上追求するのも難しいですし……」


「あー、それは確かに」


 私有地とかならともかく、外にただいるだけの人を「何者だ?」と問い詰めるのは筋が通らない。それを言うならヘンダーソンさんだって、事情を知らない者からすれば「何もない場所にちょこちょこ顔を出す変な一般人」になるだろうしな。


「うーん、誰がいるのかわかんないけど、とりあえず言ってみるしかないんじゃない? 気にするなって言うってことは、いきなり襲いかかってくるわけじゃないみたいだし」


「そうですね。さんお……コホン。貴重な学園外での実戦経験を積む機会ですし、そのくらいのアクシデントは十分許容範囲内だと思います」


「そうよね! みず……ほら、古代遺跡の調査は学術的にも意味があることだし、きっといい勉強になるわよ!」


「…………」


 と、そこで左右から聞こえてきた実に白々しい台詞に、俺は思わず真顔になってしまった。しかしそんな二人の真意など知る由もないヘンダーソンさんは、嬉しそうに顔をほころばせて二人に声をかける。


「おお、わかっていただけますか! そうなんです。たとえお金にならなかったとしても、過去の歴史を紐解くことにはお金以上の価値があるんです! やっぱりエリート校に通う優秀な学生さんは、そういうのを理解してくれるんですね」


「…………まあね!」


「あはははは……」


「私は普通に興味があるな。今から楽しみだ」


「クロはサバ缶が食べられたらどうでもいいニャ」


「ならまあ、興味がある奴が過半数ってことで。ヘンダーソンさん。その依頼……じゃない、後援の申し出、確かに承りました。改めて宜しくお願いします」


「こちらこそ、宜しくお願いします」


 俺が伸ばした手を、ヘンダーソンさんがガッチリと掴んでくる。こうして俺達の契約はなり、すぐに目的地へと旅立つ準備を整えることとなった。

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