第七十四頁 ギルドへ
ギルドの机を囲んで三人の冒険者が顔を付き合わせている。そして、机の上には無造作に数切れのパンが置かれている。
俺はと言うと、そんなパンを見詰めながら学園であったことをザックさんとロランさんの二人に向かって話していた。
「……と言う訳で私は無事に学園に入学できました。それと学園は基本外出自由で門限も別にないみたいです。凄く放任主義みたいです」
俺の話をザックさんとロランさんの二人が興味深く聞いていたらしく。俺の話が一段落付くと二人は同時にパンに向かって手を伸ばした。
俺もパンに向かって手を伸ばし、ひと噛りする。
凄まじいく硬い、フランスパンもビックリの硬さである。余裕で人一人を殴り殺せるんじゃないかと思えるくらい硬い。よく歯が折れないなと思う。多分、賞味期限とか、消費期限とか鼻で笑っちゃうくらい無視してると思う。
こう言う、ご飯を食べる度に思う。
シーナさんのご飯が恋しいと……
「いや~ 取り敢えず、アイラの目的は無事に達成出来そうで良かったぜ」
「ええ、そうですね。アイラさんなら、学園でも上手くやっていけますよ」
二人が朗らかな笑みを浮かべながら、そう口にする。
それを聞きながら俺としては「そうかな? 正直、前途多難の様な気がするんだけど……」等と頭の片隅で思ったりする。
「ところで、このギルドはどんな感じなんですか?」
俺がそう口にすると、ザックさんが手のひらでギルド内を指してみせた。
「どうもこうも、こういう感じだよ」
相も変わらずボロい。蔦が壁を這っていたり、窓ガラスが割れていたり、床が色の違う板で補強されていたりとしている。
くしゃみの一つでもしたら、ドリフのコントみたいに全部崩れるんじゃないかと思ったりする。
それに極めつけは誰もいない。
唯一として、アリッサちゃんがせっせと掃き掃除をしたり、クモの巣を払ったりとしているが、その他は誰もいない。初日にいた、じいさんは何処に行ったんだ?
もしかして、お化けとかだったのか?
それにしては、元気一杯なお化けさんだったけどな……
「簡単な依頼すら来ない始末だよ。このままだったら、このギルドはお仕舞いだな……」
そう言うと、ザックさんが大きな溜め息を吐いた。そして、最後に残ったパンを取るとそれに噛りついた。
俺はそんなザックさんを眺めてみる。
ザックさんは何時もと変わらない様子で振る舞っているけど、何処と無くやつれている様に感じられる。
ワイバーンを退けてまでやって来た王都のギルドがこの有り様じゃ、やつれもするかもしれない……
あるいは窓ガラスが割れてて、寒くて眠れないからやつれてるのかもしれない……
俺は先ほどまでパンが乗っていた皿を持つと、それを返却する為にカウンターまで持っていった。
そんな最中、ギルドのドアが開く音が響いた。
聞いててもわかる程、立て付けの悪いドアが開く音が聞こえてくる。
俺はそんな音を背中で聞くと、誰が来たのかと振り向いた。
そこにはスミスさんを思わせる風貌をした男性が一人立っていた。見たところ、年の頃は三十代だろうか。着ている服も泥が着いていたりしているところを見ると、恐らく、そう言う感じの仕事をしてらっしゃる人であることはうかがえる。
彼は俺と目が合うと、真っ直ぐこちらにやって来て目の前に立ち塞がった。
当の俺はと言うと「なんだろ、このオッサン」と思ってポケーとしていた。しばらく、オッサンを見ていると、彼は気まずそうな表情を作り後頭部を掻き出した。
なにやってんだろ、この人……
そんな風に彼を眺めているとおもむろにその口が開かれた。
「あの、依頼をしたいのですが……」
お! 依頼だって? 悪くない流れじゃないか。
でも、なんで、俺に言うのかな?
このギルドにはアリッサちゃんて言う、可愛いくて元気モリモリの受付嬢がいるんだから、彼女に言ってよね……
「ええと…… 彼女が受付嬢ですので、手続きは彼女に言って貰えると助かります」
俺はそう言うと、こちらに小走りでやって来たアリッサちゃんに向かって手のひらを向けてみせた。
それを聞いたオッサンはビックリしたらしく、目を丸くしてこちらを見詰めてきた。
「え? 君が受付嬢じゃないの?」
「いえ、私は冒険者です」
俺がそう口にすると、オッサンは更に目を大きく見開いてみせた。口をぽっかりと開いている。
なにやら相当、ビックリしたらしい。
「い、いや。これは失礼…… てっきり、お嬢さんが受付のお嬢さんかと……」
「は、はあ……」
ワイは受付嬢と間違えられとったのか……
まあ、見た目だけは可愛いからね……
それは良いとして依頼だ、依頼。
もしかしたら、このギルドを建て直す起死回生の依頼かもしれないぞ。そんなことを思いながらザックさんとロランさんに視線を送ると、彼らもそれを期待しているらしく、目をギラギラと輝かせてこちらを見ていた。
久々にいい感じだぜ!!




