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112、巫女たちのお茶会


「13番目…ですか」

「ええ、正確には元教皇ガニメデスの腹心。彼の命を実行する者ね」

 つまりラスボスの実行部隊長ってとこですね。


「名はアトラ。魔法に長けていて神出鬼没なの」

「おう、常に黒いマスクを付けていてな。何処にでも現れてすぐに消えちまうのさ。まったく気味の悪い奴だぜ」

 そう悪態をついてから、それでと私を見ます。


「この後はどうする?」

「取り敢えずは様子見です。これだけ派手に立ち回りましたので相手から何かしらアクションがあると思います。それをきっかけに攻略してゆきます」

「そいつはいいが…身の廻りには充分注意しろよ。此処じゃ急に姿を消す奴が多いんだ」

 カルロさまが案じる眼差しを向けます。

「ご心配いただきありがとうございます。ですが私には最強の護衛達がおりますので大丈夫です」

 ニッコリ笑い、教皇様に別れの挨拶をします。


「最後に教皇様に私の故郷にいた君主の言葉をお伝えします。


『我に才略無く 我に奇策無し 常に衆言を聴きて宜しき所に従う 常に周りの意見をよく聴き、良策を見い出す』


幕末という時代に四賢侯と呼ばれたお殿様がそう言って国を治めました。猊下もそのような賢君になられることをお祈り申し上げます」

「うーん、はい」

 訳が判らないという顔をしながらも素直に頷いた6歳児。

今は分からなくて良いです。

エンジュさまとカルロさまを見ると大きく頷いています。

未来にこの言葉が貴方の助けとなれば幸いです。


「それでは御前を失礼致します」

「また来てね。それとお土産ありがとー」

 差し入れたクレヨンを始めとした文具やパズルを大切そうに胸に抱き、笑顔で手を振る教皇様に手を振り返して謁見室を後にします。



「どうだった?」

 ドアの外で待っていてくれたサミー達が駆け寄ってきます。

「残り3人の始末はあちらにお任せしました。それくらいはご自分達でしたいでしょうから。ただ残る1人の他に影の枢機卿が出てきました」

 私の話にウェル達が色めき立ちます。


「そうか、面白くなってきたな」

 おお、やる気満々ですね、ウェル。

「じゃあ、敵はあと3人だね」

 サミーも何やら楽しそうです。

あまり好戦的ではなかったのに、やはり戦闘種族ということでしょうか。

まあ、程々にして下さいね。

「…アトラ?」

 そんな中、カナメ君が首を傾げます。


「どうかしましたか?」

「いや、召喚された時に最初に俺に話しかけてきた神官が同じ名だった。けど同じヤツってことはないよな?」

 カナメ君の話の通りならアトラと言う人は120年前から神殿にいたことになります。

しかし魔法に長けているということなので【時止めの呪】をかけているとは思えません。

ですがルーナスさんのように魔族か、エルフの血を引いているのなら生きていても不思議ではないです。

ま、その辺りの解明は当人に会ってからですね。




「良かったら一緒にお茶でも如何かしら」

 教皇様との謁見を終えて、さてまた歌の自主練でもしようかと思っていたら、そうランナーサさんが声をかけてきました。

「はい、喜んでー」

 某居酒屋の店員さんみたいな返事をしてその後に続きます。


「気兼ねの無い巫女だけでのお茶会ですから。御付きの者は別室で控えていて下さいね」

「は?そんな訳に行くかっ」

「構いませんよ」

 ランナーサさんの申し出に異を唱えるカナメ君を止めると、大丈夫と親指を立ててみせてから案内された部屋のドアを開けます。


其処にはアラニアさんを始めとした巫女さん全員が揃っていました。

「ようこそ、そちらにお座りになって」

 笑みと共にテーブルの一角を示されたので、遠慮なく座らせてもらいます。

 

「教皇様とお会いになったとか?」

「はい、御目通りを許されましたので」

 全員にお茶とお菓子が配されたところでアラニアさんが口を開きます。

「あれだけの奇跡を起こしたのだから当然ね。だけど上手く取り入ったものね。卑しい出の者はそういったところが本当にお上手だわ」

 おお、テンプレのイビリが来ましたよ。

「出しゃばりは嫌われるのよ。新参者は神殿の隅でコオロギのようにおとなしく歌っておいでなさい」

 勝ち誇ったように言って此方を見下すアラニアさんに、笑みと共に言葉を返します。


「ありがとうございます。私の身を案じて下さって」

「な、何を言っているのっ」

「此処では急に姿を消す者が多いと聞きました。あまり目立つとそうなると警告して下さったのでしょう?。巫女に序列をつけるのもその一環ですよね」

「わ、私はそんなつもりで…」

 慌てて言い繕おうとするアラニアさんに構うことなく先を続けます。

「序列を付けることで他の巫女たちを守って下さっていたんですよね」

「あ、貴女…」

 ニッコリ笑ってみせれば、驚きと怯えが混ざった顔で此方を見ます。


「最初に聞いた時は首を傾げましたけど、すぐに真相に気付きました。夜伽を命じられた時、序列が付いていれば上位者から向かうことになります。嫌なことを全部一人で受け持って、まだ幼い巫女たちを必死に守っていたんでしょう」

「わ、私は…」

「でももう大丈夫ですよ」

「え?」

 私の言葉に驚いた様子でアラニアさんが顔を上げます。


「もう2度と夜伽を命じられることはありません。エンジュ枢機卿さまが約束して下さいました」

「で、でもスエーム枢機卿さま達が…」

「ああ、その方達ならすぐに拘束されますよ」

「はい?」

「やらかした悪事の数々の証拠が商業ギルドを通して各国に公表されることになりましたので。今頃は神兵が向かっているんじゃないですか。しばらくは牢屋暮らしでしょうから、何か差し入れでも持ってゆきます?」

 そうニヤっと笑ってあげたら、アラニアさんを始めとする全員が何故か震え上がりました。

謎です。


「ほ、本当にもう…」

「ええ、今まで巫女たちを守ってくれてありがとうございました。けれどもう良いんです。嫌なことは嫌だと声に出しても貴女を咎める者はいません」

 近寄って労わるようにそっとその背を撫でてあげると、アラニアさんの涙腺が決壊しました。


「アラニアさまっ」

「おねえさまっ」

「アラニア姉さまぁ」

 泣き伏す彼女を巫女さん達も泣きながら取り囲みます。


「人族が最も神に愛されている証の象徴として自由を奪われ、大切にされるどころか神国の利益の為に女の尊厳を踏みにじられて。さぞかし辛い毎日だったことでしょう。でも、もう悪夢は終わりました。これからは嫌なこと、辛いことは声に出して下さい。それが普通に言えるように神国をエンジュ様達と共に変えてゆきましょう」

「…ありがとう」

 小さな声で礼を言ってアラニアさんが立ち上がります。

その顔にもう涙はありません。

毅然と前を向き、周りにいる巫女さん達を安心させるように笑みを向けています。

本当に強くて優しい…本物の淑女(レディ)ですね。


「…あの歌をもう一度聞かせてもらえるかしら」

「いいですよ」

 リクエストに応えて雪の女王さまの歌を心を込めて歌います。

彼女の前途に幸有れと祈りを込めながら。




「すっかりお茶が冷めてしまいましたね」

 歌い終わったところでそう言ってカップを手にします。

それをランナーサさんの前へと差し出します。

「飲んでいただけます?」

「…どうして私が貴女のお茶を飲まなければならないのかしら」

「いえ、せっかく苦労して毒を入れて下さったのに無駄にしてはもったいないと思いまして」

「毒ですって!?」

 危険ワードにアラニアさんが悲鳴のような叫びを上げます。

「あ、大丈夫です。【鑑定】しましたら毒入りは私の分だけです」

 ニッコリ笑ってあげれば、安心したように胸を撫で下ろします。


「貴女が鑑定持ちだったとは知らなかったわ」

「ええ、それ以前に私に毒を盛っても無駄ですよ。毒耐性レベルがMAXなので」

 以前は毒耐性Lv10だったんですが、製薬を続けていたら…特に究極の毒消しである万能薬を作れるようになったらレベルが天元突破しました。

おかげで毒に対してはほぼ無敵な身体になりましたよ。


「で、改めて御紹介いただけますか?…アトラさん」

「…私の正体を知っていたの?」

「いえ、確信したのは今さっきです。私は鑑定レベルもMAXなのですが前に貴女に鑑定をかけた時に弾かれましたから只者ではないなとは思っていました。ですが手をカップの近くにかざしただけでお茶に毒を入れるなんて芸当が出来るのは希少な転移魔法の使い手だけです。そうなると自然とその正体は見えてきますよね。アトラ枢機卿さまは神出鬼没が売りだそうですから」

 私の話にアトラさんは愉快そうな笑みを浮かべて口を開きます。


(さか)しい子だね。そういう子は嫌いじゃない」

 言うなりその姿が壮年の男の人…青銀の髪に赤い眼をしたイケメンに変わります。

私達のように闇魔法で姿を変えていたようです。


「…取り敢えず、歌巫女の衣装を脱いでもらえます?絵面だけをみたら女装趣味の変態ですから」

「言ってくれるね。まったく姿が変えられても服まで変わらないのは頭の痛い問題だよ」

 派手なため息をつくと、白いロングワンピースを脱いで何も無い空間から黒いローブを取り出します。

空間魔法…闇魔法の一種ですね。

私のアイテムボックスはスキルですが、此方は天才と呼ばれるサミーですらまだ使えない最高レベルの魔法です。


「目障りだからさっさと始末しようと思ったけど。面白そうだからしばらくは殺さないでおいてあげるよ」

「それはありがとうございます」

 そう軽く頭を下げたら。

「トアっ」

「大丈夫っ?」

「無事かっ!」

 異変を察知したウェル達が部屋に飛び込んできました。

まあ、転移や空間とか希少な魔法をあれだけバンバン使われたら魔法に特化したエルフであるウェルが気付かない訳はありませんからね。


「カナメ君は巫女達を避難させて」

「分かったっ」

 いきなりの事態に驚いて部屋の隅で怯えている巫女さん達を誘導すべくカナメ君がドアを開けて避難路を確保します。

「早く逃げろっ」

「は、はいっ」

 アラニアさんがしんがりとなって皆を外へと送り出します。


「カナメ?…そうか、まだ生きてたんだ」

 感心した様子でアトラさんがカナメ君を見つめます。

「騙されて利用された愚かな道化。君には随分と楽しませてもらったよ」

「貴様っ!」

 剣を抜いて相手を睨み付けるカナメ君でしたが、すぐに巫女さん達の避難を優先させます。

「へえ、少しは成長したんだ。前のままだったらすぐに僕に斬りかかって来ただろうに」

 うんうんと頷くアトラさんを一瞥してから、カナメ君は巫女さん達を連れて部屋の外へと出て行きます。

自分が任された仕事をきちんとやる。

アトラさんじゃないですけど、そう言ったところは本当に成長しました。

良いことです。


「君は良いとしても他は邪魔だな。消えてもらおうか」

 言うなりアトラさんの足元が赤く光り、複雑な模様の魔法陣が現れます。

そこから黒い塊が盛り上がるように姿を見せます。


「アンデッドだとっ」

「…スケルトンだね」

 それは10体を超える骨だけの兵士でした。

骨で出来た剣や槍を構えて此方に迫ってきます。

「不死の兵よ。邪魔者を一掃せよ」

 召喚者の命に従い、スケルトン達が一気に襲い掛かってきました。


果たして私達の運命や如何に。




 

総合評価が1700ptになりました。本当にありがとうございます。<(_ _)>

拙い作品ですが少しでも楽しんでいただけるよう精進します。

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