誰だって腹に一物くらい抱えてるもんだ
途中から三人称になります。ご注意ください。
「それじゃ、ひとまずは今週末までってことで」
「了解ッス!」
それからしばし経った、六月の下旬。モブローとの交渉の末、俺達は初めてのパーティメンバーの交換を行った。俺としては三日くらいにしたかったんだが、モブローの「それじゃ短すぎるッス! 授業もあるんスから、正味三日じゃ何にもわかんないッス!」という至極まっとうな意見を否定することもできず、結果として今日を含めた一週……つまり五日で妥協した形だ。
「ねえロネット、本当に平気? 今からでも『やっぱやーめた!』ってしない?」
「ふふ、平気ですよモブリナさん。しっかり準備は済ませましたし、モブリナさんにも色々教えてもらったじゃないですか」
「うぅぅ、そうだけどー」
「そのくらいにしておけリナ。いつまでもお前がそれでは、ロネットが落ち着かんだろう?」
「そうだニャ。いい加減離れるニャ」
「あうーっ!」
「それじゃ行ってきますね」
ロネットに抱きつくリナをアリサとクロエが引き剥がし、ロネットがモブローの方に歩み出る。それと交換にこっちにやってきたのはセルフィだ。純粋な検証としてはオーレリアの方がよかったんだが、連携を深めるという表向きの建前からすると、超火力で焼き払うより回復しながらじっくり戦う方が理に適っているのだから、これは仕方ないだろう。
「初めまして。私は創造神エタニア様にお仕えする神官で、セルフィと申します。短い間ですが、どうぞ宜しくお願い致します」
「私はアリサ・ガーランドだ。ガーランド伯爵家の者だが、学園で……ましてや神官の前で身分をどうこう言うつもりなどない。気楽に接してくれ」
「クロはクロだニャー。とりあえずお友達から始めたいニャー」
「アタシはモブリナよ。宜しくね、セルフィ……あの、あとで膝枕してもらってもいい? ハァハァ」
「いきなり飛ばしすぎだろ馬鹿! 俺はシュヤクだ。こっちこそ宜しくな」
初手から欲望がダダ漏れになっているリナの頭を引っ叩きつつ、俺達はそれぞれ挨拶を交わした。ふむ、普通に会話は成り立ちそうだな。ならこっちはどうにでもなりそうだが……
(気をつけろよ、ロネット)
モブローと共に歩き去ってくロネットの背を見つめ、俺は無言でそう思いを込めるのだった。
(少なくとも、仲間と認識された時点で意識が改変されるということはないみたいですね……)
そうしてシュヤク達と別れた後。モブロー、オーレリアと共に町を歩くロネットは、ちゃんとモブローのことを警戒できていることに、内心でホッと胸を撫で下ろしていた。
無論自分の正気を肯定してくれる存在がいないことには強い不安を感じているが、今のロネットを突き動かすのは、もっと別の気持ちである。
(この調査を成功させるのは、今後も私がみんなと一緒に活動し続けるのに絶対必要なことです。頑張って成果を出さないと)
ここ最近、ロネットはパーティ内における自分の立ち位置を微妙だと感じていた。
誰も明言せずとも誰もがパーティの要だと思っているシュヤクや、能力的にはやや劣るもののシュヤクと同じ秘密を抱え、誰も知らない重要な情報を大量に抱えているモブリナが代えの利かない人物であることは言うまでもない。
それに常に前衛で皆を守ってくれているアリサや、斥候として優れた能力を発揮しているクロエもまた、パーティに対する貢献度が高い。シュヤクやモブリナと違って絶対に代わりがいないわけではないが、あえて同じ事ができる別人に代える意味などないのだから同じ事だ。
だが自分は? そう考えた時、ロネットは自分の能力が実に中途半端であることを常々自覚していた。特に今回、オーレリアとセルフィという現在自分が担っている回復、あるいは属性攻撃手段のスペシャリストが現れたことで、自分の経っている場所に二人のどちらかが入ったならば、もう自分が皆と一緒にダンジョンに潜る機会はなくなるのではないかというのが、ロネットが最近抱いている危機感だ。
勿論実際には皆同じメインヒロインであり、ロネットにはロネットの強みがある。成功判定が魔法とは違う独自のポーションを使うことや、中盤以降充実する消耗品の効果や範囲を広げられたりと使い方を選べば普通に有用なのだが、自分がゲームキャラとしてどんな活躍方法を想定されているかなどロネット本人が知る由はない。
加えて現実であれば大きなアピールポイントである「お金持ち」という要素を、シュヤク達は全く活用しない。何故ならゲームでは仲間のキャラにお金持ち設定があったからといってパーティの活動資金が増えるわけではないし、ロネットがいる時だけ特別待遇とか、そんなシステムはなかったからだ。
(最初は都合のいい財布として利用されるのを懸念してましたけど、まさかここまで金銭的に頼られないというのは逆に思いませんでした。なら私はそれとは違う強みを磨かないと……)
ロネットが考える自分の強み、それは父に鍛えられた交渉術や、その人脈を生かした情報収集などだ。ゲームでならシナリオやシステムに組み込まれていない限り生かしようのない能力は、しかし現実なら武力より強い力となる。
それを見せつけ結果を出し、皆に認めてもらう。いつか戦力的に足手まといになったとしても、単なる傍観者ではなく、皆を支えられる仲間になる。それこそロネットが誰にも明かさなかった、この調査に立候補した裏の……そして一番の目的であった。
(さて、情報を集めるためにも、まずは打ち解けないとですが……)
「デュフフフフ、オーレリアとロネットで、ダブルロリっ子を一度に堪能できるとは! やっぱりプロエタはサイコーッスね」
「……モブロー、キモい。あと私はロリじゃない。ちょっと小柄なだけ」
「いやいや、オーレリアは十分にロリッスよ! 大人っていうのは、セルフィみたいにボインボインの人のことを言うんス!」
「モブロー、サイテー」
「ぐはぁ!? 相変わらず凍り付くような目つきがたまらないッス!」
「……お二人は、本当に仲がいいんですね?」
最初は女同士ということもあり、オーレリアから話を聞こうと思っていたロネットだったが、オーレリアとモブローの会話がずっと続きそうな感じがして、ひとまずそこに自分も混じっていく。すると振り向いた二人のうち、まずオーレリアがロネットに答えた。
「別に仲良くない」
「またまたー! 自分とオーレリアはそりゃあもう仲良しッスよ! だからこーんなエッチなことをしたって……痛い!?」
お尻に伸びたモブローの手を、オーレリアがぴしゃりとはたく。するとモブローは目に涙を浮かべながら手をヒラヒラさせた。
「何するんスか! 痛いッスよ!」
「見ての通り。こんなのを野放しにできないから、私が見張ってるだけ」
「こんなのとは酷いッス! 自分傷ついたッス!」
「知らない。甘やかすセルフィがいなくなった分、ビシビシいく」
「はうっ!? オーレリアにビシビシされるッスか!? それはそれでゾクゾクしちゃうッス!」
「……本当にモブローはどうしようもない。ロネットもモブローを甘やかしたら駄目。今のうちに言っておく」
「あはははは……」
そのやりとりに、ロネットは呆れたような困ったような笑い声で答える。こうして見る限りでは、本当にただの仲良しカップルにしか見えない。
それにモブローに対する嫌悪感が、思ったほど……いや、驚くほど少ない。ただ話に聞いただけのモブローの態度なら張り付いた笑顔でやり過ごすだろうに、今のモブローであれば、自分もまたオーレリアのように苦笑交じりで対処できる気がする。
(モブローさんは、何処かモブリナさんと同じ空気を感じるんですよね。そのせいで警戒が甘くなってるんでしょうか?)
詳細はわからない。だがロネットの脳内に、警鐘は鳴っていない。同性と異性では同じ事をしても全く違う意味合いになるはずなのに、その事に意識が向かない。
「さ、それじゃ自分達もメインダンジョンに向かうッス! あ、それとも自分の部屋に来て、みんなでフィーバーするッスか?」
「ふぃ、フィーバーですか? それは一体……?」
「モブローの言うことを、いちいち真に受けていたらきりがない。ほら、さっさとダンジョンに行く」
「うひー! わかった! 行くッスから、叩かないで欲しいッス!」
「ふふ、初めてのダンジョン、頑張りますね」
オーレリアの持つ杖でボコボコ叩かれ、モブローが悲鳴をあげる。そんな様子に見慣れた仲間達の姿を重ねて苦笑すると、ロネットもまた足並みを揃え、皆で揃って『久遠の約束』へと歩いて行くのだった。





