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婚約破棄された令嬢のそのあと 〜現実は物語のように甘くない〜  作者: みるくコーヒー


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第五十六話 「面談」

すみません……投稿の順番間違えて先に57話を投稿していたことに今気が付きました……

既に57話読んでしまったみなさま、辻褄が合わない部分があり混乱させてしまって申し訳ございません


「失礼します」


 副所長の部屋をこんこんとノックする。

 中から「どうぞ」と返答があったため、クロエは部屋の中に入っていった。


「長く外に出ていたものですから、書類で溢れていてすみません」


 カシュの部屋は、机の上が書類の山で資料も置き場所がなく床から積まれている。

 いくつもの長期任務から戻ってきて事務処理も多く、ひとつひとつ優先順位をつけて処理をしている状況であった。


 クロエは、カシュからジェスチャーでソファーに腰を掛けるように促されたため、資料や書類の山を崩さないようにそっと座った。


「こうして話をするのは随分と久しぶりですね。最近はいかがですか? 新しいことに挑戦をしていることも所長から聞いています」


 カシュはクロエと対面に姿勢よく座って、眼鏡をクイッとあげながら言葉を投げかける。


「魔道所に勤めてそれなりに経ちますが、新しく学ぶこともあって戸惑った部分もあります。でも、順調に進めていると思います」

「そうですか、それは何よりです。生活環境も変化があったようですね、着ているドレスが以前とかなり違います」


 指摘を受けて、クロエは視線を下げて自分の着ているドレスに目を向けた。

 確かに最後に会ったのは半年以上前で、その間に目まぐるしく自分の置かれた状況が変化していった。

 最後に会ったときは、まだドレスを新調できるほどの余裕はなくて古びた衣服を身にまとっていた。


「ファルネーゼ大公令息の婚約者、という肩書がある以上は前のような衣服を着ていることは出来ませんからね」


 クロエは苦笑いしながらカシュの方に視線を戻すと、クロエでも見たことがないほど珍しく目を真ん丸にして驚きの表情を浮かべていた。

 その顔を見た瞬間に、クロエは『知らなかったんだ』と理解をした。


「それは初耳です、とても驚きました。ご婚約、誠におめでとうございます」


 カシュはすぐに表情を整えて、眼鏡の縁をクイッと持ち上げる。彼の中で、そのしぐさは癖であり自分の気持ちを落ち着かせるためのルーティーンでもあった。

 彼らしく、とても丁寧に祝いの言葉を述べてお辞儀をする。


「それでは、結婚後は仕事をやめてしまうのですか?」

「私は続けていきたいですが、そこはルークや大公に相談をしないといけませんよね」


 大公家の女主人と魔道所の仕事を両立させることはかなりの無理難題だろう。

 少なくとも結婚するまでは仕事を続けたいと思っているし、ルーカスは好きなようにしたらいいとクロエの気持ちを尊重していた。ファルネーゼ大公がどう考えているかまでは、正直ふたりにもわからない部分ではあるが。


「なるほど……僕としては、是非続けていただきたいと考えております。聞いた話での判断ではありますが、クロエさんの努力や挑戦をする姿勢を尊敬しています。あなたが来たばかりの頃、死んだような顔で希望もなく生きていたように思えますが、少しずつ変化していって僕がいない間に随分と表情が明るくなりましたね」

「一歩踏み出すことが怖くて、ずっと立ち止まっていました。辛いことから目を背けてきたけれど、自分で動かないといけないとやっと思えてきたんです。勿論、私一人だけの力ではないですが、ようやく前に進めているような気がします」


 クロエの言葉を聞いたカシュは、小さく口角をあげて穏やかに笑みを浮かべる。

 その表情を見て、クロエはホッと胸を撫でおろした。


 先ほど声掛けがなかったこともあって、もしかしたら怒られるのではないかとクロエは懸念していた。

 カシュが無暗に他人を叱責するタイプの人間ではないことがわかっていながらも、不安を抱きながら面談に挑んだ。それは杞憂だったようだ。


 『努力や挑戦する姿勢を尊敬する』という言葉を反芻して心を満たしていく。


「それで、これは提案なのですが……僕はクロエさんに『魔導師副補佐官』を担っていただけないかと考えています」

「え!?」


 突然の提案に、クロエは目を白黒させた。

 魔導師副補佐官は、その名の通りで魔導師補佐の副リーダーのような存在だ。

 補佐官ひとりではさすがに管理が大変なので、補佐官の手伝いをする。常時2,3人が副補佐官の役割を担っていて、それがクロエに打診されたわけだ。


「わ、わた、私が、ですか!?」

「いまは二人に担っていただいていますが、やはり業務量が多くてもう一人いて欲しいという声があがりまして。勿論、今すぐお返事をいただく必要はありませんので、ゆっくりと考えてください。また頃合いを見て声をかけます」


 それからは、雑談をしながら時間が過ぎて行ったのだが、副補佐官の打診がクロエの中で衝撃が大きすぎて、正直なところ彼女は一体そのあと何を話したか、いまいち覚えていないのだった。


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