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020 ごめんなさい、シャーリーさんが何を言っているのかさっぱり分かりません

『ギョギョエ、ギョギョエェェ!!』


 しばらく上空を迂回していた鵜飼怪鳥フィッシングバード藁人間ストローマンを目掛けて急降下してきます。

 私は神剣を構えたまま藁人間ストローマンの背後に身を潜めて反撃のチャンスを伺います。


『怪鳥が藁人間ストローマン下降攻撃ディセントアタックを仕掛けた直後、0.5秒以内に反撃カウンターが決まれば、そこでもATKボーナスが発生します。反撃ボーナスは1.5倍の威力になりますので――』


「ええと……神剣の天属性キラーで威力5倍、反撃ボーナスでさらに1.5倍だから……7.5倍!!」


 私がそう叫んだ瞬間、怪鳥の鋭いクチバシが藁人間ストローマンの腹部を貫きました。

 それとほぼ同時に私は神剣を突き出し、怪鳥の背中のド真ん中にそれを突き刺します。

 ドン、という派手な音と金色の数字で『235』という数字が眼前に飛び出し、たまらず怪鳥は再び上空へと避難していきました。


「おっしゃぁああ! クリティカルヒット!」


『お見事です、ユウリ。その調子で次のクリティカルも成功させていきましょう』


 シャーリーさんに褒めてもらい、俄然テンションが上がってきた私。

 やれる……! 相手がボスだろうが、SSRランクだろうが、シャーリーさんの指揮があれば私は無双できる……!!

 何をやっても中途半端で、大して仲の良い友達も出来ない、ニートでお調子者の私でも、こんなに活躍できるなんて夢のようです……!!!


「や、やるじゃないのあんた。もっとトロい女なのかと思っていたけど、度胸も据わってるし……」


「誰がトロい女じゃゴルアァァ!!!」


『ユウリ! 集中してください!』


「あっ」


 私が大声で叫んだ瞬間、怪鳥のターゲットが一瞬だけ藁人間ストローマンから私に変更されます。

 その直後、上空から鋭い棘の生えた羽が私目掛けて降り注いできます。


「あ、ぶ、なっい……つうの!!」


 まるでナイフのような羽が無数に降り注ぐも、私はそれを間一髪避けることに成功。

 ちょっとだけ掠ったけど、別に致命傷は受けていない――。


「……あ……れ……?」


 急に世界がぐるりと周り、私は片膝を突いてしまいます。

 え? なにこれ……。急に眩暈が……?


『これは……毒です! ユウリ! 解毒剤を!』


「解毒……剤……。あれ、どこに仕舞ったっけ……?」


『ギョギョエ!!』


 行使者アーマーの所持品欄を探そうにも、目の前がグルグルと回って上手くアイテムを取り出せません。

 その間にも上空の怪鳥は完全にターゲットを私に変更したようで、今にも下降攻撃ディセントアタックを仕掛けてきそうな勢いです。

 アカン……。ここ一番でいつもの調子に乗っちゃう癖が……。


『ギョエギョエ! ギョエエェェェ!!!』


『ユウリ! 避けてください!!』


「……へ?」


 怪鳥は鋭いクチバシを突き出したまま私に向かって急降下してきます。

 あ……やばい。死ぬ――。


ドンッ――。


「…………あれ?」


 怪鳥のクチバシに全身を貫かれたと思いきや、私は誰かに抱えられて河原に転がり込んでいました。

 上空に視線を向けると、何故か怪鳥はもう一度空へと舞い上がっているみたいです。


「……あ、あんた、馬鹿!? もう少しで死ぬとこだったのよ!?」


「あ。中二病少女」


 私に覆いかぶさるように居たのは、あの中二病の少女でした。

 どうやら彼女は岩陰から飛び出して、私を抱えて怪鳥の攻撃を回避してくれたみたいです。


「ほら! 解毒剤! 飲みなさいよ!」


「うっぷ!?」


 強引に口に小瓶を突っ込まれ、一瞬吐き気を催します。

 でも飲み込んだ直後に眩暈が解消し、私は頭を振って身を起こしました。


『……間一髪でしたね。ありがとうございます、セフィアさん』


「べ、別にお礼を言われるようなことはしていないわよ……。あんたたちに死なれたらあたしが困るってだけだし……」


 シャーリーさんにお礼を言われ若干頬を赤くして照れている様子の中二病少女。

 ていうかこの解毒剤、クソまずいんだけど……。

 眩暈は解消したけど、ちょっと吐きそう……。吐く……。


「お……オエエェェ!」


「ちょ、あんた人の魔道服で……! いや、吐いた今!? え、嘘!? ちょっと、汚っ!! 信じられないんだけど!!」


「いって!? 今グーで殴ったっしょ、私の顔! 女の顔を殴るとか、頭おかしいんじゃないの!?」


「頭おかしいのはあんたでしょうが! この魔道服あたしのお気になのに、どうしてくれるのよ!!」


 私と中二病少女の怒号が舞い、辺りは騒然となります。

 ていうか、私怪我人なんだけど!

 毒のせいでHPも減ってるし、解毒剤を飲ませてくれたのは感謝するけど、クソまずかったんだから吐いたって仕方ないじゃん!


『……お二人とも』


「「ビクッ!」」


 私の脳内と中二病少女の耳にシャーリーさんの重低音の声が響きました。

 ……うん。怒ってる。これ絶対怒ってる声だ。


『ギョギョエ!!!』


 再び怪鳥が私に狙いを定めて急降下しようとしています。

 せっかく藁人間ストローマン作戦が上手くいっていたのに、私のせいで台無しになっちゃって……。

 そりゃさすがのシャーリーさんも怒るよね……。


『……やむを得ません、作戦を変更しましょう。ユウリ。私との合体メルトを解除してもらえますか?』


「え……? でもそんなことをしたら……」


『大丈夫です。私に一つ考えがあります』


 シャーリーさんにそう言われ、私はやむなく合体メルトを解除します。

 通常、クエスト中に合体を解除することは自殺行為と言われるんですが、一体シャーリーさんは何を考えているのでしょうか……。

 私は目を瞑り暗闇の中で立っていたシャーリーさんとそっと口付けを交わしました。

 そして直後、私の眼前に眩い光が照射し、私とシャーリーさんの身体が分離します。


「は、初めて見たわ……。合体した使役者と行使者が分離するところなんて」


 口を開けたまま驚いた表情をしている中二病少女。

 しかしこのままだと怪鳥が襲ってきたら三人とも一瞬でやられてしまうと思います。


「セフィアさん。一旦、藁人間ストローマンを藁人形に戻してもらえますか?」


「え? あ、うん。いいけど……」


 シャーリーさんの言葉通り、中二病少女は召喚していた藁人間ストローマンを藁人形に戻します。

 見る見るうちに小さくなっていった藁人間ストローマンは手のひらサイズ収まり、中二病少女はその藁人形を拾い上げます。


「怪鳥のターゲットは今現在、ユウリとセフィアさんになっております。つまり私であれば・・・・・その藁人形を再び使用し、藁人間ストローマンを召喚して、怪鳥のヘイトを集めることが可能というわけですわ」


「あ、なるほど。それでまた藁人間ストローマンにヘイトが集まっているうちに、もう一度私がシャーリーさんと合体メルトして、怪鳥にとどめを刺せば良いってことね?」


「ああ、そういうこと。だったら貴女に渡すわ、この藁人形」


 そう答えた中二病少女は藁人形をシャーリーさんに手渡しました。

 これで万事オッケー。

 あとはシャーリーさんが藁人間ストローマンを召喚して、もう一度彼女と合体メルトすれば――。


「いいえ。私とユウリが・・・・・・次に合体できるのは・・・・・・・・・94分後です・・・・・・


「…………はい?」「…………へ?」


 ――そして沈黙。

 上空を飛び回っている怪鳥の鳴き声だけがやたらとうるさいだけです。


「合体を一度解除してしまうと、熟練度に応じて再び合体するまでの合体予備時間クールタイムが発生してしまいます。熟練度が100で60秒。それ以下ですと熟練度が1下がる毎に1分ずつ加算されていきます」


「……ってことは、今私とシャーリーさんの熟練度は7だから――」


「――『94分』ってわけね。一体どうするのよ。そんなに長い時間、藁人間ストローマンも持たないだろうし」


 ――再び沈黙。

 さっきからギョエギョエうるさいんだけど、攻撃するのを待っててくれてるから案外良い奴なのかもしれないね。あの怪鳥。

 そしておもむろに口を開くシャーリーさん。


「――方法はたった一つだけ。良いですか。二人ともよく聞いてください」


 いつになく真面目な顔のシャーリーさん。

 もしもこの作戦までもが失敗したら、きっと私達三人はあの怪鳥の腹の中行きが決定だろう。

 ゴクリと唾を飲み込む私。

 中二病少女も心無しが顔が強張っているようにも見えます。


「私が藁人間ストローマンを召喚したら、二人はすぐに先ほどソフィアさんが隠れていた岩陰に向かってください」


「ふむふむ」「うん」


「そこで二人とも服を脱いでください」


「ふむふむ……えっ?」「うん……えっ?」


 私と中二病少女が同時に固まります。

 ……今、シャーリーさん、なんて言った?


「本来はお互いに結婚アグリーの誓いを交わし、結婚式場ユニオンで祝福を受けねばならないのですが、今は緊急事態。すぐにでも初夜ファーストメルトを迎えてもらい、合体メルトできるようにしてもらわねばなりません」


「はい??」「はい???」


 もはやシンクロ。

 私と中二病少女は二人とも目が点になっています。

 シャーリーさんが何を言っているのかさっぱりわかりません。


「ユウリはお忘れですか? 御自身が【一夫多妻イクスチェンジ】であることを」


「いやいやいや」


「セフィアさんは十六という御年齢ですので、当然まだ【処女ソリッド】でいらっしゃいますよね?」


「あ……当たり前でしょう!!!」


 叫ぶ中二病少女。

 いやいや、私だって叫び出したいんですが。



 そしてシャーリーさんは最後に、無情にもこう言い切りました。



「とにかく、時間がありません。お二人は私の合図と共に岩陰まで走り、そこで裸となって抱き合い、お互いの唇を重ね合って初夜ファーストメルトを迎えてください」



 ――言わずもがな、私と中二病少女は開いた口が塞がらなかったわけでして。




〇ダメージの換算式について

 

①物理攻撃依存の場合

【ATK】×【属性ダメージ倍率】×【クリティカルボーナス】-【DEF】=【総ダメージ】

②魔法攻撃依存の場合

【MAT】×【属性ダメージ倍率】×【クリティカルボーナス】-【MDE】=【総ダメージ】


例:天属性のモンスターに対し神属性もしくは天属性キラー武器 → ATK補正500%

  反撃時のクリティカルボーナス → ATK補正150%

  攻撃側のATKが50、防御側のDFEが140の場合


50×500(%)×150(%)-140=235


※ただしバフやデバフ、その他スキルにより総ダメージ量は変動

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