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赤い花、青い花  作者: 河辺 螢
第二章 キンバリー農園
14/53

2-5

 三日後、ルビアとマーリアは農園主モーガンに呼び出され、その日が最終評価を受ける日になった。

 数日前からいくつかの花は綻び始めていた。一目見ればすぐに結論は出るだろう。

 勝負のための区画の周囲には人が集まり、わざと少し遅れてその場に行ったルビアは、目の前の花が思った通りになっていることにうっすらと笑みを見せた。


 農園の人々はその圧倒的な光景に誰もが驚きを隠せなかった。

「そ、そんな、…」

 何より当人であるマーリアが驚いていた。隣にいたジェラルドは思わずマーリアの肩を抱き、引き寄せた。

「素晴らしい結果だ! これは決まりだな」

 モーガンは諸手を挙げて喜んだ。


「私の負けです。それでは失礼します」

 既にモーガンとは話はついている。ルビアはモーガンに最後の挨拶をし、部屋に戻ると用意してあったトランク一個分の荷物を手にした。


 玄関には馬車が待機していた。馬車を用意したのはマーリアの父親だ。新しい仕事を斡旋するのはマーリアの父親の知人で、ここから馬車で五日かかる北部の領の仕事だと聞いた。紹介状は今夜もらうことになっている。そんな不確かな仕事でもここに留まるよりはずっといい。

 ルビアは荷物を預け、馬車に乗り込もうとした。


「どこに行くんだ、ルビア」

 ルビアがいなくなったことに気付き、慌てて追ってきたジェラルドに、ルビアは振り返って小さく会釈した。

「出て行くことはない。ここで一緒に…」

「私がいてはマーリアさんも気を悪くされるでしょう。既に新しい勤め先が決まっていますので」

 まだ自分に未練を残すジェラルドを見ているうちに、ルビアはどうしてこんな人を好きだと思ったのかわからなくなった。あれほど新たな恋人の勝利を喜びながら、まだかつての恋人に未練を持つような人に…。


 自分が好きだったジェラルドは汚れることを厭わず、わからないことがあれば雇い人相手でも恥じることなく尋ね、共に働く事ができる人だった。一緒に畑で汗を流した祖父との思い出が重なり、心を動かしたのかもしれない。

 今のジェラルドは父親である農園主に似ていた。人を使い、利益を上げ、貴族と付き合いを深め、この農園を広げてきたやり手の経営者。雇い人と距離を置き、服の汚れに気を配るのは当然の事。農園主の妻は同じ価値観を持つ者こそふさわしい。そしてそれはルビアではなかった。


「お世話になりました」

 ルビアは馬車に乗り込んだ。二人の視線が合うことはなく、走り出した馬車をジェラルドは目で追うことしかできなかった。


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