第五十頁 決意
今、俺の目の前にはザックさんとロランさんが座って居る。
そして、俺と彼等との間には輪切りになったパンとチーズが皿の上に置かれている。
二人はそれをついばみながら「次は何を狩に行こう」だの「それならコレとコレを買いた足さなければならないな」等と話している。
俺は口ごもりながらも、意を決し二人に向かって口を開いた。
「あ、あの、私…… そろそろ、学園に行こうと思ってるんです……」
俺の突然の言葉に二人は目を丸くしてこちらを見た。
無理もないだろう。短い間とは言え、一緒に戦ってきた仲だ。それなのに、二人には学園に行こうと思ってるなんて一言、二言くらいしか言っていない。
だから、突然こんな事を言い出されたらビックリもするハズだ。
冷静に考えるともっと詳しく説明するべきだった。
我ながら、完全に失念していた。
彼等との日常が余りにも夢や冒険に溢れていて、まるで自分が物語の主人公になったみたいで夢中になってしまっていた。
こんな例えは不適切なのだろうが、RPGで寄り道やサブクエストをこなしていくのが楽しくて、メインシナリオを放置してしまうような、そんな感覚だった……
「本当は事前にもっとちゃんと話しておくべきでした。突然の事で本当に申し訳ありません……」
俺は二人に向かって頭を下げた。
俺はそのままの格好で今までの経緯と、学園へと向かう理由を話した。
自分が何者なのかわからない事。そして、自分が何者であるか、知る為に学園へ言って召喚術について調べようと考えていることを……
今度はしっかりと出来る限り詳しい話を彼等に伝えた。そして、自分がこの先、何をするべきなのか知りたいと言うことを……
無論、自分が異世界から来たなんて事は話せないから、記憶喪失と言った感じで説明はしたが、果たして二人はどう言った反応をするのだろうか……
学園へ行くとに反対するのか。黙っていた事に苦言を呈するのか、それとも、私を裏切り者と咎めるのか……
しかし、俺の不安とは裏腹に彼等からは真逆の答えが帰ってきた。
「良いじゃねぇか行こうぜッ、学園!!」
そう言うとザックさんは身を乗り出し、目を爛々と輝かせながら、こちらを見詰めている。
彼の予想外の反応に戸惑っていると、ロランさんが口に手をを当てながら頷いてみせた。
「学園と言うと《王都》へ向かうことになりますね。むしろ、僕達にとっても名を上げるなら、格好の舞台です。もし、アイラさんが良ければ僕達も一緒に行って良いですか?」
ロランさんも珍しく目を輝かせている。
「ふ、二人とも、怒ったりとかしないんですか?」
「怒る? なんでだ?」
ザックさんが眉を吊り上げて怪訝そうな表情を作った。
どうやら、本当に心当たりが無いらしい。
俺はその反応に思わず、声を漏らした。
「だって、説明もあんまりしてませんでしたし、突然こんなこと言ったら、なに言ってるんだって、なりませんか!?」
て言うか、普通はそうなるだろう。
しかし、その言葉がザックさんは大層気に入らなかったのか、眉に深い皺を作ると不満そうな表情を浮かべてみせた。
「あのなぁ! 俺達は冒険者だ、どんな時でも冒険を求めてる。そんな俺達がだ、やれ説明だの、秘密だの、ぐちゃぐちゃ言う訳ねぇだろ!! むしろ、ドンと来いだ!!」
そう言うと、ザックさんは自分の胸をドンと勢い良く叩いてみせた。
「で、でも街を出る事になるし、色々大変じゃ……」
「冒険者が、冒険に出ねぇでどおするよ!!」
ザックさんが俺のつまらない疑問を一瞬で引き飛ばしてみせた。
そ、そうだ。確かに……
俺は完全に彼等を見誤っていた……
冒険者が冒険を躊躇ってどうするんだ……
「なあ、アイラ。俺達と一緒に冒険に出ようぜ!」
そう言うと、ザックさんはこちらに満面の笑顔を向けると同時に握手を求めて来た。
ああ、そうだ……
この人はこう言う人だった……
彼は本当に真っ直ぐで、それでいて気持ちいいくらいに清々しい人だった……
私の心の中にある、迷いも不安も、一瞬で吹き飛ばしてしまった。
「ザックさん、ありがとうございます。是非とも、一緒に冒険に行きましょう!」
「ああ、おうよ!!」
私も自分に出来る限り全力の笑顔と共に、彼の握手に応えるみせた。
ザックさんで良かった……
私が異世界に来て、初めて会った冒険者が貴方で本当に良かった……
て、あれ?
俺また、私って言ってなかった?
これ、本格的にヤバない?
ううん、まあ…… いいか……




