007 ついに私、ヴァージンを奪われちゃいました
「…………」
「どこか痒い所は御座いませんか?」
私の頭を満遍なくシャンプーで泡立ててくれるシャーリーさん。
彼女の細い指が私の頭皮をなぞる度に背筋に謎の電流が走っていきます。
……いや、それよりも、当たってるのよ。
シャーリーさんの大きめの胸が。私の背中にガッツリと。
「ユウリの髪は柔らかくて、とても洗いやすいですわ。私の髪は少し長すぎるから、いつも時間が掛かってしまうんですよ」
「ふ、ふーん……。そうなんだ……」
とりあえず、ここは我慢するしかない。
別に私だって今まで学生時代に、クラスの女子と一緒にお風呂に入ったことなんていくらでもあるし。
考えてみればこんなに緊張することなんてないのよ、ユウリ。平常心、平常心。
背中にシャーリーさんの胸が当たってたって、それがどうした。そんなものただの脂肪よ脂肪。
「……はい。それでは、シャワーで流しますね」
私の頭を洗い終えたシャーリーさんは、ゆっくりと丁寧にシャワーのお湯で泡を流してくれます。
いや、でもこの緊張感が無ければ彼女のシャンプー技術はプロ並みだから、これなら毎日でもして欲しいかも……。
「お次は身体を洗わせて頂きます。お背中から失礼しますね」
「か、身体も……?」
「ええ。こういったコミュニケーションも合体の精度を上げるためには必要なことなのです。言ってしまえばこれも愛の育みの一環。合体後も様々な方法で行使者と使役者は関係性を築いていくのですから」
「へー、そういうものなん――ひんっ!?」
背中を洗っていたシャーリーさんの手が急に前に回り、私の口から変な声が漏れてしまいました。
いやいやいや! もうそろそろアカンやろこれは! そこは自分で洗いたい! 洗わせて!!
「あら、すいません。くすぐったかったですか?」
「う、うん……。ちょっと……うん。そこは……いいかも知れない」
「ここが良いってことですね」
「ひぃっ!!? ち、違う違う! そこは『やらなくていい』ってこと!!」
慌てて立ち上がり、全身を覆い隠してシャーリーさんを振り向きます。
でも彼女はキョトンとした表情で私を見上げるだけだし……。
無自覚だけに非常にやりづらいというか……。
それともあえて狙ってやってるのかの判断が付きません。
「わ、私はもう良いから、今度はシャーリーさんを洗ってあげるよ!」
「そうですか……? じゃあ、お願いしても宜しいでしょうか」
そう言いスッと立ち上がったシャーリーさんは軽くシャワーで髪を流し、そのまま私に背を向けて風呂椅子に腰を降ろしました。
彼女の真っ白で透き通った柔肌が眼前に広がり、何故か私の頭はクラクラしてきます。
もうアレよ。女性が見ても見とれちゃうくらい綺麗で完璧なプロポーションってやつ?
これは世の男性陣はみんなノックアウトだろ……。
なのに、どうして彼女は過去に百回も離婚をしてきたのか謎過ぎるのですが……。
「ねえ、シャーリーさん。シャーリーさんの『過去』を聞いたりしたら、その……NGとか、ある?」
「私の、過去ですか?」
シャンプーを手に馴染ませ泡立てながら、私はそれなりに自然の流れで質問します。
やっぱ合体する相手の過去って気になるじゃん。
でもこういうのって聞かないほうがいいものなのか、それとも全然オープンなのか、その辺のことを知っておきたくもある。
だって私、初めてだもん。
それぐらいの権利があってもいいよね?
「結婚し夫婦になった者同士での隠し事は一切ありません。ですので、私の過去をお知りになりたいのであれば、包み隠さずユウリにお話し致しますわ」
「う……。なんか急に話が重くなった気がするけど……まあいいや。あ、髪の毛から洗うね」
泡立てたシャンプーをシャーリーさんの髪に馴染ませ、ゆっくりと丁寧に洗っていきます。
彼女の髪はかなり長いから、洗い終えるのに結構な時間が掛かりそうです。
「シャーリーさんって過去に百回も離婚をしてるじゃん。それが何故なのか全然分からなくて……」
「ふふ、直球ですね。でもユウリのそういう所、私は好きですよ」
彼女は少しだけ笑いながらそう言いました。
うーん、この感じだとそんなに重い理由とかじゃないのかな……。
いやほら、実は結婚したら性格が急変して超ドSとかになって相手に凄まじいDVをする行使者だった! とかだったら怖いと思ったんだけど、たぶん違うよね。
「百回の離婚のうち、九十九回は全て理由が同じものです。……まずはこれをご覧いただいても良いですか?」
そのままシャーリーさんは私を振り返り、泡まみれになっている私の手を握りました。
……うん。なんか嫌な予感しかしないんですけれど。
そして私の手をそのまま自身の胸に当てて――。
「ちょちょちょ!!! 生!!!! 生乳!!!!!」
「なまちち?」
首を傾げるシャーリーさんはそれでも私の手を放しません。
……ああ、きめ細かい柔肌。そこから溢れ出す二つの甘い果実。……じゃなくて!!!!
「あ……」
そんなことを考えているうちに例の如く私の眼前に徐々に彼女のステータスが浮かび上がってきました。
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【Rare】 LR 【Name】 シャーリーレイド・オルタナティヴ(グラムハート) 【AB】 闇 【SL】 2/100
【AT】 全技能型 【CH】 深淵にて覗き見る黒き龍
【ADT】 二刀魔神剣 【DDT】 暗黒魔装
【HP】 65/99999 【SP】 19/9999 【MP】 12/9999
【ATK】 16/9999 【DEF】 13/9999 【MAT】 11/9999 【MDE】 12/9999
【DEX】 4/999 【AGI】 5/999 【HIT】 5/999 【LUC】 2/999
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「熟練度が2に上がってる……。あれ? でも……」
私は細かい数字と睨めっこをする。
さっき熟練度が1だったときの数値をあまり確認してなかったからなのか、それとも――。
「気付きましたか? これが私の、ある意味唯一の『弱点』と言えるものなのです」
彼女は私の手を放し、再び後ろを向きました。
そして再び口を開きます。
「私のランクは世界に十人しかいないLR(レジェンドレア)です。ただでさえLRの行使者は大器晩成型に属し、熟練度を上げても初期のステータス上昇率が著しく低い傾向にあります。さらに、私の場合はアーマータイプも『全技能型』――。これも全七種のアーマータイプの中で最も成長が遅いタイプとなります」
「つまり……シャーリーさんは最強の行使者なんだけど、本当の実力が発揮されるのは、相当熟練度を上げた後ってこと?」
「はい。そうなります」
シャーリーさんの話を聞きながら、私は再びシャンプーを泡立てて彼女の髪を洗います。
大器晩成型のランクに、成長が一番遅いアーマータイプ。
つまり彼女は『超大器晩成型』ってことになるのかしら。
「昼間にもお話した通り、通常の婚姻は一対一。一人の使役者に対し、一人の行使者しか成立しません。これまでに私と結婚をしてくれた殿方らも最初は喜んでくださいましたが、私と愛の育みを重ねるにつれて、徐々に私の本質に気付いていかれ――」
「それで離婚を申し込まれたってこと? え? なんで? せっかく結婚したんだから、徐々にだって愛を深めていって、いずれ最強になるんだったらそれで良いんじゃないの?」
「そういうわけには行かないのが現実なのです。使役者の立場からいえば、なるべく早く行使者との熟練度を最大値まで高め、その力をもって各国に自国の強さをアピールしなければなりません。あまりにも成長の遅い私は出来損ないと罵られ、誰も娶ってくれない『名ばかりの最強の行使者』となり果てたのです」
「……何それ。それって行使者を物扱いしてない? 最悪。そういうの大っ嫌い。そんな男共はみんな行使者の女性達からハブられちゃえばいいのに」
彼女の話を聞いていくうちに、段々と腹が立ってきました。
どうして男って、いつもステータスとか、地位とか、そんなものばっかりにこだわるのだろう。
たった一人の女性を幸せに出来ないくせに、何が『自国の強さのアピール』だっつうの。
戦争を起こさないためだか何だか知らないけど、同じ使役者として恥ずかしいわマジで。
「……怒っているのですか、ユウリ?」
「怒ってるよ! マジもうぷんぷん!!」
「ふふ、やっぱり貴女は私が思っていたとおりの人でした」
「?」
彼女の髪が洗い終えた頃、彼女は立ち上がり自身でシャワーを手に取って髪を洗い流し始めました。
そしてボディスポンジに石鹸を付け、今度は自ら全身を洗っていきます。
「ユウリの持つユニークスキル【一夫多妻】は、複数の行使者と同時に結婚が出来る能力です。つまり、私との愛の育みに時間が掛かったとしても、離婚をせずに別の行使者と婚姻をし、状況によって合体を使い分けることが可能となるでしょう。今はまだ、私はユウリの役に立てないかもしれませんが、いずれ貴女はこの国の最強の剣士となる――。全身のお清めはこれぐらいで良いでしょう」
身体を洗い終えたシャーリーさんは、全身にシャワーを浴びて泡を全て洗い流しました。
――来てしまった。ここからが本番です。
どうしよう。何をするんだろう。裸のままで合体するって言ったら、そういうことだよね。
もうこうなったら覚悟を決めよう。決めるのよユウリ。
私の初めてを、熟練のシャーリーさんに捧げちゃおう。
いやホント男に生まれてくれば良かった……。惜しい人生だったな……。
「……目を閉じて、ユウリ」
「――っ! あ、でもまだ、ちょっと、怖いというか、やっぱ女の子同士って――」
後ずさる私だが、その先はシャワー室の壁しかありません。
そしてゆっくりと、シャーリーさんの腕が私に向かって伸びてきます。
――ああ、もう、一つになっちゃうんだ。
そうか。でもまあ、初めてがシャーリーさんで良かったよ、私。
どうせ彼女と出会えなかったら、借金のカタに身売りをする寸前だったんだから。
もう、あげちゃう。
シャーリーさんに、私の全てを――。
彼女は私をそっと抱きしめました。
そして彼女の甘い吐息が私に掛かり――。
――二人の唇は熱く触れ合ったのでした。




