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016 伯爵は変人なだけじゃなくて、かかしでした(震え声)

「よーーーっこっそ! いらっしゃいましったっ! 我が屋敷にっ!!」


「…………」


 ゲヘレス伯爵のお屋敷にどうにか到着した私とシャーリーさん。

 でもチャイムを押した直後に出てきたのは変なのでした。

 ……え? 人間? 道化師? いや……かかし?


「あのう……。実は私達、『コスプレコンテスト』っていうのに参加したくて、ええと、サーマリー・ゲヘレスさんっていう方に会いに来たんですけれど……」


「はいはいはい! 私が! サーマリー・ゲヘレスっでございます!!」


「…………」


 ……うん。

 ええと、誰か別の人にサーマリーさんを呼んでもらうしかないかな……。


「(……ユウリ。間違いなく目の前にいらっしゃる方がサーマリー・ゲヘレス伯爵ですわ)」


「(いやいやいや。だってかかしだよ? 人間じゃないじゃん、この人……)」


「(ゲヘレス伯爵は『手長足長族リンブスジャイアント』のようですね。確か資料では伯爵はルーラン妖精国の出身だとか)」


「妖精!? え? こんな妖精いたら嫌だよ……!!」


「おやおや、初対面でいきなり悪口とはいただけないですなぁ、お嬢様方。伯爵、いじけちゃおう」


 ついうっかり大声を出しちゃった私。

 でも伯爵は怒るどころか後ろを向いて地面にのの字を書き始めてしまいました。

 何なんだろう……。この人は一体……。


「失礼をお詫びしますわ、ゲヘレス伯爵。こちらはラロッカ村の使役者ヒューマン、ユウリ・グラムハート。そして私は彼女の行使者アーマー、シャーリー・グラムハートと申します。私達は今回、職業紹介所ギルドマスターからの依頼でコスプレコンテストに参加させていただく予定だったのですが――」


 私の代わりにいじける伯爵に丁寧に経緯を説明してくれるシャーリーさん。

 こういうことは彼女に任せておいたほうが無難だったね……。

 私が先に出ていくと、大抵悪い方向に動いちゃう気がしてきました……。


「――ほうほう、なーっるほど。ふむふむ、それはいいですね。実に、よろしい」


「よろしい? いや、全然よろしくないんですけど……。だってコンテストの参加証を盗まれ――」


「ビューーーッテ、フォウ!!」


「うわびっくりした!!」


「美しい……! 貴女方は、実に美しい!! 女性同士の結婚アグリーとは、これはもう驚きました!! 参加証? そんなものはいりませんっ! 是非、我がコスプレコンテストに参加していただきたいいっ!!!」


「…………」


 急に機嫌を取り戻した伯爵はその場でクルクル回って喜びのダンスを披露し始めました。

 ……なんかすごい疲れる、この人。

 ていうかほとんどシャーリーさんの話聞いてなかったよねたぶん……。特に後半の部分とか。


「あ、あのう、伯爵さん。この子、見覚えとか無いですか?」


 キリが無さそうなので、簡潔な質問に切り替えましょう。

 私は警備保障会社セキュリティギルドで貰った中二病少女の手配書を伯爵に見せました。


「ん~~? ああ、セフィアですねぇ。もちろん知っていますとも。彼女は私の信者ですから」


「今、彼女はこのお屋敷に?」


「いいえ、そういえば今日はまだ見ておりませんねぇ。それよりもお二方! さっそく衣装に着替えてみませんか? 我が屋敷にはおよそ十万着のコスプレ衣装が揃っておりまして、きっとお気に召す物が――」


「だああぁぁ! もうちょっとはこっちの話も聞けっつの!! 屋敷に居ないんなら、その子の住んでいる家とか、他に行きそうな場所とか何か知らないの!? こっちはお財布盗まれてるんだから!!」


 ついに切れちゃいました、私。

 でも伯爵は目をパチクリさせるだけでまったく動じません。

 ああもう! なんかイライラするなこの伯爵……!


「……ふむ。泥棒とは聞き捨てならないですなぁ。確かにあの子は手癖が悪い所がありますから。……良いでしょう。お教え致します」


 そう言った伯爵は何やらメモをさっと書き、私に手渡しました。

 ええと……。これはたぶん、街の周辺の地図かな。

 すごく汚い手書きの地図で分かりづらいんだけど……。


「彼女は今、身寄りが無く、私の別荘で仮住まいをしております。今の時間は恐らく、街を出て西に少し行った場所にあるウガン渓谷で鵜飼怪鳥フィッシングバードの卵を採取しに行っているはずです」


「街の外に、一人で……? え、それって危険なんじゃないの?」


「いいえ。彼女には魔除けの藁人形タリスマンドールを持たせておりますゆえ。それにウガン渓谷は彼女にとって庭のようなもの。危険はほぼ無いと言ってもいいでしょう」


 そう答えた伯爵はまだ他にも何か言いたそうな目でこちらを見ています。

 このままここにいたら変人の趣味に付き合わされそうだから、さっさと退散するに限りますね。


「ありがとうございましたー。じゃあちょっくらその渓谷に行って中二病少女にヤキを入れてくるから、また後でお邪魔しますー」


「え? もう行ってしまわれるのですか? セフィアが戻ってくるまで我が屋敷でお着替えタイムを楽しむという選択肢も――」


「無いです」



 即答した私はさっさとその場を後にしました。



 ――さあ、とりあえずそのウガン渓谷に行って中二病少女の首根っこを掴んできましょうかね。




手長足長族リンブスジャイアント

 ルーラン妖精国に数多く存在する人種の一つ。

 常人の二倍ほどの手と足の長さを誇るがゆえに、しばしばモンスターと見間違えられることがある。


鵜飼怪鳥フィッシングバード

 夏から秋にかけてレべリア共和国からオルビス皇国に渡って来る鳥類型モンスター。

 毎年決まった時期に同じ渓谷に卵を産む性質がある。

 稀に彫金魚アクセフィッシュをドロップする。


魔除けの藁人形タリスマンドール

 モンスターを一定時間寄せ付けない効果のあるアイテム。

 万が一の際はアイテムを地面に叩きつけると祝福された機械型モンスターの一種である藁人間ストローマンを召喚できる。

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