第七十二頁 入学祝い★
「おぬし、面白いから!! 合格!! 気に入ったぞ!!」
そう言うと、エルフの少女が床に胡座をかくと、後頭部をさすりながら口を開いた。
「え? い、良いんですか?」
「いいに決まっておろう。見た目も良し。性格もまとも。魔術の素質もあり。稀有な人材じゃ!!」
な、なにそれ……
思わず眉を潜めてしまったけれど私の隣にいたグレイス先生は大きく「うんうん」と頷いている。
そ、それよりも大丈夫なんですか、この学園……
「それ、入学祝いじゃ。受け取れ……」
そう言うと、学長は人差し指を立てて見せた。
そして、それを指揮棒の様に振ると、その指先から糸の様な物が現れた。やがて、その糸は幾重にも折り重ねられ、ある物の形を取り始めた。
「ほれ、学園の生徒である証のローブじゃ……」
その言葉と同時に、彼女の指先から産まれたローブがコチラに向かってフワリと翔んできた。
す、凄い……
ただのスケベエルフじゃなかったんだぁ……
思わず息を飲んでしまう……
私は今しがた、翔んできた物を広げて見せた。
やはり、あの生徒達が纏っていた黒いローブだ。
まあ、嬉しいには嬉しいけど……
「なんじゃ? 気に入らんのか?」
「い、いえ!! 嬉しいです、大切にします!!」
そう言って私は笑ってみせた。
正直、このローブあんまり良い印象がないんですよね。試験の時も、これを着てた人達が私を馬鹿にするみたいに笑ってたし、なんか全体的に陰気な雰囲気がするんだよなぁ。
それに、このローブ大きいから着ると服がすっぽり隠れちゃうんだよね……
実は“童貞殺し”気に入ってるんだよね……
だって、可愛いんだもん……
だから、これを着ちゃうと“童貞殺し”が隠れちゃう。“童貞殺し”が殺されちゃう……
“童貞殺し殺し”になっちゃう……
「なんじゃ、おぬし。気に入らんなら、ハッキリ言ってみぃ!」
「え!?」
私の心情を悟ったのか、学長はこちらを見上げながらそう口を開いた。
ううぅ…… どうしよう……
言おうかな、それとも黙って様かな……
むむむ…… むむむむむ……
「ハッキリせんかい!!」
「は、はい!!」
私は学長の圧に負けて、お気持ちを表明した。ぶっちゃけると「正直、あんまり着たくないです。可愛くないです」と……
「なんじゃ、それなら早く言えば良い物を。ほら、どんな感じにすればいい。言うてみい?」
「え?」
正直、怒られると思っていたが許された。
なんなら、オーダーメイドしてくれるっぽい……
「え、えっと。なら、ローブじゃなくて、ケープみたいにしてくれませんか? 出来れば、ここぐらいまでの長さが良いです……」
そんなことを言いながら、私は自分の肘辺りを指差した…
「ふむふむ、なるほど……」
そう言って学長が指を振ると、その指先から金色の光が私の持っているローブに向かって翔んできた。そして、その金色の光をローブが浴びると、あっという間にローブが短くなっていき、ケープへと姿を変えた。
「す、すごい……」
「ほれ、着て見せてくれ」
私はケープを羽織ると、その姿を学長に見せる為にクルリと回って見せた。やっぱり、下に着ている“童貞殺し”も合間ってアイドルの衣装みたいで可愛い。
可愛くない?
「ど、どうですか?」
「いいのぉ、可愛いのぉ。グレイスはどう思う?」
私は次はグレイス先生に向かってクルリと回ってみせる。
あれ、待って? もしかしてこれって、すごい恥ずかしい事をしてるんじゃ……
「は、はぁ…… そう言われましても、私はそう言うのに疎いのでわかりません」
そう言うとグレイス先生は技とらしく、いかにもと言った感じで難しそうな顔を浮かべて見せた。
むぅ、なんだその微妙な反応は!?
私の中身が男だからって言っても。その反応はショックだぞ!!
学長も同意見らしく、グレイス先生の顔を見て、学長がしかめっ面を浮かべた。
そして、大きな溜め息を吐くとグレイス先生に向かって口を開いた。
「おぬしのぉ、そう言う時は“可愛い”って言うモンじゃぞ……」
「え? いえ、ですが、私はそう言うのは疎いものでして……」
私は少しはあたふたした様のグレイス先生に向かって少しは不満げな表情を向けてみせた。
それを察したのか、学長が小悪魔の様な表情を浮かべるとグレイス先生に向かってこちらを指差して来た。
「ほれ見ろ、こやつも怒っておるぞ」
「そうですよ!」
「え!? あ……」
そう言うとグレイス先生はこちらを見ると顔を赤くして硬直してしまった。
え? なになに?
もしかして、女の子に「可愛い」の一言も言えないくらいウブなの? グレイス先生って?
「か、可愛いかどうかは知りませんが…… わ、私はす…… 良いと思います……」
そう言うとグレイス先生は顔を真っ赤にしながら下を向いてしまった。その反応に身体中の血液が逆流するのがわかる。
ガバッ!!
そして、思わず吐血しそうになる。
見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうよ!!
なんですか、その反応は「可愛いかどうかは知らないけど、私は良いと思う」って!! 普通に「可愛い」って言うより、ヤバイよそれ!!
駄目だこれ!! 顔が熱い!!
恥ずかしくて死にそう!!
見ると、学長も少し顔を赤くしている。
ほら、やっぱり恥ずい奴じゃん。
「ま、まあ。おぬしのローブはそれで良かろう、似合っておるし。か、可愛いしな……」
そう言うと、学長は顔をほんのり赤くしながら呟いた。
て言うか、その場の全員が顔を赤くしていた。




