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69、老火竜の願い


「そもそも何故、竜人たちがあなたに魔獣を?」

 私の問いに遠くを見つめるようにして火竜おじいちゃんが話してくれたのは、この国の成り立ちに関わるものでした。



四千年の昔、火竜おじいちゃんが人化していた時に出会った人族の娘。

その娘と恋に堕ち、産まれた子供がこの世界で初めての竜人でした。

ドラゴンの血脈は濃く、2代、3代となっても消えることなく他種族との間でも片親が竜人ならば竜人が生まれました。


その間にも同じように人化して他種族と子を儲けるドラゴンが多く現れ、竜人はその数を増やしてゆきました。


二千年前には竜人国が誕生し、始祖である火竜おじいちゃんは多くの竜人達に尊ばれるようになり、同時に国の守護竜として神殿近くの山に住むようになりました。

本人的には孫や曾孫を見守る爺ちゃんポジのつもりで引き受けたのですが、長く時間が経つうちに、竜人達は火竜おじいちゃんを神として崇めるようになったのです。

おかげで誰も以前のように気軽に話しかけても、接してもくれなくなってしまいました。


完全に神棚の御札扱いですね。

大切にはするけれど、それ以上でもそれ以下でもない。

儀礼的に貢物として魔獣を供え、引き換えに国家安全を願うだけの存在になってしまったんです。

火竜おじいちゃんは生きて、ちゃんと意思があるのに。


「それは寂しいですね」

「しかしそれならば言えば良いのではないか。嫌なものは嫌だと」

「無理だよ」

「何故だ?」

 首を振る私に、ウェルが不思議そうに聞いてきます。

「下手なことを言ったら世話をしてくれている人の責任問題になるし、そのことで罰せられる人も出るだろうしね。…神様って面倒臭いものなの」


昔のお殿様がそうだったようですね。

御飯のおかずの中に虫が入っていても、それを指摘したら料理人だけでなく、運んだ者、配膳した者、それらを統括している上役全員に咎めが及ぶし。

下手をしたら切腹しなくてはならない者さえ出るので、虫をそっと懐紙に包んで何事も無かったように食事を続けていたとか。

しかも毒見の関係で作ってから数時間たった冷え切ったご飯を食べてたんですよ。

本当にお気の毒。


「むう…」

 例えに出した殿様の話に思わずウェルが唸ります。

「まるで拷問のようだな。私だったら冷え切った飯など絶対に我慢できん」

 まあ確かに、温かい物や冷たい物は適温で出すのが一番の御馳走とも言われますからね。


『そやったら爺さんはずっとこのままかぁ』

 気の毒そうなサンダー君に、まさかと手を振って否定します。

「ちゃんと改善できるようにするよ。まずは火竜おじいちゃんの希望を聞きたいんですが。改めるとしたら何をしたいですか?」

 私の問いに、そうじゃなぁと腕を組んで考え込みます。


『誰とも気軽に話せんのは辛いのう。それと魔獣もいらんな、もらえるのならもっと食べやすい物の方が嬉しいんじゃが』

「分かりました。じゃあそうしましょう」

『そんな簡単に出来るのかの?』

 驚いている火竜おじいちゃんに、ええと頷きます。


「こうなったのは火竜おじいちゃんにも悪いところがあったからです。そこを直せばいいんですよ」

 そう言われても心当たりが無いらしく首を傾げています。

「火竜おじいちゃんが悪かったのは『ほうれんそう』をしなかったことです」

「ああ、なるほどな」

 私の言葉に、商会の仕事を見ていたウェルが納得の声を上げます。


『その、ほう…とは何じゃ?』

「報告、連絡、相談をまとめて縮めた言葉ですよ。一人で考えたことには限界があるし、自分視点の偏ったものにしかならないけれど、多くの人と一緒に考えればいろんな方向性が生まれますでしょ。火竜おじいちゃんも一人で悩んでばかりでいないで、誰かに相談すれば良かったんです」

『…確かにそうじゃな。どうもドラゴンは独りでいることが多い所為か誰かに相談するということをようせん』

 後悔の言葉を吐く火竜おじいちゃんの背を元気づけるようにポンポンと叩いてから言葉を紡ぎます。


「でも今はこうして私達と話して、相談してます。これを他の人ともすれば良いんですよ。と言う訳でゆきましょうか」

『何処へじゃ?』

「この問題を一緒に考えて解決出来る人のところへです」

 ニッコリ笑う私に火竜おじいちゃんは、そんな人がいるのかと不思議そうな顔を向けます。

「サイズはそのままで私達と一緒に来て下さい」

 ヒョイと抱き上げれば、私以外の全員があたふたしましたけど知りません。

竜人族の始祖だろうと私にとっては一人の患者さんですから特別扱いはしませんよ。


 


「夜分に突然お訪ねして申し訳ありません」

 深々と頭を下げると、構わぬよとガリウスさまは笑って手を振ります。

「しかし緊急の事態とは穏やかではないな。何があったのじゃ?魔国のことか?」

 真剣な顔で此方を見つめるガリウスさま。

まあ、普通はそう考えますよね。

おかげでアポ無しなのにすぐに会見が許されましたけど。


「いえ、そうではなく。この方の願いを聞いていただきたくて」

 言いながら抱いていた火竜おじいちゃんをガリウスさまの前に置きます。

「…この飛びトカゲがどうかしたのか?」

 訳が判らず首を傾げるガリウスさまでしたが、まじまじと見つめるうちにだんだんとその顔色が変わってゆきます。


「…まさか」

『うむ、久しいの。ガリウス』

 火竜おじいちゃんがそう言った途端、ガリウスさまが飛び込むようにして平伏します。

見事なスライディング土下座です。

「ご、御神祖さまっ。とんだ御無礼をっ」

 そう言ったきり土下座状態で固まったままピクリとも動きません。

竜人国での火竜おじいちゃんの立ち位置がよく判る光景ですね。


『そうかしこまるでない。これでは話も出来ぬ』

「し、しかし…」

『良い、儂が許す』

「は、はい。失礼いたします」

 (ようや)くにして顔を上げたガリウスさまですが、緊張でガチガチになってます。



「ま、誠に申し訳ありませんっ」

 まずは食生活の改善と、私から火竜おじいちゃんの状況を説明して魔獣をそのまま貢ぐのは止めてもらえるよう進言しましたら。

ガリウスさまは、頭が床にめり込む勢いで謝り倒し始めました。


「すべてはわたくしの不徳の至りでございます。貢ぎ物の所為で御神祖さまのお身体を悪くするなどと、あってはならぬことです。この上はこの首を差し出し、謝罪を…」

『そのようなことを儂は望まぬ。竜人は皆、儂の可愛い子供なのだ。儂の事で傷ついたり、ましてや命を粗末にしてはならぬ』

「…御神祖さま」

 感激した様子で顔を上げたガリウスさまに火竜おじいちゃんが言葉を継ぎます。


『そこで相談じゃ。年の所為か儂は一人で山に籠るのが辛くなってきおった。時々で良い、誰かとこうして話をしたいのじゃ。それに籠るばかりでは愛しい子供たちの姿を見ることも出来ぬ。山以外で儂が暮らせる場所はないか?』

「は、はい…ですが」

 急にそう言われても神様の住む場所がそうホイホイあるわけもなく、ガリウスさまも困り顔です。


「こうしてはどうでしょう」

 ならばと私の考えを伝えると、誰もが呆気に取られた顔をします。

その後、少し揉めましたが他に良い案はなく最終的にそれが採用となりました。




「これは素晴らしいですな。ぜひとも取引をお願いしたい」

「では商談成立ということで」

 翌日予定通りにラグの商業ギルドに行き、お菓子や文具を中心に商品サンプルを提示してプレゼンを行いましたら、予想以上の高評価をいただきました。

「此方の契約書に同意のサインをお願いします」

 差し出された書類によく目を通してから指定場所にサインします。


契約が成されたことは『言伝の双晶』という電話のような魔道具によって瞬時にデラントのギルドへと伝えられます。

これで来月から定期的にラグの街に商会の商品が送られることになるでしょう。


普通なら人族の一商会が商談を望んでも、まず取り合ってはもらえず門前払いがデフォですが、さすがはローズさんの紹介状。

これを見せたらすぐにギルマスが直々に商談に応じてくれました。

何しろ紹介状にはガリウスさまの名も上書きされてますからね。

効果はバツグンだ…です。


昨夜の件でお礼代わりに書いて下さいました。

私は口添えをしただけで大したことはしていないので最初は固辞したんですが、それでは此方の気が済まないと頼み込まれたのでお願いしました。



「そういえば今朝方、皆さま神殿に行かれたそうですが何かあったのですか?」

 商談の後で出されたお茶をいただきながら問いかけると。

「ええ、神官長さまから直々にお話がありまして。今後、御神祖さまへの魔獣の献上を無くすそうです。何でも御神祖さまから『その力と技は我でなく民の為に使え』とのお言葉をいただいたそうです」

「御神祖さまは慈悲深いお方なのですね。自分の事より竜人族すべてのことを重くお考えになっていられるなんて」

 私の言葉にギルマスが誇らしげに大きく頷きます。


「はい、お優しい御神祖さまに見守られて我々は幸せ者です。…そう言えば神官長さまの横に貴女のように飛びトカゲがおりましたな」

 様子を思い出して小首を傾げるギルマスに、笑みと共に言葉を紡ぎます。

「その飛びトカゲが御神祖さまの言葉を神官長さまに伝えたのかも知れませんね。何しろ神さまのお使いですから」

「…確かに」

 笑い合う私達に、サンダー君が悪戯が成功した顔でウィンクしてきました。



「このまま飛びトカゲの姿で神殿に居れば良いのでは?それなら竜人さん達を近くで見守ることが出来ますし、食事もガリウスさまと同じように柔らかくしたものを用意してもらえれば良い訳ですし。後で御付きの人に食べ易い料理のレシピを渡しておきますね」

「い、いやしかし…それは余りにも恐れ多い」

「ではこのまま独り寂しく過ごせと?」

「それは…」

『ガリウスを困らせるのであれば、儂の事は気にせずとも良い』

 その言葉にガリウスさまは決心したようです。


「分かりました。どうぞ神殿にお出で下さい。わたくしでよければ話し相手になりましょう」

「でしたら言葉遣いも元に戻した方が良いですよ。敬語は相手を敬う為のものですが、相手と距離をおくものでもありますから」

「わ、分かった。普通に話せばいいんじゃな」

『うむ、その方が儂も話し易い』

「これからはお互いに何でも話し合うと良いですよ。その方が良い結果を生み出しますから。今回のように」

『そうじゃな。此度の事は感謝に堪えぬ。雷竜にも礼を言う。この子を儂の下に連れてきてくれて助かったぞ』

『気にせんといてや。爺さんが元気になってくれたらワイも嬉しいさかいな』

「なんと、此方は雷竜さまでしたかっ!?トワリア殿とはいったい」

「ただの人族の小娘です」

 そう言ったらウェルを除いた全員が胡散臭げな目でこっちを見てきましたよ。

酷くない?



結果として火竜おじいちゃんの正体は、ガリウスさまとその側近の人だけの秘密となりました。

教えた時に側近の人達が腰を抜かしてしまいましたが、今はどうやら平静に過ごせているようです。

取り敢えず胃薬を調薬しておきましたから頑張って下さい。


で、当人は飛びトカゲのフリをして神殿での生活をエンジョイすることになりました。

最初はぎこちなかったですが、そのうち昔話に花が咲き(ガリウスさまは若い頃、火竜おじいちゃんのお世話役だったそうです)会話も弾んで幸せそうです。

良かったです。


次は首都のルゼに向かいます。

紹介してもらったローズさん親友はイブさんというそうです。

ルゼで神官をしているとか。

さて、どんな人なんでしょうかね。







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