022 脳内が賑やかすぎてぜんぜん落ち着きません
鮮やかな色の曲線が脳内に描かれ、それらがやがて螺旋状に絡み合います。
シャーリーさんと違って、セフィアは脳内の色のイメージが赤が多い気がします。
まあ人それぞれ自分の色みたいのがあるんだろうね。シャーリーさんは黒が多かったし。
絡み合った螺旋が増殖し、眩い光が差し込んできたので私はいつものようにゆっくりと目を開きます。
「……ん」
『……す、凄かった……。これが、合体、なの?』
私の脳内にセフィアの若く、活発な声が響き渡ります。
ああ……ついに私は二人目と合体をしてしまいました。
しかもまた女の子……。齢十六歳……。はぁ……。
『なに溜息なんて吐いてるのよ。それにあんたの心の声も駄々洩れなんですけど』
「はいはい。……口が悪いのは合体しても全然変わらないんですねーっと」
『聞こえてるんだけど! 小声で言ったって頭で考えてから喋ってるんだから、私に丸分かりに決まってるじゃない。やっぱ馬鹿なの? あんた』
「『やっぱ』って何!? 『やっぱ』って!?」
脳内で怒涛の如く私をディスって来るセフィア。
でもまあ、さっきまでの緊張感みたいのが無くなったから、こっちのほうが彼女らしくて良いかのも知れません。
『それよりも、さっきのあんたのキス、あれ一体何? 私のファーストキスなんだから、もっといたわって――』
尚も延々と文句を言い続けているセフィアを一旦無視し、私は右手で自身の胸の上に手を置きました。
そして再びセフィアの行使者情報を浮かび上がらせます。
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【Rare】 HR 【Name】 セフィア・レッドアイズ 【AB】 火 【SL】 4/100
【AT】 攻撃魔術型 【CH】 この紅き眼の力にひれ伏せよ
【ADT】 蛇炎術杖 【DDT】 魔術礼装
【HP】 35/755 【SP】 15/87 【MP】 25/255
【ATK】 10/65 【DEF】 6/45 【MAT】 35/270 【MDE】 29/235
【DEX】 6/80 【AGI】 4/65 【HIT】 4/51 【LUC】 4/48
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「あれ? もう熟練度が4に上がってる」
まだ初夜を迎えた直後だし、愛の育みとかほとんど行っていないはずなんだけど……。
うーん、まあとりあえずシャーリーさんが危険だから、早く彼女の元まで駆け付けますか。
『ちょっと! あんた人の話聞いてんの?』
「聞いてない。もう行くよ。シャーリーさん待ってるから」
そう言い私は一歩前へ足を踏み出しました。
「ぎゃふん!」
そして一瞬ですっ転びます。
え? 今、何踏んだ?
『あーあ、あたしの話を聞かないからそういうことになるのよ……。その魔術礼装、動き辛いから、あのシャーリーって女との合体に慣れてたりしたら危ないかなーって思って忠告したのに』
「……そ、そういうことは早く教えてください……」
『だーかーら、教えたって言ったじゃない。でも可哀想だからもう一度言ってあげる。いい? 今度はちゃんとあたしの話を聞くのよ?』
私は右手に持っていた杖で身体を支えて起き上がります。
うーん、シャーリーさんとは勝手が違うから、確かにこれは慣れが必要かもしれない……。
『あたしは攻撃魔術型の行使者。あんたもさっきステータスを見たから分かると思うけど、MPやMAT、MDEの数値が高い代わりに、その他の数値は他のアーマータイプよりもだいぶ低いわ。それとドレスタイプが蛇炎術杖と魔術礼装。蛇炎術杖は火属性の攻撃魔法とそれに付随する状態異常なんかを覚えていくもので、言わなくても分かるでしょうけれど氷属性に対して強く出られるわ。それと魔術礼装はあんたもさっきすっ転んだみたいに動き辛い魔術服だから、攻撃の回避や瞬発力を必要とするスキルなんかには向いていないの。基本的に魔術師系の行使者って後方支援特化型だから、当然っちゃ当然よね。どう? 覚えられた?』
私の脳内にセフィアの得意げな様子が浮かび上がってきます。
くそぅ……。さっきまで顔を真っ赤にしてヒーヒー言ってたくせに……。
この戦いに無事に勝利できたら、覚えておけよ……。
『な、何よ……。せっかく人が親切に教えてあげたっていうのに……』
「うん。それは助かる。ありがとう。全然覚えられなかったけど、行こうか」
『……はぁ』
脳内で溜息を吐いたセフィアだったけど、私はそれを無視してドレスの裾をちょっとだけ持ち上げます。
そして転ばないように慎重に岩陰から抜け、シャーリーさんの居る場所まで駆けて行きました。
◇
『ギョギョエ!!』
上空で怪鳥がグルグルと周回してるのが見えます。
視界を元に戻すと、そこにはまだ藁人間が立っている姿も確認できました。
だいぶ全身がボロボロで藁とかが剥がれ落ちちゃっているけれど、まだもう少しは持ちそう、かな?
「無事、成功したようですね」
「うん。でもやっぱシャーリーさんと違って身体は重いし、動き辛いけど」
『う、うるさいわね! 仕方ないじゃない、そんなの!』
相変わらずギャーギャー脳内がうるさくてかないません……。
もう少しシャーリーさんみたいに癒される声で話してもらえないでしょうかね……。
「行使者情報はセフィアさんから教わりましたでしょうか?」
「うん。ある程度はね。でもあの怪鳥に勝てる気が全然しないんだけど……。あ、そうだ。一個だけ気になったんだけど、セフィアとの熟練度がもう4まで上がってたんだけど、これってどういうことなのかな」
私はシャーリーさんと一緒に藁人間の足元に隠れながら、上空の怪鳥の様子を伺いつつ質問します。
セフィアと合体できたのは良いんだけど、このままじゃいずれ怪鳥の攻撃の目標が私かシャーリーさんに移っちゃうだろうし……。
「やはりそうですか。セフィアさん、貴女は早熟型の行使者ですね?」
『え? う、うん……。まあ……』
シャーリーさんの質問に答えるセフィア。
早熟型ってことは、熟練度の上昇が普通の行使者よりも速いってことなのかしら……。
「行使者にも私のような大器晩成型に属する者もいれば、セフィアさんのような早熟型もいるというわけですわ。初めて彼女にお会いしたときから、そうだと思っておりました。……これで勝機が見えてきましたわね」
「勝機って……。セフィアのランクはHRだし、相手はSSRのボスだよ? いくら熟練度が上がりやすくたって、すぐに100になるわけじゃないだろうし、属性だって有利なわけじゃないし……。もう藁人間だってそんなに持たないんでしょ?」
「ええ。せいぜいあと二回、怪鳥の攻撃を受けるのが限界でしょう。しかしそれで十分です」
「??」
『ど、どういうことなのよそれ……』
私もセフィアもシャーリーさんの言っている意味が全く理解できません。
怪鳥とセフィアのステータスを見比べても、勝てる要素なんて一ミリも無い気がするんですけれど……。
『ギョギョギョエッ!!』
「……来ますわね。お二人とも、私を信じていただけますか? 必ずこの戦い、お二人を勝利にお導き致します」
そう言い切ったシャーリーさんに、私とセフィアが異を唱えるはずもありません。
――そして怪鳥が再び急降下してきたのを合図に、私達の死闘(?)が再開されました。




