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赤い花、青い花  作者: 河辺 螢
第四章 薬草研究所
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4-4

 学生たちの夏休みが近くなった頃、薬草研究所にドーン達北邱の領の薬師三人と、領で薬草を作っている農家の息子がやってきた。みんなよそ行きにきちんとひげをそり、身なりもそこそこ整えて小ぎれいにしているが、落ち着かずそわそわしている様子がかえって一年前と変わらないように見えた。


「薬草の勉強会に来たんだよ。研究所が旅費を出してくれるっていうんで、くじ運の強い俺達が来たってわけだ」

「成績順じゃなくて、くじ運なんですか?」

「運も成績も大事だろ?」

 ニヤッと笑うドーンに、ルビアも思わず笑いながら頷いた。

 

 薬師達と一緒にダレンも研究所に来ていた。

「ダレン様も参加するんですか?」

「うん、今回はレイベ草の話だからね。その後の懇親会、君も来るだろ?」

 思いがけない誘いにルビアは戸惑ったが、ダレンは急かすことなく返事を待った。


「…はい」

 時を置いて答えたルビアに、ダレンは小さく頷いてルビアの頭を撫でた。

「よかった。断られても引っ張っていくつもりだったけど、無理強いして嫌われたくないからね」

 どっちが年上だかわからない。頭を撫でられたことなどなかったルビアは少し恥ずかしく、無理強いされたほうがまだましに思えた。

 後ろでドーン達も

「ちゃんと来るんだぞー」

と義理堅いルビアに念入りに約束を取り付けた。



 会場の準備をしているとみんなから声をかけられ、所長の一声で今日の業務は免除になり、勉強会にも同席することになった。


 研究会が始まる前に聞いた話では、北邱の領のレイベ草を研究所に提供することになり、その縁もあって今回の勉強会に領の薬師が呼ばれていた。どうやら所長は100%青のレイベ草の秘密を知っているらしい。

 青レイベ草とわかれば領のレイベ草を乱獲される恐れがあり、畑で取れる量もまだ限られていることから、もうしばらくの間は研究以外では領外に持ち出さないことになっている。口外しないようルビアも念を押された。



 研究会では、所長と所員の発表があった。


 所長の発表では、レイベ草の花の色は温度と交配時の優劣が影響しているのではないかと予想していた。

 南部、特に国境近くでは圧倒的に赤レイベ草が多く、青いレイベ草は突然変異種と扱われている。

 食糧が不足する時にレイベ草を食べることもあるが、青い花のレイベ草は食べるなと言われていて、青レイベ草を薬にする習慣はないそうだ。

 この地域で取れた青い花の種を植えても蕾をつける前に枯れてしまうものも多く、残ったものはどれも赤い花をつける。それが青いレイベ草が増えない一因と思われる。


 中部では青いレイベ草が比較的多くみられ、野生では南部に近い方では二割、北部寄りでは三割強が青い花だ。

 薬草として知られるようになってから畑でレイベ草が積極的に育てられている。早くからレイベ草を薬として使っていた谷の村では独自の選別方法で青い花を六、七割まで増やしているが、確実に青い花が咲くレイベ草の種を得るには至っていない。


 赤い花からとった種は高確率で赤い花がつき、平均して七割、多い場合は九割を超えて赤い花になる。

 青い花の種は南部とは違い枯れるものは多くないが、育つ花の色は赤になることが多く、谷の村のベテランが何代にもわたり青い花をより分け、種を採取しても青い花が咲くのは七割程度だ。

 この地域では赤レイベ草と青レイベ草の交配が進みながらも、赤レイベ草の要素が強い株と青レイベ草の要素が強い株があるのではないかという仮説の元、青レイベ草の純粋種に近い種を採取する試みが行われている。


 北部にいくほど赤青とも花を見かける機会は減り、聞き込み調査でもレイベ草自体知らない人が増えていく。花は小ぶりのものが多く、株も小さい。

 赤い花が確認できた北限は北邱の領より十キロほど南の村だが、目撃情報だけで実物は観察されていない。今期の花の季節に再度調査するとのことだ。


 今回の発表では北邱の領のレイベ草のことは報告されなかった。

 赤レイベ草が育たず、青レイベ草がぎりぎり育つ土地。それが北邱の領だとすると、薬としてレイベ草を生育する理想的な場所だ。その地にルビアが行くことになったのは偶然だが、何か運命的なものを感じずにはいられなかった。



 所長のレイベ草の話は薬効の話がほとんどなかったので、北の薬師達の興味を引かなかった。元々青い花しか取れないのだから、赤い花と青い花を選り分ける話などピンとこなかっただろう。しかしルビアには興味深い話だった。


 ルビアが谷の村の家を離れた年、畑から青レイベ草を抜いて売ったので、赤レイベ草が多く残ったはずだ。ルビアは花の咲いたところを見ていないが、おそらく村では見たことがないくらい真っ赤だっただろう。


 ダドリーは畑を続けているだろうか。

 種がつく前に刈り取り、枯れたら燃やし、灰を土に混ぜ込む。村の放置された畑に赤い花が増えてきた時に行われていた方法だが、誰かがダドリーに、祖母に教えただろうか。

 教わったとして、やり遂げるだろうか。

 こぼれ種から芽生えたレイベ草は赤い呪いを吐き続けるだろう。

 それでも村の人は余所者のことだからと知らんぷりを続けるのだろうか。



 次はレイベ草と相性のいい薬草、効果を打ち消す薬草の話になり、こちらは薬師の関心が高く、質問が飛び交っていた。


 予定時間を少し過ぎ、勉強会は終了した。


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