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間もなく畑の評価を受ける頃、ルビアは街のホテルに呼び出された。
そこにはマーリアの両親、ノートン夫妻が待っていた。マーリアはその場にいなかった。あえて娘のいないところでライバルを呼び出したのは、娘を傷つけることなく事を運びたい親心だろうか。ルビアには縁遠い感情だった。
「君に勝ち目がないのはわかっているだろう?」
「はい」
あっさりと負けを認めるルビアにマーリアの父は戸惑いを覚えたが、ここできちんと話をつけておかなければ娘の将来に関わる。後で手のひらを返すことのないよう確実に追い払わなければ。
マーリアの父は、ルビアの目の前に金貨が数枚入った小さな袋を置いた。
「レイベ草の勝負に負けたら、君にはこの農園を出ていってもらいたい。行き先はこちらで用意しておく」
「…わかりました」
素直と言うよりも既に勝負を諦め覚悟を決めている様子に、ノートン夫妻は肩透かしをくらった。分をわきまえたやりやすい女だ。手を尽くして種を取り寄せるほどでもなかったかもしれない。
「農園主の妻になろうなんて妄想を抱いたあなたが愚かなのよ。どこの生まれかもわからない雇われ者のあなたがうちの子と張り合うなんて…」
隣に座っていた妻が目の前の女を嘲る姿にノートンも冷笑したが、ルビアには羞恥も反発も見られなかった。あまりに動じないルビアに薄気味悪さを感じた。恋人を奪われ、職場を去らなければいけない状況に追い込まれながら、どうしてこんなに冷静でいられるのか。
「ひとつ、…伺ってもいいですか?」
ルビアの問いにノートンが
「答えられることなら」
と応じると、いきなり核心をついてきた。
「同じ種を用意しなかったのは、初めから競う気はなかったということですね?」
「何のことだ? 言いがかりをつけたところで…」
「奥様は谷の村の血筋の方だそうですね。良い種を手に入れやすかったでしょう。村に縁のある女性でしたら薬草を見極める確かな目をお持ちでしょうし」
マーリアの母親はその問いに顔をこわばらせた。
嘘は言っていない。マーリアの祖母、自分の母親は谷の村出身だ。だが自分もマーリアも谷の村のことを知らないし、行ったこともない。
谷の村の血筋だと言えば薬草を選別する目を持っていると思われ、薬師からも一目置かれる。そのことを利用して、薬師の妻として少しでも夫の評価が上がるよう、そう言い広めてきた。何の問題もなかった。ろくに薬草に触れたことがなくても、「薬草を見極める確かな目」の本当の意味を知らなくても。
「私が勝てる訳がなかったんです」
ルビアは立ち上がると、金貨の袋を置いたまま帰ろうとした。
「忘れ物だ」
ノートンは金貨の入った袋を投げ渡した。金を与えたことで自分たちの罪悪感を拭いたいのだろうか。受け取れば「不正」の共犯とみなされるだろうが、ここを離れるならお金は必要だ。ありがたくもらうことにした。
ルビアは農園の自室に戻ると、いつでも農園を離れられるよう準備をした。




