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婚約破棄された令嬢のそのあと 〜現実は物語のように甘くない〜  作者: みるくコーヒー


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第七十一話 「思案」


「お姉さま、どうにかしてよ!!!」


 朝からロージーの大声でクロエは頭が割れそうになる。


「ちょっと、朝から大きな声を出さないで……」


 完全なる寝起きの中で、ロージーはクロエの部屋に突撃してきた、

 開口一番発せられた言葉に、クロエは全く心当たりがなく一体何のことかと思ったが、思考を巡らせようとしても起きたばかりで頭が働かない。


「何回も断りを入れてるのにしつこく招待状を送ってくるのよ! お母さまが発見する前に対処しないといけないから、毎日神経がすり減って仕方がないわ!」


 ロージーは誰だとは明言しなかったけれど、クロエはその行動の主がナサニエルであることを理解していた。

 クロエの知る限り、ロージーはあれから積極的にナサニエルと関わろうとはしていなかった。ロージーの性格を考えても、目立つ行動をしたいタイプではなく、関りを持つだけで目立ってしまう王族と距離を取りたいと思うことは必然であろう。


 だが、ナサニエルにとっては逆らしい。


「私に一体何が出来るって言うのよ……」

「だって、お姉さまはこれから親族になるわけでしょう?」

「そんな無茶な……」


 妹の突飛な発想に白目を剥きそうになりながら呆れかえる。

 ナサニエルはどうやらロージーのことが気に入っているようだし、一国の王子と知り合いでいることはロージーにとっても今後何かしらの役に立つはずだ。クロエは、この件に関してはロージーの肩を持つつもりは一切なかった。


「わたしは、ただ穏やかに過ごしたいだけよ」


 中々、自身の味方をしてくれないクロエに唇を尖らせながらロージーはボソリと呟いた。

 穏やかに過ごしたい、と言いつつも彼女が目指す道の先はそれとは程遠いものだ。

 だからこそ、クロエは安易に賛同することはしなかった。彼女の味方だからこそ、彼女のことを思うからこそ、寄り添うだけが全てではないのだ。


「前にあなたから何をしたいのかを聞いた時、私たちは姉妹なんだなって思った」

「何よ、それ」


 クロエの言葉を聞いて、ロージーは不意に笑みをこぼす。


「私たちは二人とも、誰かに敷かれたレールではなくて自分で自分の人生を決めて生きていきたいんだって。ロージーが言っていたことも、私はきっと成し遂げられるって信じてる。だけど、普通と違うことをすると必ず注目されてしまうものよ。この先、その覚悟は必要だと思う」


 クロエは打って変わって真剣な表情で伝えた。

 ロージーもそれを真剣に受け止めて、俯きながらもジッと考え込む。

 二人の間で、少しの静寂が流れた。


「お姉さまは、どうして覚悟を持てたの……?」


 唐突な質問にクロエは目を見開いて、口を一文字に結んだ。

 今も覚悟を持てているのだろうか、とすら感じる。


「私の場合は、ゴーズフォード家に嫁ぐことが早くに決まっていたから、図らずも注目されることには慣れてしまっていたわ。だけど、そうね……あらためて立ち上がる覚悟が出来たのは、自分で進んでいかなければいけないって気が付いたからよ」

「……少し、時間がかかるかも」

「うん、ゆっくり考えたらいいと思うわ」


 ロージーは、小さく頷いてから、空気が重くならないようにニコリとクロエに笑いかける。

 これでこの件について話は終わりだという雰囲気が流れたが、ナサニエルとの関係のことがクロエの頭の中に残っていた。


「前に話を聞いた限りだと、ナサニエル殿下のことが嫌いだというわけではないのよね?」

「それは、まあ、彼と手紙をやりとりをしたり、意見交換をしている時間は楽しかったわ」


 ロージーははじめ、口を尖らせながら歯切れ悪く答えたが、言葉の最後には彼と過ごした時間を思い出しているためか、穏やかな微笑みも零れていた。


「嫌いではないのであれば、あまり複雑に考えず一人の友人として交流を持てばいいと思うけれど」

「勿論、一人の人間としてとても尊敬してる。でも、わたしが一人の友人として会っていたとしても勝手に判断して批評するのは他人だわ。それは、お姉さまが良く知っているでしょう?」


 ロージーの言うことに心当たりがありすぎて、クロエはそれ以上に声を発することをやめた。

 今日のところは今のロージーの想いを聞くことが出来ただけで良いと自己完結したのだった。


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