照夫くんの自転車
なろうラジオ大賞参加作品第四弾。
今日はパパと、補助輪をはずした自転車に乗る練習だ。
これまで何度も、パパと一緒に、パパがプレゼントしてくれたこの自転車で練習したけど……まだ上手に乗れてない。
僕がヘタクソなのもあるけど。
ある日の練習中、僕がケガをしたのも原因だ。
あれから、僕は頭痛を覚えてる。
かつて負ったケガのせいで……いまだに痛い。
さらにいえばそのせいで、バランス感覚がちょっと変。
というかよく見るとパパは、なぜか顔色が変だ。
パパはケガしてない気が……なのに、顔が赤いような?
よく思い出せない。
でもそんな状態でもパパは、僕のために付き合ってくれてるんだ。
そんなパパを安心させてあげるためにも、早く乗れるようにならなくちゃ。
「照夫、いいぞそのまま……手を、放すぞ!」
自転車が安定したのを見計らいパパは手を放す。
僕は自転車のペダルを、より力強く踏み込んだ。
また倒れるんじゃないかと怖くなる。
思わずハンドルを強く握る……でも倒れる感じがしない。
まさかと思って、僕は一瞬だけ周りを見る。
自転車は倒れない!
僕は自転車に乗れてる!
やった!
僕はようやく乗れた!
嬉しかった。
まるで天に昇るような気持ちだ。
「照夫ぉーッ!!」
その時、パパの声がした。
なんだか泣きそうな声だ。
どうしたんだろうと思って振り向くと。
なぜか僕の遥か下の方で泣いているパパがいて――。
「先生、この度はありがとうございました」
ひとしきり泣いた後。
俺は改めて目の前の女性――照夫が、野球場のネットを飛び越えてきた草野球のホームランボールを、補助輪をはずした自転車の練習中に頭部に受けて亡くなって以来、俺が照夫に誕生日に贈った自転車に取り憑いて……その自転車が動くようになった怪異の相談をした霊媒師の先生に頭を下げた。
「いえこちらこそ。心中お察しいたします」
先生は、黙祷をしつつそう返した。
まだ息子の成仏を受け入れきれてない今は……ありがたい返事だ。
そんな先生……本物の霊媒師にこうして会えなければ。そして先生が俺に、多少の酩酊状態と引き換えに、一時的に霊視能力者にする術をかけてくれなかったら。俺は一生照夫を成仏させられなかったかもしれない。
それどころか偽物の霊媒師に騙され財産を巻き上げられたかもしれない。
先生には頭が上がらない。
これからも俺は先生に感謝するだろう。
そして照夫……まだお前の成仏を受け入れきれてないけど。
いつか絶対、乗り越えるから……天国から、どうか見守っててくれ。




