91、知恵は剣よりも強し
「それではトライアル最終戦を行う。両者、前へ」
大歓声の中、審判さんの声と共にテルガエフさんと対峙します。
3番手のテルガエフさんは【剛腕の闘士】の称号を持つバリバリの武闘派。
魔王さま以外に負けなしで、戦闘力は魔国で№2な人です。
見掛けも2mを超す長身に岩のような筋肉の塊。
黒い髪に真紅の角と眼の持ち主で、その眼が此方を思い切り睨み付けてます。
「俺は他の奴らのようにはゆかんぞ。魔将軍の名に懸けてトライアルを阻止してみせるっ」
ふしゅーと鼻から息を出す様は、闘牛みたいです。
「はい、よろしくお願いします」
軽く会釈をしてから今回の勝負の方法を説明します。
「すみませんが椅子をお願いします」
私の声に係の人が闘技場の真ん中に椅子を設置します。
「これをどうすると?」
怪訝な顔の審判さんに笑顔で説明を再開します。
「椅子に座った私を言葉だけを使って立ち上がらせてみせて下さい。上手く出来たらテルガエフ将軍の勝ち。出来なかったら私の勝ちです」
「ふざけるなっ、それの何処が勝負だっ」
思い切り吠えてるテルガエフさんに、しれっと言葉を返します。
「出来ないのですか?では今回の勝負は私の不戦勝という事で」
言いながら闘技場を後にしようとすると。
「分かったっ!やってやるっ」
「では始めましょうか」
ニッコリ笑うと中央の椅子へと腰を下ろします。
「それでは勝負開始っ」
審判さんの声と共にテルガエフさんが此方に歩み寄ってきます。
さて、何をしてみせてくれますかね。
「小癪な人族めっ。思い知るがいいっ。…立てっ!」
おおう、叫ぶなり此方に向けて容赦ない殺気を放ってきました。
凄いですね、首筋の辺りがチリチリします。
普通だったらこれで恐れ慄いて立ち上がったのでしょうが、残念ながら私には効きません。
何しろ図々しさは神様から太鼓判をもらってますし、それに最近はサンダー君と一緒にいる所為か威圧や殺気に対して免疫が出来てしまったようなので。
(旅の途中で稀に近付いてくる大型魔獣に向ける威圧はさすがドラゴンといったものでしたからね)
「むう、これに耐えるか」
表情一つ変えることなく座り続ける私に呆れと感心が入り混じった視線を寄こしてから、ならばと作戦を変えます。
「お前のような者に…¢£%#〇∂∬*@§▲▽�������」
どうやら私を怒らせて立ち上がらせようとしたみたいですが、始めはともかく途中から興奮したのか物凄い早口になってしまい。
なのでシュエール語が堪能でない私にはまったく理解不能。
息が切れたところで気の毒なので声を掛けます。
「奮闘中、申し訳ありませんが…私はシュエール語がそれほど得意ではないので将軍が何をおっしゃっているのか判りません。よろしければもう一度、私に分かる言葉でゆっくり話し直していただけますか?」
自分だけが分かる言葉を羅列されても此方には雑音でしかありませんからね。
「くっ、もういいっ!」
さすがに人を貶める言葉をそう何度も言いたくなかったらしく、悔し気に床を蹴って外方を向いてしまいました。
それから気を取り直し、いろいろと言葉を尽くして私を立ち上がらせようとしますが上手く行きません。
「ええい、言葉だけで立たせるなど出来るものかっ!」
とうとう癇癪を起こして石畳みの上に胡坐をかいて座り込んでしまいました。
「では私が座っている将軍を立たせてみせます。出来ましたら私の勝ちでよろしいですか?」
「構わん、やってみるがいい」
ふんと鼻を鳴らすテルガエフさんの前にゆっくりと歩み寄ります。
「確かに座っている者を言葉だけで立たせるのはとても難しいことです。将軍が苦戦するのも分かります」
「それを持ち掛けたのは其方だろうが」
「ええ、将軍は強敵ですから、半端な方法では勝ち目はありませんので。何しろ魔王さま以外に負けたことのないお方ですし」
「世辞はいいっ」
言いながら再び外方を向いてしまうテルガエフさん。
その頬が僅かに赤くなっているところを見ると照れているようです。
うん、可愛い。
「まあ、逆に立っている将軍を座らせるのでしたら簡単ですけど」
何気に呟いた言葉に、馬鹿なとテルガエフさんが反論します。
「どちらも大した違いはなかろう。それが簡単だと?」
「試してみますか」
「いいだろう」
頷くなり座っていたテルガエフさんが立ち上がります。
「はい、将軍は今、私の言葉で立ちました」
「あっ」
言われて初めてテルガエフさんは私の思惑に気付いたようです。
ですが既に時遅し。
しまったといった顔をする横で、審判さんが大きく右手を上げます。
「勝者、トワリアっ」
途端に沸き起こる大歓声。
「い、いや待てっ。今のは…」
完全に一杯食わされた形ですからね、反論したいのも分かります。
ですがさせませんよ。
「無しと言いますか?私は条件通りに言葉だけを使って貴方を立ち上がらせてみせましたが、剛腕の闘士・テルガエフ将軍ともあろうお方がそれを認めぬと?」
私の問いかけに、闘技場中の観衆が『そうだっ』『それでも魔将軍かっ』と野次を飛ばします。
本当に容赦ないアウェイですね。
そうお膳立てしたのは他ならぬ私ですけど。
「…分かった。負けを認めよう」
観念したように呟くテルガエフさん。
さすがは魔将軍内の実力№2、潔い方です。
「これにて本日のトライアルは挑戦者トワリアの完全勝利にて終了とする。よって我が子サミュアレイスとアンナレーナ・フリオレア侯爵令嬢との婚儀は無効とする」
魔王さまの宣言に場内は割れんばかりの拍手と歓声に包まれます。
その中をアンナレーナさまをエスコートしたベナアレスさんが登場しました。
傍から見ても美男美女のベストカップル、実にお似合いの2人です。
何より互いを見つめる眼差しが信頼と愛情に溢れているのが判ります。
この2人を引き裂こうとしたことが、いかに酷いことであったか誰にも判る光景です。
私の前にやって来ると揃って深々と頭を下げます。
「トワリア殿には感謝しかない」
「本当にありがとうございました」
「お礼はいいです。その分2人して幸せになって下さい」
笑んだままそう言うと、ベナアレスさんが大きく頷いてアンナレーナさまを強く抱き締めます。
「はい、約束します」
「必ずベナアレスさまと幸せになりますわ」
涙を浮かべながら微笑むアンナレーナさまは、最初に見た憂い顔が嘘のように惚れ惚れするほど綺麗です。
その顔を見ることが出来て本当に良かったです。
それでは最後の仕上げと行きましょうか。
「テルガエフ将軍」
「何だ?」
「あの勝負内容では御不満ですよね?」
「判っているなら聞くなっ」
「でしたらその不満、解消したくはありませんか?」
「あ?…何を企んでいる」
思い切り疑いの眼差しを向けてくるテルガエフさんに私の計画を伝えます。
「面白い。いいだろう、その話に乗ってやる」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げると今だ興奮冷めやらぬ観衆に向かって声を上げます。
「これよりベナアレスさんとアンナレーナさまの婚儀を祝い『タッグマッチ戦』を開催します。参加資格は2人組であること。そして優勝者にはこの…豪華カツカレーを進呈します」
言って取り出したのは千切りキャベツと肉厚トンカツが乗った湯気の立つ
カレーライスです。
その姿を見た観衆から悲鳴とも怒号ともつかぬ叫び声が上がります。
はい、超協力プレイで心を躍らせて勝利を掴んで下さい。
「ふむ、面白いな。組み合うことでそれが利点にも弱点にもなるか」
「はい、ただ強い者同士を組ませれば良いというものではありません。互いに無いものを補い合うことが出来なければ、足を引っ張り合うだけです」
「では私とお前で出てみるか?」
「お断りします。出るのでしたらバードス辺りと組みたいですな」
「…本気で勝ちに行く気だな」
「これでも戦うことが好きな魔族ですので。それにあのカツカレーとやらに興味があります。やるからには勝利したいですからな」
「いいだろう。その戦い、受けて立つ」
「楽しみですな」
そう笑い合うと魔王とベリンガムは足早に闘技場の中へと進んでゆく。
10年に1度、闘技大会を開いているだけあって手際良くすぐにトーナメント表が作られてサクサクと試合が進みます。
当然のことながら魔将軍と魔王さまはシード。
準決勝くらいからの出場です。
何しろ三度の飯より戦いが好きという国民性ですからね。
私が行った勝負だけではフラストレーションが溜まるだろうと予測してました。
なのでその解消に戦う理由を用意した次第です。
魔王さまと組むとすぐに勝敗がついて自分が戦いを楽しめないという理由でペアになってくれる相手がまったく見つからず。
すっかりいじけてしまった姿に、可哀想になったサミーが組むことを申し出てやっとチームが作れた…なんて事もありましたが。
それ以外は順当に勝負が進んでゆきます。
ちなみに敗退した人には参加賞としてアイテムボックスから熱々出来立てカレーパンを出して渡してます。
手にした皆さんが大いに喜んでくれましたので良かったです。
で、優勝は…。
【魔道の巧者】の称号を持つ魔法攻撃が得意なテンサリーヌさんと【鋭槍の天兵】という称号の通り、槍の名手のバンデルトさんのペアでした。
魔法と物理での息の合った攻撃は他の追随を許さず、その戦いぷりは舞を見るような優美さでしたね。
余談ながら、これがきっかけで2人は付き合い始め。
無事に結婚に至ったところから、このタッグ戦はすっかり恋人達の愛を育てる為の戦いになり。
後年、魔国での名物試合の一つとなったのでした。
めでたしめでたし。
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これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。 (ง •̀_•́)ง




