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婚約破棄された令嬢のそのあと 〜現実は物語のように甘くない〜  作者: みるくコーヒー


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第五十四話 「聞込」


 パーティーの後、クロエは家に帰ってきたあとにロージーの部屋を訪れていた。

 クロエとロージーは対面で座って会話を繰り広げている。


「そういえば、ナサニエル殿下と親交があったなんて、驚きだわ」

「わたしだって、彼が王族だなんてはじめは知らなかった」


 クロエが聞きたくてうずうずとしていたけれど、初めから会話に出すのは何だか気が引けて他愛のない話をしてから話題にあげた。

 対してロージーは、どうせ聞かれるだろうとは思っていたようで『やっぱり』と若干の呆れ顔で応えた。


「お姉さまが期待しているようなロマンチックな展開じゃないわよ」

「でも、どうやって仲良くなったのか聞いてみたいな」


 クロエが変わらずに目をきらきらとさせながら聞いてくるので、ロージーは諦めたようにため息をつきながら「わかった」と頷いた。

 自身の妹から浮いた話を聞いたことがなかったため、少しでもそれらしい話が出来ることが嬉しくて仕方がないらしい。


「わたしが昔から政治に興味があることは知っているでしょ?」

「ええ、ルークと小難しいことを話していたこともあったわね」

「公に女性がそういった話をすることをこの国も貴族たちもとても嫌がるけど、でも何か少しでも参画出来ないかと思って国立図書館にある意見箱に投書をしたの。そうしたら返答がきて、それから手紙のやり取りが進んだことがはじまりよ」


 さあ、これで興味はなくなっただろうと思ったロージーだったが、全くもって予想は外れて相変わらず目の前の姉は目を輝かせたまま続きを求めていた。


「……それで、勿論相手が誰かなんて知らなかったけれど、直接意見交換をする時間を作ろうという話になって図書館で会うことになったの」

「そこで彼が第三王子だってことに気が付いたわけね?」

「いいえ、全然。社交の場に顔を出さなすぎて第三王子がどんな顔だったかなんて覚えていなくて……彼が王族だと知ったのは、お姉さまとルーカスが婚約発表したパーティーのときよ。びっくりしすぎて叫ぶとこだったわ」


 クロエは「凄い出会いじゃない!」と歓声をあげる。十分に彼女のイメージしていたロマンチックさのある話だったようだ。

 ロージーとしては一刻も早く興味を失って欲しかったけれど、どうやらそうもいかなそうだった。


「申し訳ないけど、わたしは恋愛事には全く関心がないの。貴族の女性に生まれたから、結婚して女主人となって世継ぎを生んで生涯を過ごさなければいけない、なんて決められた人生を歩いていくつもりはないわ」


 強い意思を宿した言葉と表情に、クロエはハッとした。

 欲しいものを自分の力で手に入れることが出来ないと感じた悔しさ、与えられたものではなく自らで決めていきたいと決意した気持ちが自分にもあったことを思い出す。


 ロージーも自分で自分の人生を決めていきたんだ。

 ある意味、やはり私たちは血を分けた姉妹なんだとクロエは感じる。もしかしたら、母親の抑圧がそうさせているのかもしれないけれど。


「ロージーは、何をしたいって思っているの?」

「……この世界では、女性が政治に参画したり、王が女性である国も存在するそうよ。女性だから、男性だからと性別で役割が与えられるのではなくて、自らが成し遂げたいことを選択できる世の中であるべきだと思っている。だから、少しでも良い方向に何かを変えることが出来ればいいなって……具体的にはまだ定まっていないけど」


 ロージーは、ひとりしきり話したあとに照れたように笑ってみせた。

 自分の心の内をさらけ出すことや考えていることを言語化することは簡単なことではない。


 クロエはロージーの手をぎゅっと握って強いまなざしを向ける。


「きっと、ロージーなら出来るよ!」


 何か確信的な根拠があるわけではないけれど、クロエは心の底からそう思っていた。

 ロージーの夢はかなり大掛かりなことで、生きているうちにそれが成し遂げられるとは彼女自身も思っていないけれど、足掛かりになるような何かを少しでも築けることが出来たらいいと考えている。


「うん、ありがとう」


 ロージーの考え方は、大勢から賛同されることはきっとないだろう。

 実際にメルロは、結婚して子どもを産み育て女主人となることが貴族女性にとっての幸せだと考えているし、その価値観を娘二人に押し付けている。


 だけれど、ひとりでも自分のことを応援してくれる味方がいるのだという事実は、ロージーにとって大きな自信になっているのだった。


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