36話
エピローグです。
内容はアレですね。
キャラの名前は混乱を避ける為、本名ではなくゲーム内の名前で統一しました。
*???視点*
「主任、12441名のログアウトを確認しました。内200名が精神に異常が見られています」
「解かった。そいつらは隔離してくれ。死者3名は丁重にな」
俺は部下の報告を聞いて吸っていたタバコの煙を吐き出す。何でこんな仕事を請けてしまったんだろうな。国からの安心できる依頼だと思っていたのに開いてみると真っ黒だ。しかも他言しようモノなら投獄らしい。狂ってやがる。
「実験の第一段階は終了だ。ここからが本番になる。皆、被験者たちの対応には気を付けてくれ。特に要注意人物の担当者は気を引き締めてくれ。暴徒と化したら軍隊でも出さないと抑えられん」
部下たちに指示を出す。部下と言ってもこのプロジェクトを立ち上げた際に配属された知らない顔だ。覚えるつもりもない。
手元にある要注意人物のファイルを見る。そこのは10名ほどの名前とプロフィールが載っていた。古武術の師範代、その関係者、ステータスの極端な振り方で危険な能力があると推測された者達だ。面倒な事が起こらないといいのだが……。
「主任、数名が目覚めました。第二段階が開始されます」
「ああ、解かった。打ち合わせ通りに頼む」
全く本当に困った仕事だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
*フィルム視点*
「んん?ここは……」
周囲を見渡すと病院ではなかった。むしろ俺自身が寝そべっていない。なんだこれ。
自分の今の姿を見ると裸だ。下半身には筒状のものがついている。どうやら排泄物はここに流れていくらしい。体全体が湿っている事を考えると定期的な洗浄もあるのかもしれない。まるで自動洗浄付きの棺桶だ。
「目が覚めたかい?」
誰かの声が聞こえる。正面には眼鏡をかけた白衣の男が立っていた。俺は裸なのだからじろじろと見ないで欲しい。凄く胡散臭いし敬語は止めよう。
「ああ、ここはどこなんだ?」
「某所にある病院兼研究室だよ」
研究室、そう聞こえた。確かに周囲を見る限り病院には思えない。アドンが以前推測していた何かの実験という可能性が正しかったのだろうか。実際に不審な点は多く見られた。
「俺たちをどうするつもりだ?」
「少々実験に付き合って貰うだけだよ。命はちゃんと保障するし、酷い事もするつもりはない。素直に従ってくれれば、だけどね」
素直にも何も生殺与奪の権利はあちらにあるのだろう。無駄に騒いで印象を悪くして処分されたら困る。少なくとも状況を理解しなければ行動の起こしようもない。
「冷静だね。皆がそうだと楽なんだけどね。君の仲間達は落ち着いていて助かるよ」
「仲間?サーシャ達もここにいるのか?」
近くに居るのであればすぐにでも会いたい。そう簡単に会わせてくれそうには無いが……。
「居るよ。ただすぐに君たちを会わせる訳には行かない。理由はちゃんと説明するけど、今君たちは危険な存在なんだ。集団にさせると手が付けられなくなるほどにね」
「危険?後で説明をしてくれるのであれば、ちゃんとした場所でお願いしたい。裸だと落ち着かないんだ」
男はああ、ごめんごめんと笑って答えると例の棺桶(仮)から俺を出す。そいて貫頭衣のような服を俺に渡してくる。全裸に貫頭衣とかエロ過ぎるだろ。下着になるものを要求すると用意するのを忘れた、だそうだ。俺の中でキレ者っぽい印象だったが消える。残ったのはキモい喋り方のおっさんだけだ。
立ち上がり歩こうとするがよろける。どうやら歩くのも困難らしい。男が車椅子を持ってきて座らされた。そしてどこかへ運ばれていく。
「仲間達はどんな感じなんだ?」
「君は自分の状況より仲間の心配なんだね。元気にしているよ。君たち6人の内女の子の3人は同じ女性の担当が受け持っているから再会くらいはしたんじゃないかな」
どうやら酷い扱いを受けていないようで安心する。実験に協力すれば悪いようにしない、か。それがどこまで信用できるのかは解からない。だが、助け出そうにも一般人である俺には不可能だろう。
「3人?グレッグとアドンはどうなったんだ?」
「グレッグ君はアイン君とブラッド君と一緒だね。君とアドンさんは特別扱いで担当者が1人付いているよ」
そんな特別扱いはいらない。出来れば仲間にすぐにでも会いたかった。アドンが特別扱いか……。それってまずいんじゃね?
「アドンが特別扱いなのはいいんだが、俺たちのパーティのアシュリーとは定期的に会わせた方が良いぞ。何をしでかすか解からん」
「あ、そうなの?サーシャちゃんとエイミーちゃんも同じような事を言っていたけど、そういう作戦なのかと思って気にしていなかったんだけど……君まで言うとなると危険なのかもね」
そう、アシュリーが長期間アドンと離れて正気でいられるか解からない。下手したら担当どころかサーシャやエイミーまで被害を受けてしまうかもしれない。それだけは避けたい。
「ああ、アシュリーはアドンが好きで好きで仕様がないからな。下手したら暴れだして周囲を無差別に攻撃しだすぞ」
「なるほど、理解したよ。ちょっと待ってね」
ゲーム内の俺たちの行動をある程度見張っていたのだろうか。すぐに理解して誰かに連絡をする。すぐにそれを終えると戻ってきた。研究者は理屈で動いてくれるから助かる。
「連絡したよ。頻繁には無理でも多少融通してくれると思う。それじゃ君の部屋に連れて行くから」
担当の男はそう言うと俺を車椅子で連れて行った。その部屋は壁が真っ白で簡単なベッドと机と椅子、そして壁に本棚がある程度の簡素な作りだ。
「用事があったらそこの呼び鈴を押してね。まだ目が覚めたばかりだろうけど、体は疲労していると思う。無理はしないようにね」
そういって担当は出て行く。あの性格からして遠くからモニターで見ているかも知れない。気にしない方がいいだろう。それより暇つぶしになるかと車椅子にどうにか乗り本棚へ向かう。これだけの運動でも腕が疲れた。どれだけ筋肉が衰えているのだろう。
本棚のラインナップを見る。科学や薬学の専門書、そして何故か料理の本があった。何で専門書の中にこんなものが?と思ったが、それ以外は内容が難しくて良く解からない。なので料理の本を手に持ちベッドまで移動する。
「へー意外と作れそうだな」
思わず感心して声に出す。ゲーム内で散々作った料理が一杯あった。どうやら本物を参考にしてレシピを作っていたらしい。一部は変だったが……。
ページをめくりながら色々と見ている。と言っても大半が知っている内容だ。面白味はない。やはり作らないことには料理は駄目だろう。本を枕元に置くとじっとしているのも嫌だったので、少し上半身を動かし簡単な体操をする。これだけでも疲れた。俺はベッドに寝転がり天井を見る。
「会いたいな」
サーシャや仲間達に会いたい。まだ1日も経過していないだろう。それでも今までは毎日会っていた人たちだ寂しく感じる。何時の間に俺はここまで気が弱くなっていたのだろう。
そして翌日から俺のリハビリが始まった。腕の筋肉がそこまで衰えていない事から2本のポールの間を腕で支えながら歩く練習をする。足もそこまで酷い状態でもないようだ。数日同じ事をしているだけですぐに歩く事自体は問題なくなった。筋肉の衰えというよりは、目覚めて体の操作を誤っている感覚に近いのだろう。
2週間も繰り返していると日常生活には問題のないレベルで戻った。早いのか遅いのかは解からない。
「何だ?マラカス?」
「うん、これでジャグリングをしてみて」
何でそんな事をするのだろうか。これも実験とやらの一環なのか?今までも林檎を落としてそれを掴む実験とか良く解からない事をしてきた。普通に掴めて驚いた記憶がある。ここまで反射神経良かったっけか。
ジャグリングも最初は2本でやるのが精一杯だったが、すぐに3本で出来るようになった。失敗して落としそうになってもすぐに手で掴んで落とさない。
「これが実験か……反射神経の上昇。もしかしてあのゲームは……」
「どうやら気が付いたようだね。INTに振っていなかった割には早かったと思うよ」
何かの答えに辿り着いたらしい。何となく予想はついたが、ちゃんとした説明を聞きたいので頼むと快く引き受けてくれた。
「あの実験は一言で言うとVRMMOを使った能力開発だね。素質に振ったステータスがそのままリアルの能力に反映されるかどうかの実験なんだ。その為には半年以上の期間が必要になるから効率が悪いけど、徐々に頭角を見せてきたみたいだね」
担当はそう言うと設置してあったモニターをつける。すると懐かしい顔が現れた。サーシャとアシュリーだ。まだ2週間程度だが本当に懐かしい。2人は何やら紙に書いている。書いている内容はさっぱりわからない。
「アレは某研究の論文だよ。あの2人は知能の素質が高かったから凄く頭が良くなったんだ。今までより遥かに高度な内容を理解出来るようになったみたいだね」
そんな事をしていいのだろうか。こんな人たちが世の中に現れたら恐ろしいまでの差別が横行するだろう。自分たちより遥かに優れた存在を潰そうとするのが人間である。
「ああ、君たちが情報を漏らさなければ問題ないよ。それに君達に暗示をかけているから情報を口から言う、文字で書く動作が出来ないように制限されているんだ」
担当の男は凄く悪い顔で言ってくる。似合っていると思います。
「実験が終わった後に君たちを解放する為の条件みたいなものだと思ってくれればいいよ。大丈夫、この情報以外の暗示はかけていないから」
どうやら解放されるらしい。実験動物として処分されないだけマシなのかも知れない。そう思うことにした。
「回避特化って何が影響するんだ?」
「それは僕たちにも解からないんだ。だから警戒をしているんだよね」
確かに良く解からない能力は警戒しなければならないだろう。俺としては早く仲間達と会いたいくらいだ。解明をさっさとして欲しいと思う。
「今の段階だと反射神経がいいね。もう少しリハビリで筋肉を鍛えれば変わるかもしれないという感じかな」
と説明してくれる。何だかんだで面倒見が良くて助かる。もう少し雑に扱われるものだと思っていた。
「あ、そうそう。君達はちゃんとしているから、仲間に会う機会を設けたよ。明日皆と会えるから楽しみにしているといい」
「本当か?前みたいに嘘ではないよな?」
それは嬉しい話だが、以前似たようなネタでジョークをかまされた。あの時の恨みは忘れない。
「今回は信じて欲しいな。それじゃ、今日の実験とリハビリは終了だ。自室に戻って良いよ」
そういうと男は去っていく。ここまで自由を与えて良いのだろうか。尤も出口もわからない場所で必要以上に相手に警戒をさせる事はする気はない。素直に自室へと戻った。明日が楽しみだ。




