第五十一話 「盟友」
ふたりはどうにか仲直り出来ているだろうか。
かなり無理矢理に二人きりの環境を作ったことをクロエは良く理解していた。
ロージーの荷物を使用人に預けて、戻っても良い頃合いを見計らいながらそわそわと落ち着かずにいる。
玄関の扉を少しだけ開けてちらりと覗いてみると、殺伐した空気が流れているかと思いきやそこには普通に会話を繰り広げる二人がいた。
自分がいない少しの時間に一体何か起きたのか、とクロエは困惑しながらも二人の元に歩み寄る。
「二人とも待たせてしまってごめんね。私がいない間に仲直りが出来たみたいで良かったわ」
クロエが声をかけると、ふたりは顔を見合わせてくすりと笑った。
「僕たちは盟友だったということを思い出したんです」
「そうなの、それを再確認したらとりあえず喧嘩していたことは水に流そうってことになったの」
ルーカスとロージーの言っていることが全く理解できず、クロエは戸惑う表情を浮かべながらも「そう……なのね」とわかったような振りをして見せた。
思い返すと、昔二人が喧嘩した時も同様の状況だった。
自分が席を外している際に何やら話し合いが行われたようで、戻った時には仲直りが済んでいた。
とにかく、無事に事態がおさまったので良しとしようとクロエは自己完結することにした。
「お姉さまに荷物を運ばせてしまってごめんなさい。わたし、荷物を整理してくるわね」
「荷物はたぶんロージーの部屋に置いてあると思うから」
「わかったわ。またね、ルーカス」
ロージーの声掛けにルーカスは片手を挙げて応じる。
まさに友人らしいやり取りで、先ほどまで険悪だったこともあってクロエは安堵する。
「そういえば、僕に渡したいものって?」
ルーカスがクロエに話しかけながら、彼女の手元や周辺をきょろきょろと見遣る。
クロエは手ぶらで、周囲に何かプレゼントらしいものも見受けられなかった。
「あー……それが、その……二人で話す機会を作りたくて咄嗟に言ってしまったというか……ごめんなさい、プレゼントは無いの」
クロエは言い淀みながらも真実を伝えると、ルーカスはあからさまに肩を落とした。
「期待させて落とすなんて、あんまりです」
「ごめんなさい、がっかりさせようとは思っていなくて、咄嗟に言い訳が上手く思いつかなくて」
ルーカスは唇をムッと尖らせて言葉でも態度でも不平を伝えて、それに対してクロエは慌てた様子で謝罪を口にした。
「じゃあ、今度会うときにはプレゼントの用意を期待してもいいですか?」
「わかったわ!気合を入れて用意するから!」
長身のルーカスがクロエの顔を覗き込んだことで自ずと上目遣いになって、クロエは珍しい光景にどきりとしながらも少しでも彼の機嫌を取り戻すべく前向きな返答をした。
すると、ルーカスは「やった」と喜びを呟きながらニッと笑って見せた。
その笑顔にクロエはより胸を高鳴らせる。どきどきと打つ心臓をおさめるために気づかれないように息を大きく吸い込んでゆっくりと吐き出した。
「今日は幼稚な真似をしてクロエさんを困らせてしまってすみませんでした」
ルーカスを見送るためにエシャロット邸の外に向かって歩き始めたところで、彼は申し訳なさそうに進言した。
「でも、せっかく出来た二人の時間を邪魔されたことが許せなくって……こういう時に、自分の余裕のなさが嫌になります」
はあ、と大きくため息を吐くルーカスにクロエは首を振る。
「私が良かれと思ってロージーを呼んでしまったけど、まずはあなたに許可を得るべきだったわ。私の方こそごめんなさい。今度の社交界ではルークがエスコートしてくれるのよね、楽しみにしているわ」
エシャロット邸の門で手を振って別れる二人。
クロエはルーカスの姿が見えなくなるまで手を振って見送ってから中に戻っていったが、その様子はまるで初々しい恋人同士のようだった。




