第三十三頁 戦うんだ、タスクボア!!
先ずは、第一関門。
俺は本に手を重ねると同時に声を発した。
「ボアちゃん!! 戻れ!!」
それが可能かどうかはわからない。だけど、前回だって本の中に吸い込まれていったんだ、出来るハズだ。
根拠はないけど、確信めいた物が俺の中にはある。
俺のその考えは正解だったらしく、ボアちゃんは金色の粒子へと姿を変えると俺の持つ本の中へとそのまま吸い込まれて行った。
よし、出来た!!
なら、次だッ!!
俺は空かさず、もう一度ボアちゃんを呼び寄せる為、本に力を込める。すると、蒼い光が溢れると同時にその光の中から小さく可愛らしいうり坊が姿を表した。
よし、これも出来るみたいだ。
一日に呼び出せる回数制限があったらどうしようと思ったが大丈夫な感じだ……
見ると、巨大な狼は怪訝そうな様子でコチラを眺めている。そして、戸惑いながらも、おもむろにその鋭い牙を見せる様に口を開いた。
「なんなんだテメェ。何をするつもりなんだ!?」
その問いかけに俺は思わず笑ってしまう。
何をするつもりかって、正直な事を言うと、我ながら相当な馬鹿をやらかそうとしている。成功するか失敗するかわからない賭けだ。
だけど、やる価値はある。
俺の様子から何か狙っていると察したのか、アチラも牙をぬらりと輝かせながら口を歪めてみせた。
「ここで笑うかよ。嫌いじゃねぇぜ、そう言うの。だがな、俺の正体を知られたなら生きて返す訳にはいかねぇ。次こそ、死んでもらうぞ!!」
その瞬間、俺と狼が同時に動き出した。
狼は力強く地面を踏み込みコチラへと駆け出した。俺は瞬時にボアちゃんを拾い上げると、思いっ切り夜空へとブン投げてみせた。
「なっ!?」
狼が仰天した様子で夜空を見上げる。
無論、その視線の先には可愛らしいうり坊が一匹宙に浮いている。その表情からして、自分の身に何が起こっているかもよくわかっていないだろう。
この光景を見たら、動物愛護団体が発狂するだろう。
だが、そんなことは関係ない。
俺は本に手を添えると、正体もわからない謎の力を全力で注ぎ込んだ。
次から次へと蒼い光が身体から溢れ、それは辺りを埋めつくす程の閃光へと変貌していく。明らかに、今までに無い程の力が本へと注ぎ込まれている。
「ちっ!! 何のつもりだか、さっさとテメェを片付けてやる」
ユヅキは我に返ったのかコチラに視線を向けると、再び地面を蹴り、コチラへと跳躍し飛び掛かってきた。
ぬらりと光る牙が、その大きな口から姿を現す。そして、それは徐々に徐々にこちらに近づいてくる。
しかし、俺の視線は既に彼ではなく。その向こうの夜空を見つめていた。
俺のその視線に気付いたのか、ユヅキは視線で背後を見た。
恐らく、彼は今、自分がどんな状況に追い込まれているか、はじめて理解しただろう。
彼の視線の先には恐ろしい大きさになった猪。
つまり、ボアちゃんが宙に浮いており、それが凄まじい速さで彼に向かって落下していたのだ。
というより、俺がそうなるようにしたんだけどね。
そんな事を思っている間に、ボアちゃんは大きな土ぼこりを巻き上げながら地面に落ちていった。
凄まじい地響きが辺りに響くと同時に、地面が大きく揺れる。
なんて、凄まじい衝撃だ。
巻き上がった土ぼこりが止むと、目の前には巨大な姿になったボアちゃんと、その巨体の下敷きになって、動けなくなったユヅキがいた。




