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明日も会社って晩に水元が来たのは、はじめてだ。
一枚だけ置いてある着替えは、カジュアルとビジネスの中間くらいだから、大丈夫らしい。
「今日、生田さんと戦ったんだって?」
風呂上りに髪を拭いていたら、興味津々の顔がこちらを向いていた。
「戦ったって程じゃないよ」
「結構な剣幕だったって聞いたよ?野口のこと、庇ったんだって?」
別に野口さんを庇ったわけじゃないんだ。
「まさか長谷部君が、つわりがどうのって戦うとは思わなかったわ」
つわりがどうの……確かに、はじめの話はそれだったけど、内容まで伝わるものなのか。
会社の中の情報は、異様に早い。
「野口の仕事は信用できるもんねえ。でも、そこまで買ってるとは思わなか……」
「水元だったらと思っちゃったんだ」
野口さんのために生田さんに言い返したわけじゃない。
水元もあんな風に評価されるのかと思ったら、我慢がならなかった、それだけだ。
「私?」
聞き返されて、言葉に詰まった。
言葉が上手く扱えない俺は、その時の感情の説明ができない。
「もしも水元が同じ状態になったら、今までの努力とか実績を認めないような」
一回切って次の言葉を探すのを、水元は黙って待っていた。
「そんなに肩凝って、派遣社員の分まで頭下げて、それなのに妊娠したら使えねえ、なんて」
ああ、ダメだ。こんなんじゃ意味が通じない。
水元が下を向いたので、ひどく驚いた。
「どうした?何か悪かった?」
そう言ったら、今度は腕がふわりと首に巻きついた。
「ばか」
その言葉の響きは、今までに聞いたどの「ばか」より、優しい。
「長谷部君は、そうやって守ってくれるんだね。すごくまだるっこしくて、わかりにくい」
巻きついた腕に、力が入った。




