第七十九頁 虚しい勝利
ただ無音のままに血飛沫が宙を舞った。
見ると、彼の首元には大きな刀で切り付けられた様な傷が出来ており。そこからは大量の血が次から次へと止めどなく流れていた。
ああ……
彼等を殺したくないだのと甘い言っていたけど、私は結局は綺麗のところ彼を死に至らしめてしまった。
自分の薄っぺらい偽善心に反吐が出そうになる。ザックさんを助ける為とは言え私は彼の命を奪ってしまった。
いや、そんな理由は免罪符にもならない。
それに、この行為は普段私達が行ってる魔物を倒す行為と何が違うのか。
それなのに、私はなんでこんなにも心を痛めているのか。何時もと変わらないはずなのに……
「ごめんね……」
これではラッセルさんの事を悪く言えないじゃないか。結局一番の悪党は私じゃないか……
「ごめんね、苦しいよね……」
思わず、彼の顔を抱き締める。
こんなことただの自己満足でしかないけど、せめて安らかに眠って欲しい。
ごめんね、私の勝手な理由でその命を奪ってしまって……
「どうか…… どうかやすらかに……」
その時、私の目から一筋の雫が溢れ落ちた。
余りにも自分勝手で偽善的な涙。
私が流す資格なんか無い涙。
それが真っ直ぐと彼の頬に注がれた。
その瞬間、彼の身体が黄金色に輝くと光の粒子へと姿を変えた。そして、その目映い光は私を包み込むと本の中へと吸い込まれて行った。
余りの衝撃に目を見張る。
私が貴方を殺したのに……
「どうして……」
思わず、本を抱き締める。
どうして、彼は私の本の中に……
「アイラ……」
声のした方向を見るとユヅキさんがこちらを眺めていた。
とても悲しそうな顔をしている。尻尾も耳も垂れて哀愁を漂わせる風体をしている。
その姿に思わずが涙が溢れてきそうになる。
「ユヅキさんどうしてなんですかね。どうして、彼は私の本の中に入って行ったんですかね? 同じ召喚獣の貴方なら私に教えてくれますか?」
「……すまないが、それは俺にもそれはわからん」
そう言うと、ユヅキさんはおもむろに顔を背けた。
そうだよね、こんな事をユヅキさんに聞くべきじゃないよね。
本当に御門違いも甚だしい。
こんなことしてちゃ駄目だ……
そうだいけない。
私は涙を拭うと空を見上げてみせた。
私はこの世界で生きて抜くって決めたんだ。こんな夢みたいだけど厳しい世界を生きて抜くって決めたんだ……
この悲しみも罪も背負って私は生きて行くんだ。
そして、どうして彼が私の本の中へと入って行ったのか答えを出すんだ。聞いてばかりじゃ駄目なんだ私が答えを見つけ出さなくちゃ。
「アイラ、大丈夫か?」
「……ええ、大丈夫です」
見ると、ザックさん達も“魅了”が解けたらしく、こちらに歩き出したいるのが見えた。
「良かった。皆、元に戻って……」
そう言うと私は全力で笑ってみせた。
いま出来る限りの全力の笑顔で皆に笑ってみせた。
【ユニコーン】
【一角獣とも呼ばれる聖獣。額に一本の角が生えた馬に似た生物。性格は非常に獰猛であると言われるが無闇に近付かない限りは危害を加えることは少ない。しかし、一度敵と認識されるとその範疇ではなくなる。また清らかで美しい処女を好むと言われている】




