表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回避特化のメイン盾  作者: Bさん
7章 ラスト
47/55

32話

「なぁ、地下室って何があるんだ?」


 レベル上げを始めるようになって数日後、家に来ていたアインがそんな事を言い出した。あえて俺たちも口に出さなかった話題なのに……。


「興味あるの?それじゃ、行きましょう」


 エイミーが乗ってきた。これは危険だ、立ち去らなければ。そう思い俺とサーシャは席を立ち上がって逃げようとする。だが、グレッグに退路を塞がれる。殴ってでも強引に進みたかったが、PK保護設定があるから出来ない。


「フィルムとサーシャも良い機会だし見ておいた方が良いわよ?」


 出来ればゲーム終了まで知らずにおきたかった事である。サーシャは青い顔をして震えている。そこまで怖いのか。俺はサーシャの頭を撫で、そして耳元で諦めろ、と囁いておく。俺も行きたくはないが、断れる雰囲気ではない。


「まぁ、使用中でもなければ大丈夫だよ。ただ道具が置いてあるだけだし」


 グレッグはそう言ってくるが、ノーマルな人からして見たら道具の時点でどう考えてもアウトだ。勘弁願いたい。


「もしかして、やばいものを突いてしまったのか?」


「ああ、この家のタブーだ。お前も覚悟を決めろ」


 アインはようやく気が付いたのか俺に聞いてくる。もうどうしようもない。俺はサーシャの手を強く握り覚悟を決めた。


 廊下を歩いていき、いつもは意図的に素通りする扉の前で止まる。木造の家なのにここだけ鉄の扉だ。凄く違和感があると思う。


 グレッグが扉を開け、先導して階段を降りていく。階段は薄暗く、雰囲気が出ている。ここに来るのは最初の案内を含めなければ初になる。それくらい来るのを拒んでいた。


 階段を降りきると、2つの通路がある。片方は部屋、片方は牢屋だ。今はどの様な使い方をされているのだろうか。


「先にこっちを案内するよ。付いて来て」


 グレッグはそう言うと牢屋の方へ歩いていく。そして扉を開けた。


 この牢屋は初日に見たのと大差がない。使われていないのだろうか。2畳程の鉄格子でさえぎられた部屋が4つ程ある。開発は何の為にこんな部屋を作ったのだろう。隷属値でも上げる為とかじゃないよな?


「ここは牢屋だね。普段は使っていないよ。でも1日中入っていると何か安心するんだ」


 グレッグが説明するが、さり気なく変態発言が混ざっている気がしなくもない。牢屋に入って安心とはこれ如何に。友人として牢屋に入る為にリアルで犯罪とかしないで欲しい。


「そうね。気分が乗らない時に拘束して放置していたりしたわね」


 エイミーが乗って来る。その程度の使い方で良かった。本当に良かった。ただ言わないだけなのかも知れないが。サーシャも慣れたもので特に怯えたりもしない。


「そんな事しているのかよ……」


 慣れていないアインが呟く。特殊な性癖の人を理解するのは困難だろう。仕方ない。


「次の部屋は恐らくこれの比じゃないぞ。覚悟を決めろ。俺は諦めた」


「マジかよ……」


 俺が言うとアインはげんなりした表情をする。お前が話を振った事が原因なんだ。受け入れてほしい。でも牢屋にサーシャを繋いでみたいよね。


 俺たちは牢屋を出るとその部屋へと向かった。周囲に漂う冷たい空気を受け、心臓がドキドキする。あたい、こんなにドキドキしたのは初めて。


 グレッグが躊躇いもなくその部屋の扉を開ける。そして中には大量の道具があった。


「おい、これ見た事あるぞ。拷問器具だよな?」


「……そうだな。これは予想以上だ」


 せいぜいSとMがやんちゃをしている程度だと思っていた。まさか、人を壊す事が目的の物まであるとは思わなかった。隣でサーシャが青い顔で震えている。俺だって震えたい。


 そうする訳にも行かず、俺はサーシャの体を抱きしめて少しでも恐怖を和らげようとする。サーシャは俺の体を強く抱きしめ返す。凄く歩きにくいです。


「グレッグ、これって使っているのか?」


「当然だよ。使わないのに買うわけないだろ」


 おじさん、おばさん、貴方たちのお子さんは思った以上に上級者になってしまって居るようです。さすがにリアルで出来ないだろう。


「ゲームの中だから出来る事よね。リアルでやったら死んで終わりだもの」


 エイミーがあっけらかんと言ってくる。貴方たちは死ぬような事をやっているんですか。とても恐ろしいです。アシュリーに逆らうと刺されそうだと思っていたが、それ以上のものがここにあった。


「そうなんだよね。ゲームが終了すると出来なくなるからこの前クリアするって聞いて凄く残念だったよ」


 俺たちはもう何も言い返せない。サーシャが何か想像してしまったのか俺を抱きしめて顔を埋めたまま泣いている。そこまで酷いのだろうか。いや、酷いな。


「道具の説明はする?」


 俺たちは思いっきり首を横に振る。この異常な空間からさっさと逃げたい。


「それじゃ、俺は攻略組での会議があるのでこれでっ!」


 アインは我慢の限界を超えたのか走って出て行く。置いていかれた。


「俺もサーシャが泣いているし、自室に戻るよ。さすがにこの状態のまま放っては置けないからな」


「あら、残念。少しくらい体験していってくれれば良いのに」


 エイミーがそんな事を言い出した。俺はサーシャの肩に手をやり、両膝の裏から腕を通して持ち上げるとそのまま返事もせずに走って自室へ逃げた。これはやばい。





「サーシャ、そろそろ泣き止んでくれ……」


「……むり……どんどん涙が出てくる」


 まさかの号泣である。一体どんな想像をしてしまったのだろう。俺はベッドでサーシャを抱きしめながら頭を撫で続けている。いつまでこうしていれば良いのだろうか。もしかしたら死と直結する物を見て色々と思い出してしまったのかも知れない。


「フィルム、サーシャ、面白い食材を手に入れてきたよ!」


 グレッグが部屋の前で叫んでいる。個人チャットを使えば良いだろうにな。もしかしたらさっきのアレのお詫びなのだろうか。


『グレッグ、部屋は許可を出した。入ってくれ』


 そう個人チャットで言うと扉を開けて入ってきた。未だに泣いているサーシャを見て申し訳無さそうな顔をしている。


『気にすんな、俺にもこうなったのは予想外だ』


『ごめん、調子に乗りすぎたね』


 サーシャの頭を撫でながら、グレッグと個人チャットで簡単に話す。しかし、どうすれば泣き止むかね。


「それで素材って何を手に入れたんだ?」


「あ、そうそう。肉だよ。この世界に牛肉があったんだよ!」


 いや、乳製品があるくらいだ。あっても不思議は無いだろう。何をそんなに叫んでいるのだろうか。


「牛肉くらいあるだろう?西の方の町で食べたぞ」


「ただの牛肉じゃないよ。何とボス牛の肉だよ」


 牛がボスなのか、ボス牛という名前の牛なのか解からない。何がボスなのだろう。


「凄く美味しいらしいんだ。お詫びにならないかも知れないけど、これでサーシャに何か作ってあげてよ」


「解かった、受け取ろう」


 俺はグレッグから肉の塊を受け取る。量的にはそれ程でもない。1人前程度だろう。俺に渡すと目的を果たしたのかグレッグが部屋から出て行く。


「サーシャ、この肉に該当するレシピは2種類ある。焼くか煮込むかどっちがいい?」


「焼いて」


 即答してくる。どうやら機嫌が少し直ったようだ。この調子なら食べさせれば完全に直るかも知れない。だがその前に作らなければならない。


「それじゃ、俺は作ってくるよ。ここで待って……」


「嫌、ついてく」


 これもまた即答、というより言う前に言われた。今日のサーシャは珍しくわがままだ。俺はベッドから降りて立ち上がる。するとサーシャは俺の腰に腕を伸ばして張り付く。


「あの、サーシャさん?これは歩きにくいんですが」


 俺はそう言うがサーシャは動かず。どうやらこのままらしい。そして俺は腰にサーシャをくっつけながら無理やり歩く。サーシャの足が引きずられていたが、いいのだろうか。そして俺は背中に張り付かせたまま料理を行うのだった。




「味はどうだ?」


「美味しい。今までに食べたこと無いくらいに」


 どうやら好評なようだ。この肉はどこで手に入れたのだろうか。色々と作ってみたい。ボス牛の肉という名前で色々と調べてみると、とても高額だというのが解かった。グレッグは結構無理をしたのかもしれない。


 サーシャが幸せそうに食べている姿を見ると俺も食べたくなる。どちらをとかは聞かないで欲しい。


「サーシャ、一口くれ」


 俺がそう言うとサーシャの手が止まる。そして数秒経ってフォークに刺さった肉が差し出された。この間はなんだったのだろうか。凄い葛藤でもあったのかもしれない。


 俺はそれを口に入れると肉汁が広がり溶ける様に食べ終えてしまった。これは美味い。口の中でその味の余韻を噛み締めているとサーシャの方も終わったようだ。


「満足か?」


「うん、迷惑かけてごめんね」


 どうやら落ち着いたらしい。それらを含めての俺の恋人である。悪い部分があるからと言って投げ出すほど薄情でも愛が無いわけでもない。


「気にするな。どんどん俺に感情をぶつけてくれていいよ」


 俺はそう言うとサーシャの頭を撫でる。年齢は大して変わらないが、頼られたいという気持ちはある。


「それじゃ、これをもっと作って欲しい」


「それは無理だ」


 早速俺は挫折した。


道具の詳細を書くと不快に思う方もいらっしゃると思いますので出しません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ