第二十六頁 認識証
「これはあれ、銅ですか?」
「ああ、それは“銅の認識証”まあ、駆け出しの冒険者が持たされる認識証だな。その上が“鉄の認識証”だ」
そう言うとザックさんが懐から自慢げにドックタグを取り出し、こちらに見せてきた。見ると、それは鈍い光沢の有る鉄色をしている。
成る程、ドックタグを認識証として使ってるのね。まあ、正しい使い方ではあるのだろうけど……
一般じゃあ、アクセサリーとしてしか普及してないから、どこか違和感がある。
正直な所、アクセサリー程度にしか思えん、重要な物なのかな?
俺が考えてる間にもザックさんは次へと説明を進めている。
「そんで、その上が……」
「“銀”に“金”。そして考えてる“白金”って感じですか?」
俺の言葉を聞いたザックさんが「わかってるじゃねぇか」と言った顔で笑って見せた。そして、自分の認識証を懐に戻すと、今しがた浮かべていた笑みを不敵な笑みへと変えた。
「ただ“白金”の上にはな“紅玉”翠玉”“蒼玉”って言った宝石を象った認識証がある、らしいんだよ……」
「へぇ、それはどれが一番凄いんですか?」
俺がそう聞くとザックさんが「さあ?」と首を傾げてみせた。俺は「使えねぇな」と思いながら、視線をロランさんへ移した。すると、意外な事にロランさんも「さあ?」と首を傾げた。
その様子に俺は思わず声を出してしまった。
「え? ロランさんも知らないんですか?」
「知らないと言うか、わからないんです。宝石級は何か特別な偉業を成し遂げた人や、特殊な技能を持っている人に与えられると噂されてます」
なんだ、やっぱり知ってるじゃないの~
俺は満足気に頷いて見せた。
「やっぱり、ロランさんは物知りさんですね~」
「おい、なんだその言い方は!! まるで、俺が馬鹿みたいじゃないか!! 俺も一応は知ってたんだぞ!!」
俺は「その通りですよ~」と言った感じのニヤケ顔をザックさんに向ける。
すると、ザックさんは最初はしかめっ面をこちらへと向けて来たが、直ぐにその顔を得意気なふてぶてしい顔へと変えた。
「ふん、いいさ。アイラ!! お前は重要な事に気が付いてない。お前は俺の口利きでこのギルドに入った。そして、俺はギルドの奴等にお前に手を出すなと言った。つまり……」
「つまり?」
俺は思わず首を傾げた。
コイツ、何を言ってるのだ? と……
「つまり、アイラ!! お前は俺以外とパーティーを組めないッて事だよ!! どうだ!? 他の奴等は俺に気を使うから、お前を引き抜こうとは思わない!! だから、お前は俺とパーティーを組むしかないんだよ!! ハッハッハ!! いつバレるかハラハラしてたが、お前が馬鹿で助かったぜ!!」
ああ、なんだ。
なんか白々しい、態度してたと思ったらそんなことか。
やっぱり、しょうもない事を考えてたんだな。
まったく、そんな事しなくても、パーティーに入ってあげるのに……
「どうだ! これで俺が馬鹿じゃないってわかっただろ!」
「ええ、そうですね。貴方は天才ですね。まあ、これからよろしくお願いしますね」
俺は満面の笑みで答えて見せた。
すると、ザックさんは唖然とした顔でコチラを眺めていた。その鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔を見て、俺は思わず笑いそうになってしまった。
「え? いいのか?」
ザックさんは尚も唖然とした顔で、コチラを眺めながらそう口にした。
なんだこの面白い生物は……
思わず、頬が緩んでしまう……
「ええ、そう言ってるじゃないですか。もう私は疲れたんで、休んでいいですか?」
「あ、ああ。お前の部屋は二階の角部屋だ。これが部屋の鍵だ……」
俺は「ありがとッ」と鍵を受け取ると、マシマロに声を掛け、軽やかな足取りで階段へと走り出した。
「さっ! 行くよマシマロ!」
「きゃう!!」
何でだろうか、思わず素っ気ない態度を取ってしまう。
なんか得意気になれて楽しい。男の子を弄ぶのは悪くない気分だな……
そんな事を思っていながら、俺は悠々とした足取りで階段に足をかけた。その時、俺の背中に向かって、アルさんが急いだ様な口調で声を掛けてきた。
「そ、そうだ、アイラ!! もし街に一人で出る事があったら“スラム”にだけは絶対に行くなよ!!」
「は~い、わかりました~」
そうか、こんな気持ちだったのか女の子って……
女の子って、悪くないかも~




