第十一話 死闘
互いに強敵と認めていた。
戦闘タイプは異なる。
中西の主戦武器は回転式拳銃だ。
得意な間合いは中〜遠距離。
一方、ライアンの武器は左手の流体金属と右手の長剣。
得意な間合いは近〜中距離。
この場所は森の中でも木立がややバラついている。
双方ほぼ五分の条件で戦える。
「それで凌ぎ切るつもりかよ!」
先手を取ったのはまたも中西。
右、左と交互に回転式拳銃を放つ。
乱れ撃ちまではしない。
狙いは相手の動きの阻害にあった。
そしてもう一つ、回転式拳銃の弾切れを恐れてのことだ。
"装填の隙が出来れば致命的になりうる"
銃を武器にした際、これがどうしてもリスクになる。
無論、中西ほどの腕ならば弾を装填する時間は短くて済む。
だが六発全てを装填し、シリンダー部分をセットしなければならないのだ。
どうしても数秒以上は必要となる。
その時間を稼げるかどうか。
ライアンも当然そこを突いてくるだろう。
それを承知の上で中西は自ら攻撃を仕掛けている。
拡げた流体金属の網に弾丸が直撃。
二発、三発と重なりライアンがたまらず後ずさる。
「ぬっ」と呻き声が漏れた。
だが目立ったダメージは無い。
舌打ちしつつ、中西は距離を開けた。
遠距離からの連弾でこじ開け――しかし、ライアンも黙っていない。
「今度はこちらの番だ」
ゴゥゥ、と背中の蒸気管が唸りを上げた。
中西を追う。
生身の身体ではあり得ない速度でダッシュ。
中西との間合いを一瞬で詰めきった。
「なっ」
「身体の一部を蒸気機関化しているんでな。このくらいはお手の物だ!」
中西はどうにか左手の銃をナイフにスイッチ。
だがライアンの接近戦に耐えうる程か。
左手の流体金属が形を変えた。
三本の鉤爪のようになる。
大気を切り裂き、中西に迫った。
中西はこれをかろうじてナイフで防御。
だがあまりにも重さが違う。
倒れそうになり、危うく踏みとどまるのが精一杯だ。
そこにライアンが追撃!
「うおらああっ!」
右手の長剣を横薙ぎ一閃。
体内を巡る蒸気が機械化された体を加速させている。
その速度が斬撃に乗っていた。
中西はこれをかわせなかった。
だが無惨にも刃の餌食になったわけでもない。
ギィィンと高く澄んだ音が響き渡った。
ライアンは目を見開く。
「馬鹿なっ、今の一撃が何故届かないっ」
理由は分からない。
けれども追撃の手は緩めない。
左手を繰り出す。
この爪撃ならば確実に。
だがこれも止められる。
不可視の壁がライアンの攻撃をまたもや防いでいた。
「障壁展開。俺の奥の手の一つだ」
昔覚えた呪法、即ち東洋式の魔術の一種である。
よほどのことが無い限り、中西も使わない。
代償として高い集中力を必要とするからだ。
ずきり、とこめかみが痛む。
何度も使えるものではない。
奥の手を晒した今、それだけのリターンを。
思考と状況判断が限界速度で回る。
二度の攻撃でライアンは体勢を崩した。
ガードは開いている。
ここでリスクを取らねば勝ち目などない。
右手の回転式拳銃を構え、即座に連射。
シリンダー内の全ての弾を瞬時に撃ち尽くした。
一、二、三発。
この距離ならば全て命中させられる!
「ぐおおおっ」
血飛沫。
当たった、だが浅いか。
三発の内、二発が止められたのを見た。
敵もさるもの、右手の長剣と左手の金属の爪で防御を構築。
当たった一発はライアンの左腰の辺りを噛み破ったのみ。
致命傷には遠い。
思わず舌打ち。
これで右手の回転式拳銃は弾切れ。
左手のナイフでは届かない。
ならば。
「第二呪法、神速」
二つ目の呪法を発動させた。
その名の通り、身体速度を爆発的に引き上げる効果がある。
有効時間は短いが使い道は多い。
中西は駆けた。
前へ。
静止状態から一気に加速。
ライアンの動体視力でも捉えきれない。
「しっ!」
交差。
中西は左手のナイフを閃かせた。
狙いはライアンの頭部。
頭を振ってかわされる。
「ぐっ」というライアンの呻き声が耳に残った。
かすり傷、奴の右頬をナイフが掠った感触。
神速によるスピードを維持。
間合いが離れる。
ここで左手のナイフを回転式拳銃にスイッチ。
右手の回転式拳銃は弾切れのまま。
"何発残っている"
計算。
左は残り三発。
弾丸のケースには十発、間違いない。
これが残る全ての弾丸だ。
反応。
ライアンの左手がまたもや変形したのが見えた。
流体金属というだけはある。
肘から下がだらりと伸びていた。
細長い。
鞭、あるいは鎖状になっている。
メタリックな光沢が不気味だ。
あのリーチが意味するものは。
「ぜあっ!」
ライアンが吠えた。
振るわれた左腕に連動し、先端の金属の鎖が唸る。
5メートル以上の距離をあっさりと届かせた。
この高速の一撃を中西はかろうじて横っ飛びに回避。
カウンターで左手の回転式拳銃を撃ち込む。
残り二発。
だがこの二発で時間を稼げばいい。
"曲芸めいているが"
右手の回転式拳銃のシリンダーを開いた。
グリップを口に咥え、そのまま右手だけで弾丸ケースを開ける。
この時左手は回転式拳銃でライアンに狙いをつけたままだ。
一発撃ち込む間に、右手を素早く動かし口元の回転式拳銃に装填。
三発を装填完了。
左手の方の最後の一発を撃ち込む間に、同じ要領で残り三発も装填完了。
ライアンの目が見開かれているのが分かる。
そうだろうな。
左右同時に両手を別々に動かしてこんな器用な真似をするなんて。
お前の想像力を超えているんだろう?
口で支えた回転式拳銃を右手で握る。
我ながらよくやった。
「次で決めてやるよ」
中西廉は自らを鼓舞した。
右手にフル装填した回転式拳銃を構え。
左手は回転式拳銃からナイフへ再びスイッチした。
「大したやつだ」
ライアン・フラナガンはぞくぞくと震えた。
左手を通常形態に戻す。
右手の長剣を引き、突きの構えとした。
沈黙。
静寂。
たっぷり十秒、両者は対峙し。
終幕が訪れる時は突然。




