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109、歌巫女たちの序列


「昨夜はよく眠れましたか?」

「はい、おかげさまで」

 朝食を取りに1階の食堂に行ったら、早速ランナーサさんが声をかけてくれました。

ちなみにウェルやイブさん、サミー、カナメ君達は別の食堂です。

此処は高位の神官や歌巫女だけが利用できる特別な場所なのだとか。


本日のメニューは脂身多めな魔牛のステーキ(照り焼きソース掛け)バターたっぷりスクランブルエッグ、厚切り焼きベーコン、クルミ入りパンにマフィン、クロワッサン(横にメッチャ甘いジャム付き)チーズの掛かったオニオングラタンスープ。

しかもデザートは生クリーム付きの濃厚チョコレートケーキ。


大変、見覚えのあるものが多いです。

私が申請した料理の特許を積極的に取得してくれているのが神国とは聞いていましたが…。

それだけお金に余裕があるということですね。


しかしながら…ヨウガル国の人達の困窮具合を見てきたばかりなので、朝から並ぶ豪勢な料理を前にして盛大なため息が漏れ出ます。

此処の食事を孤児院の子達の元に持ってゆけたらどれだけ喜ぶか。


「ゆっくり食べて。お勤めはまだ先だから」

 そんな私の姿に緊張していると思ったのかランナーサさんが笑みを向けます。

良い人です。


心中穏やかではありませんが顔には出さず、自分でチョイスした料理(クロワッサンとスクランブルエッグ、ベーコンにお茶です)を黙々と口に運びます。

材料を厳選しているので美味しいですが…かなりの高カロリー食ですね。

それなのに野菜やフルーツがありません。

似たようなものを毎日食べているのなら、神国の人のコレステロール値は恐ろしいことになっているんじゃないでしょうか?。


そんなことを思って見回せば、周囲で食べている神官長や枢機卿たちは皆さんかなりの肥満体…見事なメタボ体型です。

ちょっと失礼してこっそり【鑑定】をかけさせてもらったら。


「これは…」

 出た結果に思わず絶句します。

ほぼ全員がイエローゾーン、何人かは完全にレッドゾーンに入ってます。

疾患も糖尿病・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症と生活習慣病のオンパレードです。

早く加療をしないと10年のうちに誰もがあの世行きですね。


中世ヨーロッパの貴族が短命だったのは疫病の所為もありますが、主な原因は労働もせず毎日のように宴会を開いていたことによる肥満から高血圧や糖尿病を引き起こし、ガン、脳血管疾患、心臓病などを発症したためと言われています。


飢えは辛くて怖いですが、肥満も同じくらい怖いことなんです。

ですからバランスの良い食生活と、何より腹八分目。

これを守って食べ過ぎにはくれぐれも注意して下さい。




朝食が終わって休んでいたら、ランナーサさんに連れられて中央の塔に向かうことになりました。

この塔の地下は宝物庫になっているので、教皇様の許しを得た者しか入れません。

なので護衛のウェルや従者のサミーとカナメ君は塔の近くで待機です。


ですが最上階は歌巫女たちが式典の時に歌う場所となっているので、巫女なら地上部分の出入りは自由です。


で、延々と長い階段を昇って7階建ての塔の最上部…およそ20mくらいの高さまでやって来ました。

しかしながら、この歌巫女の衣装はどうにかなりませんか。

白をベースに胸元に多彩な刺繍が施されていて綺麗ではあるのですが、やたらと裾が長くて足元に纏わりついて動き辛いことこの上ないです。


裾捌きに苦労しながらも到着した最上階。

おおう、良い眺め。

神国の街並みが一望できます。

此処からだったら魔力を乗せれば神国中に歌が響きますね。


窓の外の景色に見惚れていたら、今さっき昇ってきた階段から15人程の巫女さん達が上がって来ました。

聖歌は歌えば歌うだけ命を削る過酷な行為で、それが証拠に歴代の歌巫女は皆、短命と伝えられるだけあって全員がまだうら若いお嬢さんばかりです。


「紹介しますね。新しく歌巫女となったエルーラさんです」

 ランナーサさんに言われて皆さんの前で会釈をします。

「あら、エルラではないの?」

 その中でも一番年嵩…といっても20才くらいの女性が聞いてきます。


「サクルラ国の本神殿にエルラという子がいるので、よく間違えられます」

 ニッコリ笑ってそう答えます。

正体がばれた時、本物のエルラちゃんに迷惑を掛けない為に別人だということにしておきました。


「まあいいわ、これから聖歌の練習を始めます。それぞれ位置について」

 どうやら彼女が歌巫女のリーダーのようです。

彼女の声に、集まっていた巫女さん達が扇状に並び始めます。


後で聞いたらリーダーはアラニアさんという名で、コマーザ国の隣にあるサンゲン国出身の元男爵令嬢だそうです。

何しろ歌巫女になるのは人族の間では大変名誉なことなので、貴族の姫様でも家の格を上げる為に貴族の地位を捨て、進んで神国にやって来るのだとか。


列の先頭はアラニアさん、そのすぐ後にランナーサさんともう1人が並び、次が3人、その後が4人と数が増えてゆきます。

全員が並んだところでアラニアさんが此方を見ます。


「貴女は見学よ。私達がすることをよく見ておきなさい」

「はい」

 頷いて壁の近くまで下がります。


それを待ってアラニアさんがリードボーカルとなって神を讃える歌を歌い始めました。

もちろん練習なので魔力は乗せません。

歌う度に乗せていたら魔力と体力の消耗が激しすぎて寝込むのがオチだからです。

なので何度でも平気で歌える私がチート(反則)呼ばわりされる訳です。


塔の最上階にある歌巫女の歌場。

そこに響き渡る声は、とても綺麗なハーモニーを奏でています。

これに魔力を乗せたら、さぞかし力のある歌になるでしょう。



そうそう歌といえば、カナメ君が見つけた竜乞歌ですが。

闇組織はそのノウハウをドラゴンを呼ぶ兵器として他国に売りつけようとしていました。

どおりで彼の復讐に積極的に協力した訳です。

ドラゴンを兵器として使えるなら、これ以上の戦力は無いですからね。

どの国も言い値で買うでしょう。

ま、それを知って急いで壊滅作戦を立てたんですが、まさかそれに魔王さま達が駆け付けてくれるとは思いませんでしたけど。



そんなことを考えていたら何曲か続いた歌が終わり、アラニアさんが私へと顔を向けます。

「貴方がどれくらい歌えるか聞かせてもらうわ。それによって序列を決めますから」

「序列…ですか?」

 どうやらそれは歌う時の隊形決め…だけではなさそうです。

それを証明するようにアラニアさんが言葉を継ぎます。


「ええ、前の列にいる者ほど尊い巫女。常に敬われる存在です」

 誇らしげにそんなことを言ってますが、皆で声を合わせて歌うコーラスで上下が必要でしょうか。

でも郷に入れば郷に従えと言いますからね。

ひと先ず、リーダーであるアラニアさんの言葉に従いましょう。


「今の歌を歌えば良いですか?」

「貴女の好きな歌で良いわ。選曲が悪くて力が発揮出来なかったと言い訳をされないで済むから」

 どうやら前にそんなクレームがあったみたいですね。


「では失礼して」

 軽く会釈してから部屋の中央に進み出ます。

さて、何を歌いますか。

せっかくなので塔にちなんだ歌にしましょうか。

高い塔に閉じ込められて育った長い髪のお姫様の映画主題歌とか。

娘のお気に入りの映画で、DVDを繰り返しリビングの大型テレビで観てましたから、私もガッツリ覚えました。


閉じ込められた塔の窓から見える外の世界。

変わらない毎日に飽きて自由に憧れるお姫様の想いを綴った歌です。

それでは歌ってみましょう。



「これは…トアの歌だな」

「相変わらず綺麗な声だね」

「…初めて聞くけど…何でか懐かしい気がする」

 塔の最上階から響き渡る澄んだ歌声。

その歌声にウェルは目を細め、サミーは笑みを浮かべ、カナメは不思議そうに頭上を振り仰いだ。


だがそれは3人だけでなく、塔の周囲にいた者達すべてが動きを止めてその歌声に聞き入っていた。




 歌い終わって周囲を見回せば、巫女の中でもまだ年若い人達が抱き合って泣いています。

巫女として神殿に入ったら外に出ることは許されません。

故郷に戻ることも肉親と会うことも出来ない彼女達の心を思いっきり刺激したようです。


「何なの、今の歌は!?」

 怖い顔でアラニアさんが詰め寄ってきました。

「私の故郷の歌ですけど。他にもありますよ」

 ニッコリ笑って次の歌を口にします。

今度は雪の女王さまの映画主題歌です。

ありのままに歌ってみせましょう。


偽り続けた自分を捨て、新たな自分に生まれ変わる。

そう宣言する力強い歌です。

こちらは前の映画以上に娘がドハマリし、DVDを一緒に30回以上観させられたのは良い思い出です。



前よりさらに感動した様子の巫女さんが多いですが、アラニアさんだけは能面のように表情が固まっています。

「エルーラさん、貴女の歌は…危険だわ」

「何処がです?ただの歌ですよ。私の歌を聞いて心を動かされたのなら、それはその人の中に前からあったものです。私の歌は切っ掛けに過ぎません」

「な、何を言って…」

「自分に素直になって良いと言うことです。我慢ばかりしていても良いことなど一つもありませんよ」

 言い終わって周囲を見回すと、誰もが困ったように眼を逸らします。



「そもそも何故、歌巫女は神国の神殿だけに居なくてはならないんです?私達の歌が神の恩恵の証と言うのなら各国の本神殿の方が広く人々に渡らせることが出来るはずです」

「そ、それは…巫女の勝手な行動を防ぐために」

「勝手な行動?逃亡阻止の為ですか?…自分の仕事に責任と誇りを持つならば逃げる必要はないでしょう。逃げたいと思うような環境に置かれているのなら別ですが?」

 私の問いにアラニアさんに苦渋の表情が浮かびます。


「と、とにかく貴女はしばらく一人で修行していなさい。私達の前に姿を見せないでっ!」

 そう叫ぶとアラニアさんは他の巫女さん達を引き連れて下に降りていってしまいました。



『なんや、仲間外れにされたんか?』

 一人になった私の元に窓からサンダー君がやって来ます。

「いえ、ちょっと歌で揺さぶってみただけですよ。これでどんな反応が起こるか楽しみです」

『あぶり出しかいな。あんま遣り過ぎんときや』

「ええ、匙加減は見誤らないようにしておきます」

 ニッコリ笑ってみせれば、何故かサンダー君が祈るようなポーズをします。


『これやからトアはんを敵に回したらあかんのや。相手の冥福を今から祈っとくで』

 失礼な。

私はいつから殺し屋になったんです。

少しばかり神国の矛盾を正そうと思ってるだけです。


さて、ウェル達が待っているので私も下に行きましょうか。







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