第三十六頁 光の正体
「なんだったんですか、今の……」
私は思わず呟いていた。
「いや、お前がやったんだろ?」
「え…… わたしぃ?」
見ると、そこには人間の姿に戻ったユヅキが立っていた。
あの後、直ぐにボアちゃんを本に戻して、ユヅキを解放したんだ。今は彼の仲間達が、私の回りを囲んでコチラを見ている。
そんな中、彼は呆れたような表情でコチラを見下ろすと、深い溜め息を吐いてみせた。
「はぁ、全くもって面白そうな女だよ、お前は……」
その言葉には何処かトゲと言うか、馬鹿にしたような感じの雰囲気を感じる。と言うより、完全に馬鹿にされたと思う。
「な、なんですか!? なら、貴方はわかるんですか? あの光の正体!!」
「わかるよ。ありゃ、契約成立の光だ」
「ほえ?」
思わず、間の抜けた声を出してしまう。
そんな私の様子を見て、ユヅキは再び馬鹿にした様な表情をコチラに向けて来た。
むむむ、このやろう、私を馬鹿にして……
「お前、本当にわかってねぇみたいだな。それでもお前は召喚師なのか?」
「しょ、しょうかんしぃ?」
思わず、目を丸くしてしまう。
わ、私は召喚師だったの? いや、まあ、そんな感じはしてたんですけど。まさか、本当に召喚師だったとはね……
て言うか、なんでそんなことをユヅキが知ってるのだろうか。この世界では常識なのかな?
不意にユヅキを見ると、コチラの事をマジマジと眺めている。
そして、その顔はいかんせん、怪訝そうな表情を浮かべている。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、召喚術ってのは。魔物との契約、封印、そんで召喚、使役って過程を踏む魔術だ。魔術の中でも最高位の技術だ。それだけ、扱える者も少ない……」
彼の言葉に、思わず「へぇー」と相槌を打ってしまう。
すると、私のそんな反応を見たユヅキは眉を潜めると、心底呆れたと言った様子の顔をコチラに向けて来た。
「いや、だからよ。俺が言いたいのは、そんな大それたモンが、なんでお前さんみたいな馬鹿が使えんだってことだよ……」
「ば、馬鹿って…… そんな、ハッキリ言わなくても、いいじゃないですか……」
我ながら馬鹿だと言うことは自覚しているけど、面と向かって言われると来る物がある。普通に傷つくし、悲しい。
少しぐらい、誉めて欲しい……
私が落ち込んで居るのを察したのか、ユヅキは取り繕う様にして口を開いた。
「い、いや、すまねぇ。気にしないでくれ。俺は口が悪くてな。何もお前を術師として馬鹿にしてる訳じゃねぇ。魔力もかなりの量だったし、それの扱いも無茶苦茶だが悪くない。お前の召喚師としての力量は疑ってねぇ」
それ、誉めてるの?
全くわからないよ、それに……
「あのぉ…… その、ま、まりょくって、なんですか?」
私はまたしても間の抜けた言葉を発してしまった事だろう。
もうここまで来るとわかる。
私がこの世界の知識について、相当無知であることに……
そして、そんな俺を見たユヅキは次こそ本気の溜め息を吐くと頭を抱えてしまった。
そんな、態度しないでよぉ……
悲しくなってくるよぉ……
「テメェがバンバン出してた蒼い光だよ。それはわかってるよなぁ!? 蒼い光って、なにぃ? とか流石に言わねぇよな!?」
「あ、ああ!! アレが魔力だったんですね!! なんとなく、そんな気はしてたんですよぉ!! ははは!!」
俺の答えにユヅキは少しホッとしたような表情を見せると、再び眉を潜めて見せた。
「しかし、お前は本当に何者なんだ? そこまで無知で召喚術を習得するなんて。しかも、俺と契約を結べる程の魔力。馬鹿が一周回って、天才って奴か?」
「い、いや…… それはちょっと違うかな……」
これは一体どういう事なのだろうか。
私よりも、私の能力に詳しいとは、貴方こそ何者なのだろうか……
そう聞こうと思ったのも束の間、ユヅキは俺の口を手で制すと目線で私の背後を示した。
そちらの方向を見ると、松明の光だろうか。夜の帳が降りる闇の中、暖かみのある赤い光が幾つか見える。
一体、アレは……
「恐らく、お前を助けに来た奴等だろう」
あ、なるほど……
そう言えば、ザックさんやロランさんを置いてきちゃったんだった。そうか、でも追いかけて来てくれたんだ。そうだよね、私達仲間ですもんね。
「まあ、頼むぜ。アイツ等には上手いこと言って帰って貰ってくれ。詳しい話はまた今度にしよう」
そう言うと、コチラの返答も待たずに彼は狼へと姿を変えると闇夜に消えて行ってしまった。もちろん、ユヅキの部下達もそれに続いて、闇夜に紛れて消えて行ってしまった。
「姉さん。アニキを助けてくれてありがとうございます」
蜥蜴が最後に俺の耳元で呟くと、彼も闇の中へと消えて行った。
そして、私は一人、闇の中に残された。
よくわからない生物の鳴き声や足音が辺りから聞こえて来る。
音のした方向を見ても、暗闇のせいで何がいるかまったくわからない。
その時、不意に何かが羽ばたく音と共に闇夜に一匹の梟が飛び立って行った。そして、呑気にホーホーと言う鳴き声を夜空に響かせた。
「あ、あの…… ふ、普通に怖いんですけど……」




