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115/124

115、塔の下は魑魅魍魎の巣でした


『ほんなら行ってくるで』

「はい、気をつけて」

『何で僕が…好きなことをしてただけなのに』

 まだブツブツ言っているアトラさんを引き連れてサンダー君が東の空へと飛んでゆきます。

当人に悪気が無かったとしても魔国への侵略戦争の片棒を担いだことに違いはないのですから、しっかり叱られて反省して下さい。


離れてゆく姿を見送ってからまだドラゴンのままのイブさんに声を掛けます。

「お願いがあるのですが」

『何かしら?』

「しばらくそのままの姿で塔の上で休んでいてもらえますか?」

『構わないけど…』

 不思議そうに首を傾げているイブさんに私の計画を説明します。


「さっきの騒ぎで神国の人は街の外に避難していると思うので、そこにイブさんが居座ればその間は神殿内を空っぽの状態に出来ます。この機を逃さず塔の地下に突入して召喚陣を破壊してきます」

 転移魔法陣のことを公表してから間も無いですから、まだコピーした新たな召喚陣施設は完成していないはずです。

なので作られる前にオリジナルとその資料に至るまですべて廃棄しようと思います。


『分かったわ。久しぶりに暴れてちょっと疲れたから休憩を取っても仕方がないわよね』

 うふっと可愛らしい声で笑うと、イブさんはその白い翼を羽ばたかせて塔へと飛んでゆきます。

御協力ありがとうございます。



「それじゃあ私達も塔に向かいましょうか」

「相分かった」

 大きく頷くウェルの隣でカナメ君とサミーがコソコソと言葉を交わしてます。

「どうやったらこう次々とえげつない作戦を思いつくんだ?」

「それだけ頭の回転が速いんだと思うよ。称号に『臨機応変』もあるし」

「って言うか性格が悪いだけじゃ…」

「何か?」

「うひぃぃっ」

 こっそり後に回って声を掛けてあげたら、サミーはともかくカナメ君は幽霊でも見たような悲鳴を上げます。

失礼な。



そのまま私とマーチ君はキョロちゃんで、ウェルは自分用のサミーとカナメ君は大きめのウィングボードにニケツして神殿を目指します。

到着した東の通用門は見事に無人でした。

そりゃあドラゴンが、それも3頭も現れたんですから普通は逃げますよね。

と、思っていたら門の側に人影が。


「サラではないか!?」

 ウェルの視線の先に居るのは長い金髪と紫の瞳が綺麗な知的そうな美人さん。

ヤサカさんの奥さんの一人、サラレノアさんです。

「貴女がトアちゃん?」

「はい、こうしてお目にかかるのは初めてですね。薬師のトワリアです」

「よろしく、サラレノアよ。…ところでその子が」

 カナメ君に視線を向けるので、ええと頷きます。

「ヤサカさんと同じ世界から来たカナメ君です」

「そう…やっぱり雰囲気がアキトによく似てるわ」

 愛おし気な視線を送られてカナメ君が戸惑ったように顔を赤くします。

「あ、あの?」

 まあこれだけの美人さんに見つめられたらキョドるのも無理はありませんね。


「ところでどうして此処に?」

 私の問いにカナメ君から視線を外して口を開きます。

「新たな召喚陣製作が始まっていたから、その場所を教えに来たのよ。ドラゴン騒ぎで今は誰もいないから丁度良いと思って」

「やはり作ろうとしてましたか」

 予想が当たって思わず嘆息します。


「でも良く此処に来れましたね。ドラゴンが怖くなかったですか?」

「あら、だって」

 クスクスと笑いながらサラさんが言葉を継ぎます。

「ウェルティアナからドラゴンが仲間にいるって聞いてたもの。だからきっとこの騒ぎにはトアちゃんが一枚噛んでるだろうなって」

「さすがの慧眼ですね」

 美少年ジジイから密偵の取り纏めを託されているだけあって、洞察力が半端ないです。


「新たな召喚陣の場所は此処よ」

 神殿の見取り図を出して場所を教えてくれました。

「了解です。塔の攻略が終わったら壊しておきます」

「お願いね。それと地下に行くなら十分気を付けて」

「何かありました?」

 私の問いにサラさんがため息混じりに言葉を綴ります。


「地下に潜った者達が誰一人として帰って来ないの。召喚陣の写しを使い魔に託して届けてくれた者は、密偵の中でも凄腕と呼ばれていたけれど、彼もそれっきり消えてしまったわ」

「召喚陣を守るために厳重な警備が敷かれている訳ですね。気を付けます」

「大丈夫だ、トアのことは私が守る」

 毅然と胸を張るウェルに笑みを向けるとサラさんが此方へと向き直ります。


「どうかお願い。アキトの望みを叶えてあげて」

 そう言って深々と頭を下げます。

「ええ、召喚陣は必ず破壊します」

「ありがとう」

 泣き笑いのような顔で礼を言うと、サラさんは私達に背を向けました。

ドラゴン騒ぎでパニックになった神官達が信徒を馬車で蹴散らして我先に逃げ出し、それで怪我をした人が治癒院に大勢運び込まれているのでその治療に当たるそうです。

本当に此処の神官は腐ってますねー。

まあ、まともな神官はちゃんと信徒を先に逃がしていたので、不要神官は後ほど処分することが決定したそうです。

大掃除、頑張って下さい。




「では行きましょうか」

「ああ、どんな敵がいるか楽しみだ」 

「うん、僕も」

「…さっきのサラって人だけど」

 意気込むウェルとサミーの横でカナメ君が何やら神妙な顔で聞いてきました。

「ヤサカって…俺の後に召喚された勇者だろ。その関係者なのか?」

「ええ、サラさんはヤサカさんの30人の奥さんの1人でした」

「はあっ?、何だよ30人って!」

 驚いてるカナメ君にヤサカさんがアーステアで送った人生について大まかに話してあげます。

そして彼が心から望んだ召喚陣破壊についても。


「そっか、そのヤサカって人も苦労したんだ」

「でも最期は心穏やかに逝けたようです。メルさんとサラさんのお尻を撫でながらの大往生だったそうですから」

「……まあ、幸せだったんならいいか。でもそれなら俺も先輩として後輩の望みは叶えてやらなきゃな」

「ええ、頼りにしてます」

 私の言葉にカナメ君は大きく頷きました。




そうこうしているうちに塔の下に到着。

最上階にいるイブさんに手を振ってから中へと進みます。

「行くぞ、油断するな」

 ウェルの言葉に頷き、入り口を抜けて薄暗い階段を降りてゆきます。

サラさんがくれた見取り図によると、この塔は地下1階が衛士の詰め所。

2階が宝物庫、3階が召喚陣のある最深部になっています。


階段を降り切ると目の前に現れた大きな頑丈そうな扉。

「この向こうに何か居るな。それも数が多い」

 探査の魔法をかけたウェルの言葉に誰もが身構えます。

「衛士か?」

「いや、それにしては…気配と動きがおかしい」

 カナメ君の問いにウェルが小首を傾げながら扉を見つめます。


「此処でじっとしていても始まらないから先に進もうよ」

「そうだな。私が先陣を切る、サミーとカナメはその後に続け。トアは殿(しんがり)だ」

「了解、私のことは気にしないで。キョロちゃんとマーチ君がいるから」

『あるじ まもるー』

『へい、任せておくんなせい』

 私の側にピタリと寄った2人の姿に、頼むと笑みを向けてからウェルが扉に手をかけます。


「では参るっ」

 扉を開くなり戦闘態勢に入ったウェル達でしたが…。

「な、何だ。これっ!」

 眼前に広がる光景にカナメ君から嫌悪の声があがります。


「うわー、凄いね」

 驚くサミーの視線の先に居る異形の者達。

不自然に歪んだり、溶けてしまった身体を引き摺るように此方に近付いてきます。

「いったいこれは…」

「…粛清の犠牲者たちですね」

 おそらく彼らは急に姿を消した神殿関係者でしょう。


その異様に変異してしまった姿。

これはどう見ても薬害患者です。

たぶん魔力増幅剤や身体強化剤開発の為に行われた人体実験の被害者達。

部屋の奥には製薬の為の機材や彼らを収容していた檻が見えます。

どうやら神国は禁断の域に足を踏み入れていたようです。


勇者はあくまで戦争の為の旗頭。

彼に付き従う無敵の兵士こそが神国の切り札。

死ぬ事の無い兵士…数多(あまた)の執政者が望んだ最強の軍隊。

彼らはそんな愚かな夢の悲しい残滓です。


「ど、どうすれば」

 そんな彼らに剣を向けることは出来ず、困り果てたようにカナメ君が此方を見ます。


「どうした?何故戦わん?」

 愉快そうな声が上がり、その声の主を全員で睨み付けます。

「そいつらは食屍鬼(グール)だ。食欲しかない化け物どもだ。もたもたしていると喰われるぞ」

 ニヤニヤと笑う小柄な男…着ている神官服を見るとその位が判ります。


「モーゼス枢機卿ですか?」

「ほう、私のことを知っているか。いかにも私がモーゼス。ガニメデス猊下への忠誠が最も高き男だ」

 恍惚とした顔でそんなことを言う様は、間違いなく狂信者ですね。

彼が信奉しているのは神ではなく、ガニメデスですが。


「禁断の薬で彼らを食屍鬼にしたのは貴方でしょう?そうまでして無敵の軍隊が欲しかったのですか?」

「当然だ。このクズ共のおかげで新薬は完成した。これを飲めば誰もが魔力はエルフ並み、身体能力は獣人族並みに高められる。しかも治癒力も高く、滅多なことでは死なない。まさに夢の薬なのだ」

 手にした小瓶を高々と掲げて哄笑するモーゼス(狂信者)


「確かに夢の薬かもしれませんが、それだけ効果の高い薬なら副作用も大きいはずです。飲んだリスクは…使用後の短命化ですか。貴方達にとって兵士は使い捨ての駒に過ぎないんですね」

「当たり前だ。猊下がおっしゃる『人族こそ最も優れた種族』であることを証明してみせるお役に立てるのだ。猊下の為に愚民は喜んで死ぬがいい」

 言い切りましたよ、この狂信者。

だったら遠慮なく遣り返してあげましょう。


「人の命を遊び道具にするなんてことは薬師として許す訳には行きません。貴方達の野望は阻止させてもらいます」

「ふん、どうやってだ?」

「こうやってです。ウェル、サミー」

 2人を呼ぶとその手に赤と青の如雨露(じょうろ)を渡します。


「えっと…」

「これをどうするのだ?」

 戸惑う2人に笑顔で説明します。

「この中に入っている液体をあの人達に上から掛けてあげて下さい。出来るだけ満遍なくお願いしますね」

「わ、分かった」

「うん、やってくるね」

 同時に頷くとサミーは自前の翼で、ウェルは得意の飛翔の魔法で上空へと飛んでゆきます。


「ば、馬鹿なっ!」

 驚愕する狂信者の目の前で、食屍鬼化した人達がどんどん元の状態に治ってゆきます。

「あ、有り得ぬっ。こんなことがぁっ!」

 何やら狂ったように吠えてますが放置です。

こっちは治った人達を此処から逃がすのに忙しいんですから。


「何故だっ、何故戻ったっ!?」

 長年の研究の末の自信作が呆気なく無効化された訳ですからね。

その落胆と怒りは物凄いようです。

私からしたら、ざまぁと言ったところですが。


「知りたいですか?」

 何とか全員を逃がし終わったところで頭を抱えて(わめ)いてる狂信者に声を掛けます。

「彼らに掛けたのがすべての病に効く万能薬だからですよ」

 ええ、サンダー君の血を使わせてもらい製薬したものです。

これで手持ちの分は無くなりましたが、全員分に足りて良かったです。


「馬鹿なっ、万能薬だとっ!?」

「はい、貴方達がどんなに非道な薬を作ろうと、私が万能薬を使って端から治してみせます。絶対に貴方達の思い通りにはさせません」

「ゆ、許さぬっ。そんなことは許さぬぞっ!」

 癇癪を起こした子供のように喚いた後、いきなり手にした小瓶の中身を一気に飲み干しました。


「猊下に逆らう者はこの私が抹消するっ!」

「な、何だ。あれっ」

 カナメ君が指差す先で狂信者の姿が変わってゆきます。

肌の色が緑色になり、身体付きも3倍くらい大きくなって筋肉マッチョに。

まるで超人ハ〇クですね。


「ガアァっ!」

 叫ぶ口元から覗く歯は完全に魔獣の牙になってます。

どうやらさっき飲んだのは身体向上薬の濃縮版だったようです。

なので一気に人間を辞めて魔獣化したのでしょう。


「いいだろう、相手をしてやる」

「僕もやるよ-」

 ウェルとサミーが嬉々として魔獣と化した狂信者の前に立ちます。

果たして勝負の行方は?

以下次号。







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