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年が明け、ダレンは予定通り三人の令嬢との顔合わせをすることにした。
一人目は同じ学校に通うベリンダ・ダウリング伯爵令嬢だった。
街のティーハウスの特別室を借りて待ち合わせをしたが、ベリンダは華やかなローズピンクのドレスを着て現れ、ダレンを見て大喜びした。
「ダレン君、あなたがお相手で嬉しいわ」
元々顔見知りだったこともあり、学校の話で会話は弾んだ。時折ベリンダ自身のことも話題に振ったが、釣書に書かれている程度の当たり障りのない内容だった。終始にこやかに接するダレンに、同席していたクリフォードは安堵の息をついた。
ベリンダは既に結婚は決まったもののようにはしゃぎ、
「少し街を歩きましょう?」
とダレンの腕を取った。
付添人の勧めもあり、ダレンはベリンダに誘われるまま二人で街を回った。腕を組んで香水や靴、帽子を売る店に立ち寄り、上目遣いで
「これ、素敵!」
「私に似合うと思わない?」
とアピールされたが、似合ってるともいいねとも返さず、ただ微笑みかけるだけで財布のひもは一向に緩まなかった。
こんな状況ならプレゼントすると言って来るのが普通なのに。
ベリンダは気の利かないダレンに心の奥で不満を感じながらも、くじけることなく、次に行った宝飾店でも
「これなんてどうかしら? 今日の記念になると思うの」
と小さなエメラルドのついたブレスレットを指さした。
ようやく口を開いだダレンは、ブレスレットなど見てはいなかった。ベリンダの目を見て、口元に笑みを浮かべたまま、
「うちの領はあまり豊かでなくてね。結婚しても宝飾品は我慢してもらうことになるよ」
その言葉にベリンダは眉をひそめ、慌てて笑顔を取り繕おうとしたが顔が強張ってうまく笑えなかった。
「や、夜会に行く時は新調するわよね? 同じものなんて恥ずかしくて付けられないわ」
「大丈夫だよ。夜会になんて参加しないから」
ベリンダは今目の前にある小さなブレスレットを買ってもらえない不満以上に、これから先も買ってもらえる見込みがないことに愕然とした。
「うちはタウンハウスも持てないような小さな領だよ。交流も隣の領くらいかな。陛下から呼ばれることなんてないだろうし、王都に行くことはあってもそう長く滞在することはない。…縁談を受けたんだから、うちの事情くらい把握してるよね?」
ベリンダは顔を青くしてうつむいた。指さしたブレスレットは手元に出されることもなく、二人は店を後にした。宝飾店に入りながら試着さえしない。ベリンダには屈辱だった。
ダレンは終始作られた笑顔を崩すことはなかったが、花さえもベリンダにプレゼントすることはなかった。
ティーハウスに戻ると、ベリンダは俯いたまま小声で別れの挨拶をした。ダレンと目を合わせることなく、エスコートを受けるより先に迎えの馬車に一人で乗り込み、発車を促した。
領主夫人として優雅な生活が保証されていると思っていた。描いていた未来への誤解に気付き、今日のダレンの対応への不満も加わり、癇癪を押さえるだけで精いっぱいだった。
翌日、ダウリング家から断りの手紙が来た。
同じように残り二人とも会う手はずを取ったが、一人は会いはしたが先方が断りを入れ、もう一人は顔合わせ自体を断ってきた。
世間的には、三人から縁談を断られた訳ありの青年と思われただろう。
ダレンは狙い通りに事が運び、満足だった。




