034 油断していたら絶体絶命のピンチを迎えてしまいました
『キキキェェェ……!!』
断末魔の叫びを上げるブレインバット。
ボンッという音がして消滅した後に残ったのはノーマルドロップアイテムの『尖った牙』です。
「た、倒せた……けど……」
『ニク……ニンゲンノ……ニグゥ……』
床に這いつくばったままにじり寄って来るもう一方のモンスター。
もうこれ陰陽師協会の人とか呼んだ方が良いんじゃ……。
『! ユウリ! 油断していたら駄目ニャ!!』
「……ほえ?」
『ゴバアァ!!!』
「うぎゃあぁぁぁぁ!! な、何か吐いてきたあああぁぁぁ!?」
信じられないほどのスピードで急に立ち上がったシャドウロバースは口から真っ赤な液体を私に向かって吐き出してきました。
え? 吐血? 死にかけてる?
ていうかAGIが1なんじゃなかったんかい!! このスピードは一体何なのよ!!
「……あれ、でも全然痛くないけど、なんか視界が悪くなってきた気がするし、それにやたらとベトベトした血で身動きが……?」
『まさか……ユウリ! 自分のステータスを確認するニャ!』
脳内でミーシャに叫ばれ、私は慌てて右手を胸に当ててステータスを表示します。
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【Rare】 N 【Name】 ミーシャ・レオリオン 【AB】 神 【SL】 57/100
【AT】 近距離攻撃型 【CH】 猫に小判とマタタビを
【ADT】 祖父の形見の猫爪 【DDT】 獣人族の軽装
【HP】 107(-1)/148(-50%) 【SP】 18(-21)/40 【MP】 24/25
【ATK】 61/75 【DEF】 11/13(-50%) 【MAT】 13/15 【MDE】 8/10(-50%)
【DEX】 80/100 【AGI】 84/113(+125%)『鈍足』 【HIT】 17/20『暗闇』 【LUC】 10/13
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「ええと……ブレインバットを倒してスキルレベルが53から57に上がって……。HPとDEFとMDEの最大値の-50%は窮鼠猫を噛むを使用した時のマイナス補正だからすぐに猫も杓子もを使って解除するとして……。あ、でも『全てのステータス補正を解除』だから、獣人の脚力強化のプラス補正も解除になって……アカン、もう目が痛い……」
『そこじゃ無いニャ! AGIとHITをよく見るのニャ!』
「AGIとHIT……? ……あっ」
AGIの項目に『鈍足』。そしてHITの項目に『暗闇』の文字を確認しました。
ええと、確か『鈍足』は徐々にAGIが減少する状態異常で、同じく『暗闇』も徐々にHITが減少する状態異常……。
…………うん。
「ヤバいやん!!! 早く回復させないと私もあのゾンビみたいに足が遅くなっちゃう!!」
『ユウリは俊足剤と点眼剤は持っているかニャ……?』
「持ってるわけないでしょうが! 持ち物は全部あの盗賊に奪われちゃったし……!」
私は頭を抱えてその場に蹲ります。
アカン。まさかの絶体絶命。
その間にもシャドウロバースは一歩、また一歩とずるりずるりと近づいてきます。
『回復剤が無いのであれば、ここで時間を浪費していてもどんどん不利になるだけニャ。ユウリの残りSPはあと18だから、先に猫も杓子もを使ってステータス補正を解除させて、残りSPが8……。そうなると現時点で使えるスキルは消費SPが5のピリピリとした爪の傷跡と防具スキルのどれかの組み合わせか、それとも他のスキルを一度だけ使用できるかの二択になるニャ』
「どどどどうしよう……!! あのお化けDEFが198もあって硬いから、通常の攻撃だとまたダメージが通らないよ!」
『クワセロ……。アタマカラ……マルカジリ……』
「なんかさっきから怖いことばっか呟いてるし!! もうでも猫も杓子もは使わないといけないから使っちゃうよ……!」
私は後ずさりしつつSPを10消費させて猫も杓子もを発動しました。
全身を緑色のオーラが包み込み、全てのステータスの補正が解除と共に状態強化の『強運』が付与されます。
でもその間にもどんどんAGIとHITが減少していきます。
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【Rare】 N 【Name】 ミーシャ・レオリオン 【AB】 神 【SL】 57/100
【AT】 近距離攻撃型 【CH】 猫に小判とマタタビを
【ADT】 祖父の形見の猫爪 【DDT】 獣人族の軽装
【HP】 213(-1)/295 【SP】 8(-31)/40 【MP】 24/25
【ATK】 61/75 【DEF】 22/26 【MAT】 13/15 【MDE】 16/20
【DEX】 80/100 【AGI】 65(-2)/90『鈍足』 【HIT】 15(-2)/20『暗闇』 【LUC】 11(+1)/13『強運』
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「どうするのミーシャ……? また獣人の脚力強化とピリピリとした爪の傷跡を発動して出来るだけダメージを受けないようにするの?」
両方使えば消費SPはぴったり8。
でもシャドウロバースを倒す方法が見つかっていないから、どうしようもない。
『……いや、使うのは獣人の脚力強化だけで良いニャ。【闇属性ダメージ回避】と【強運】があれば、まだどうにか攻撃を回避し続けることが可能だと思うニャ』
「じゃあやっぱりスキルレベルを上げてアーマースキルを解放していくしか道が残されていない……?」
あとスキルレベルが3上がれば六つ目のADTとDDTのスキルが解放されます。
それが一体どんなものなのかは現時点では分からないけれど、そこに賭けるために少しでもSPを温存しておくしか方法が無さそうです。
――ここにきて、ようやく私は思い知りました。
今までのシャーリーさんとの生活が恵まれ過ぎていたのだということを。
ウガン渓谷でボスを倒してちょっとだけ天狗になっていたのかもしれません。
死、というものが目の前にちらつき、気持ちは焦るばかりです。
でもここでミーシャと共に生き抜かないと、みんなを悲しませてしまうから。
「……よし。覚悟はできた。行くよ、ミーシャ」
『大丈夫。きっと私達は勝てるニャ。ユウリは強い女ニャ』
彼女の心強い言葉を聞き、私はシャドウロバースに立ち向かいました。




