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幻想のグリモアール  作者: ふたばみつき
第8話 学園編~school Life~
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第九十八頁 破れかぶれ、あるいは捨て鉢

「アイラ、これはどういう状況なんだ?」 

「……私もわかりません」


 マシマロとボアちゃんが、グレイス先生とラスカさんにじゃれついている。

 もうベロベロである。


 服とかも、泥まちれでグチャグチャである。


 後で弁償とか大変そうだな。まあ、もうどうにでもなれ…… 

 いや、なんとかなれーー!! って感じなので、もうどうでもいい。いくらでも弁償して、私は最悪バックレる。お金が足りなくてもバックレる。


 もう、グチャグチャにしてやる。


「アイラちゃん!! この狼も君の仲間なのかい?」


 王子様は、子供の様に目を爛々と輝かせて、私の隣に立ってるユヅキを見上げている。


 もう、男の子って皆そう!! 

 大きい狼がいたら、直ぐにそっちに興味が移る!!


 まあ、ええんだけど。

 むしろ、いいまである。


「この方はユヅキさん。狼の王様です。王族同士仲良くしてください」

「ユヅキさん!! 少し、触ってもいいですか!!」

「おい、待て!! アイラ!! 王族って、まさか、コイツ……」


 取り敢えず、ユヅキさんから目を反らす。

 絶対に何してんだって言われるし。


「アイラちゃん! ユヅキさんを触ってもいいですか!!」

「本人に聞いてください!」

「駄目だ駄目だ!! 気安く触れるな!! それより、王族だとぉ!? コイツがぁ!? なんだこれは、どうなってんだ!?」


 ふふふ、私が聞きてぇよ。

 もう、私の処理できる範疇を越えた。


 その時、マシマロとボアちゃんにじゃれつかれていた二人が声を挙げた。


「ア、アイラさん!! 助けてください!!」

「あ、貴女ッ!! こんなことして只で済むと思ってるんですか!?」


 思ってない。思ってないから、最後にメチャクソにしてやろう思ったんだ。「飛ぶ鳥跡を濁さず」と言うが、私は「濁す!!」


「ふふふ、もういいでしょう。マシマロ、ボアちゃん!! おいで!!」


 私の呼び声と共に二匹がこちらに駆け寄って来た。


 ふふ、良い子だ。なんだが、久し振りに二匹の姿が見れて嬉しい。

 二匹はこちらに駆け寄って来ると、何故か勢いよくこちらに飛び掛かってきた。


「うぎゃーーーー!!」

「もあ、もあ~!!」

「プギィィ~!!」


 違う違う違う!! 

 私にはじゃれなくていい!! 


 うわぁ!! 泥でグチャグチャだッ!!

 お洋服が!! 《童貞殺し》がッ!!


「二匹は、久し振りにご主人様に会えて、嬉しい様だぞ」


 ユヅキさんが、二匹に押し倒され、地面に倒れた私を見下ろしながら言った。


「もあ~」

「プニィ~」


 二匹が、私の顔を問答無用でペロペロと舐めてくる。

 まあ、可愛いから良いけど……


「で、アイラ。これは一体どういう状況なんだ?」


 そう言うと、ユヅキさんは私に顔を近づけると頬を鼻先でつついてみせた。

 う~ん、こう皆に会えると、なんだか嬉しいな。アイゼンお爺ちゃんも呼ぼうかな?


「ほら、アイラ。説明してくれ……」


 まあ、流石に説明するか。

 私は、マシマロとボアちゃんを一撫でして、ユヅキさんに視線を移した。


「実はですね。かくかくしかじかでして……」



★☆★


 私は大まかな事情をユヅキさんに話した。


「と言う事になりまして。それで、もう辞めた!! 逃げちゃおう、と思いまして。最後にメチャクチャにしてた所です! もう学園から逃げます!! 普通の冒険者に戻ります!!」

「は、はぁ。それでこれがメチャクチャか……」


 その通りである。


 私の目の前にいる、グレイス先生とラスカさんが泥まみれで立っている。

 これがメチャクチャと言わず、なんと言う。


 て言うか、ラスカさんはメチャ睨んでくる。

 まあ、仕方ない。当然の所業をしたからね。


 ただ……


「それは勿体無いですよ、アイラさん。召喚術は、今現在は殆どが失われてしまった術です。それを使うことが出来る人材は大変貴重です。是非とも学園に残ってください!!」


 泥まみれの状態でグレイス先生が言う。しかも、いつの間にかにボアちゃんをその手に抱いている。

 そして、当のボアちゃんは彼の腕の中でもスヤスヤと眠っている。

 久し振りの出番で疲れちゃったかなぁ?


「僕は良くわからないけど。ラスカちゃんが居なくなるのは嫌だな。考え直してくれないかい?」


 と王子様は言う。言うが、チラチラとユヅキさんの方を見ているので、興味の方向がシッチャカメッチャカだ。

 さっきまでの私への執着はどうしたんだ?


 て言うか、一番の問題はだ……


「その、少し話が変わるかもしれませんが。王子様。貴方、なんで突然グレイス先生に突っ掛かったんですか。どうにか、仲良くしてくれませんか!?」


 これが問題なんですよ。


 つい先日までの彼とは、別人と言っても良い程に態度が変わっていた。


「正直、意味がわからないんです。意味がわからないから、対処も出来ないんです。だから、せめて理由を聞ききたいんです。どうして、グレイス先生に突っ掛かるのか」


 私がそう言うと、彼は明らかにバツ悪そうな表情を浮かべた。

 どうにも、太陽の様に爽やかな彼には似合わない表情だ。

 正直、見ていて気持ちの良いものではない。

 

 私は、彼に言い聞かせるように呟いた。

 

「お願いです。王子様…… 話してくれたら、なにか上手い落とし所を見つけられるかもしれません…… ほら、ここには、私達しかいませんから…… ね?」


 最後に上目遣いで「お願い♡」とやってみる。上手く出来たか知らんが、甲子園に連れてってくれる位のプルティさは出せたと思う。


 私の上目遣いに観念したのか。王子様は渋い顔をしながら口を開いた。


 そして、その口から紡がれた言葉は、私の想像を遥か斜め下を行く物だった。

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