公爵庶子リリアの提案
「何を売っているの?」
「え?」
私が声を掛けると、少女は驚き慌て出した。
「き、き、貴族様⁉︎ あ、わ、私は、その⁉︎」
しまった。
出自は別として、今の私の格好は質素では有るが公爵家の令嬢として恥ずかしくないドレスを身に身に纏ったご令嬢。そんな私が突然声を掛ければ貴族に耐性のない少女はパニックになるだろう。
貴族に難癖を付けられれば生活も人生も命さえも簡単に消し飛んでしまう。下町の平民にとって貴族とはそう言う存在なのだ。突然声を掛けられたらそれは驚くに決まっている。
「落ち着いて、私は何もしないわよ」
言葉を尽くし何とか少女を落ち着かせた私は、足下に広げられた物に視線を走らせた。
鉄屑、空瓶、ボロ布……ゴミの中から使えそうな物を拾い集めたのだろう。
薬草、木の実……採取物か、質は良くない。
総じてガラクタばかりだ。
「貴女、いつもコレを売っているの?」
とてもではないが生計を立てられる様な商いとは思えない。
少女の格好は薄汚れているが浮浪児と言う程ではない。今までどの様に生きて来たのだろうか?
「あ、あの……お、お母さんが病気で……お金稼いで、お薬を買わないと……」
少女は視線を落として呟く様に言った。
「…………」
「……リリア様」
考え込んでいる私の名をサラが口にする。
この不幸な少女に同情し、助けたいのだろう。
ここで施しをするのは簡単だ。
どんな病気かは知らないが、1人の病気を治すくらいの資金はある。
しかし、それをしてどうなると言うのか?
確かにこの少女は不幸だろう。
以前の私よりも不幸だ。
私をお父様との繋がる為の道具としか見ていなかったが、一応、衣食住を与えてくれるお母様が居たし、ガサツだったが可愛がってくれる娼婦の姉さん達も居た。厳しかったが守ってくれる女将も居た。
この少女は私よりも不幸であるが、1番不幸だと言う訳ではない。
少女より不幸な人間なんて掃いて捨てる程いる。
私は不幸な人間を目に入る端から助ける様な聖人君子ではない。
助けるならばそれ相応のリターンが欲しい。孤児院への施しだって、それにより得られるソフィアお姉様からの評価を狙った打算的な物だ。
それが無いならば、このガラクタを2、3個買ってあげるのが関の山だろう。サラの期待には答えられない。
例え、この件をソフィアお姉様に報告されたとしても私の評価は下がらない。
そう結論した私は、買い取るガラクタを選ぼうと再び視線を下げた。
「ん?」
そこで目に入ったのは角の方に置かれたボロ布だった。
布切れに、草や土から作った染料の様な物で絵が描かれている。
「ねぇ、貴女。その絵が描かれた布切れは拾ったの?」
「え? こ、コレは、拾った布に私が絵を描きました」
「染料はどうしたの?」
「お、お母さんが作った物です。お母さんは染料師なので……私が使う分も作ってくれていたんです」
「…………」
「どうされたのですか、リリア様?」
「サラ、貴女はこの絵、どう思う?」
「……どちらかと言うと上手い方かと」
うん、確かに上手だ。
幼い少女が描いたにしては、だが……。
「ねぇ、貴女。私のメイドにならない?」




