25話
翌日、俺たちは洞穴を出て最初の町に戻る為に移動する。戦闘は極力避けていた為、昼前には戻れたようだ。グレッグとエイミーが代表して警備団の詰め所へ向かった。
「大規模戦闘ねぇ……役に立てるか疑問だな」
「フハハハハハハ、その回避は役に立つだろう。場所を選べば戦線維持に貢献出来るぞ?」
アドンがそう言ってくれるが、場所を選ばないと駄目と言うのは難しいと思う。バランスよく編成された部隊と遭遇したらその時点でかなり危うい。幸い属性防御が高い防具が多いので炎、氷、風というメジャーな属性はダメージを削減して防げるのは大きい。
「人が多いと、皆別行動なのかな……」
サーシャが不安そうな顔をしながら言ってくる。盾やアタッカー職、回復職は前線なので近い位置で戦う事があるが、付与特化のエンチャンター系は1箇所にまとまって30分毎に掛け直した方が効率がいい。
付与職の人数が多ければ、強化をかける場所を点在させる事も出来るが、如何せん付与職は個人では殆ど何も出来ない為不人気だ。その為数がかなり少ない。と言っても、強化魔法はあるのとないのでは雲泥の差なので重宝される。
「大丈夫。離れていても俺たちが帰る場所は同じだ。戦闘を無事に終えてから思う存分イチャイチャしよう」
俺はサーシャの頭を撫でて言う。俺だって防衛戦の間は会えないのだ。1日で終わるのかと思っていたら何回にも分けて来るらしく、全滅させるには3日かかるそうだ。かなりの長期戦である。休憩を挟んでくれるのはある意味慈悲なのかも知れないが。
作戦や戦い方はグレッグ達が今聞きに行っているが、どうなるかは解からない。事前に個人チャットで聞いた範囲でそんな感じだった。
「しかし、ここの開発は一体何を考えているのかね。ゲームらしいイベントを作ってくるとは思わなかったぞ」
五感を現実と同じ数値にまで引き上げゲーム内に閉じ込める。そしてクリアしないと出られない様に仕向ける。そして参加しないと不利になるイベント戦闘を設ける。これではまるで……
「監視されている、か?」
俺が考えているとアドンが言ってくる。俺はその発言に驚き顔を上げる。
「わしにはこのゲームがどうしても愉快犯による犯行には思えん。技術力も今までのVRMMOを遥かに越えている。まるでわしらを訓練でもさせているか。あるいは大規模な人体実験という辺りであろうな」
アドンは続けて言い出す。皆声に出しては言わないが、気が付いているのだろう。普通に考えれば突拍子もない話だが、皆驚く様子はない。このゲームをクリアしたらログアウトできる。だが、ゲームをクリアした後、俺たちは無事に生きているのだろうか。今ここに居るのは本当に現実の俺たちなのだろうか。
疑問や不安は多くある。あまりにも情報が足りないからだ。俺たちに出来るのはゲームをクリアする事だけだ。後がわからない、だからこそ今を全力で楽しみたいと思っている。
「さて、俺たちは自室で休んでくる。グレッグが戻ってきたら教えてくれ」
俺は不安そうにしているサーシャを抱え上げると自室へ戻る。まだ1週間近くあるのだ。今から焦っても仕方ない。俺たちは夜にグレッグが帰ってくるまでずっとイチャイチャしていた。疲労を感じないというのは素晴らしい。
「さて、今回の防衛戦での情報なんだけど、敵は10万という数しか解からない。3日間という期間だけ指定されているらしいんだ。僕たちのパーティは特殊だから遊撃部隊として自由に行動して欲しいんだってさ」
グレッグが作戦とも言えない何かを言い出した。そんな事の為に夜まで時間がかかったのだろうか。エイミーまで一緒に出ていたので別の事をしてそうである。
「ククク……いつも通り暴れればいいのだな?」
笑いのパターンをいつもと変えたアドンが楽しそうに聞いている。リザードマンの容姿と併せてとても不気味だ。
「そうだね。一応本部から連絡が来るから、移動する場所はある程度あっちが指定してくるけど、それ以外は全部こっちの好きにして良いって」
かなりの自由を与えられたようだ。確かに予備戦力として使って貰った方が俺たちの戦闘の仕方からしてみればいいだろう。俺は回避のみだし、アドンは火力が高すぎる。他のメンバーは平均的だが、俺たち2人だけ放り出したら何をするか解からないからだろう。
「サーシャとアシュリーは出来る限りポーションの作成を頼みたい。アドンと僕、エイミーはそこそこの装備を作って戦力を少しでも底上げかな。フィルムは料理を何でも良いから大量に作って。決戦の前夜に皆で士気を上げる為に騒ぎたいみたい」
グレッグが俺たちに指示を出す。どうやら丸々遊んで過ごす事は出来そうにない。とは言え、防衛戦中にサーシャと別行動をせずに済んだのでそれだけは助かる。
「それじゃ、各自取り掛かって。素材集めは警備団の詰め所に行けば一杯配ったり取りに行くメンバーを募っているからそれに参加して欲しい。あ、料理の素材はないからゲートを使って買ってきてね」
俺だけ別行動らしい。俺たちはゲート付近まで一緒に行き、俺だけ分かれて皆は詰め所へ向かった。俺だけ1人寂しく各地を回って料理素材を買いに行くのだった。
「調合は進んでるかー?」
サーシャの調合の手伝い(主に輸送)を手伝っているとそう言って入ってきた男が居た。2本の剣を使ってた奴、確かアインという名前だったか。
「ん?一応進んでいるぞ。ただ素材が悪いな。もっと良い素材はないのか?これでは大したポーションが作れそうにないぞ」
サーシャの代わりに俺が答える。成果自体はHQ品も出来ているから悪くはないのだが、如何せん性能の良いポーションがない。具体的に言えば一番良いのでHP200回復するのが精々だ。
「そりゃ、仕方ないだろう。俺らのように高レベルの人はそんなに居ないぞ。必然的に取れる薬草のランクも下がるのは仕方ない」
アインは肩の辺りで両手の手の平を上に上げて言う。どうしようもないというジェスチャーだ。日本人でやってる奴初めて見た。
「それじゃ、俺らで取りに行くか?俺も固定メンバー以外と組んだことないし、良い経験になるだろ」
「お、良いねぇ……行くか。回復はいなくても良いのか?」
アインも乗って来る。回復というより薬草採取できる人が居なければどうしようもないのだが……。
「スキル持ちは居るのか?俺らだけでは採取出来ないと思うが」
「俺が持ってるよ。そんなに似合わないかね」
全然似合わない。どっちかと言えば採掘ヅラだ。結構体格が良いからどう見ても草むしりをしている感じではない。
「なら回復は居なくてもいいな。サーシャも行くか?ムーブアップがあると助かるんだけど」
「うん、行く。そろそろ息抜きがしたかった所」
どうやら一緒に来れるらしい。俺たちは3人で採取に向かった。グレッグがアインに変わったとでも思っとけば大丈夫か。
「っと、早くたおせー?」
「解かってるよ、急がせんな」
周囲にはオークが12体居る。魔法タイプが居ないので俺はいつも通り避けているが、どうにも殲滅速度が遅い。
「サーシャ、周囲にはもう居ないな?」
「うん、大丈夫。でも、倒すのが遅いと再ポップするかも」
俺は回避しながらサーシャに聞く。やはりアタッカー1人では無謀だったのだろうか。
「何でお前らはこの数に囲まれて、そんなに余裕なんだよ。どう見ても大ピンチだろ!!」
アインは叫ぶが俺にとってはいつもの事だ。魔法タイプが居たらやばかったが、幸い戦士タイプのみなので余裕がある。
「ほらほら、さっさと倒して採取して帰るぞ。働け働け」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!お前らとはもう狩りにいかねぇぇぇぇぇぇぇ」
俺は回避しながらアインを挑発する。アインの精神が持っている間に終わるといいな?
「明日からの防衛戦の勝利を願って乾杯!」
ローブ姿の男が少し高い台に上って音頭を取る。今俺たちは明日から始まる防衛戦の決戦前に士気を高める為の集会、というかパーティだ。料理スキル持ちが思ったより少なく料理を揃えるのはかなりの困難を極めた。
俺以外の料理スキル持ちが本職だったりしたのでかなり恐縮したが、色々と教えてもらってかなり助かった。この技術はリアルの戻ってからも活用できそうだ。
「サーシャ、こんな所に居たのか」
一人壁際でポツーンと立っていたサーシャに声をかける。この子は積極性がないからこうなっているとは思って心配して探していた。決して俺が寂しいからではない。
「ん、フィルムはもういいの?」
「ああ、もうやる事はないよ」
先程までずっと料理を運んでセッティングをしていた。作る方なんだからそれくらいやってくれる人が居ると思っていたんだが、それまでやらされるとは思わなかった。
今も他の料理スキル持ちは飲み物を作ったり忙しかったりするが、彼女が居るなら行けと追い出された。良い奴らである。
「結構頑張って作ったからな。食べに行こう。食べないともったいないぞ?」
俺はそう言ってサーシャの手を取り会場まで歩いていった。そしてそこは早くもカオスな空間になっていた。
アドンが華やかさが足りないと言って空中にフレアをぶっ放して大音量の爆発を起こしたり、エイミーが疲れたといってグレッグを椅子代わりにしていたり、アシュリーがアドンに近寄る女を睨みつけていたり……全部俺のパーティメンバーじゃねーか……。
その様子をブラッドやアインが苦笑して眺めているのを見ると凄く恥ずかしく思える。俺のパーティメンバーは公でも変わらないようだ。
「それじゃ、俺も空蝉で……いえ、何でもありません」
空蝉で遊ぼうと思っていたら、横のサーシャに睨まれた。どうやらまだ根に持っているらしい。ずっとなのだろうか。俺は空蝉を諦め、サーシャと一緒に様々な料理を食べ合った。周囲の人たちが凄くうんざりした顔をしていたが気のせいだろう。
こうして決戦前夜は過ぎていく。明日からは否応なく戦闘に巻き込まれる。恐らく激戦だろう。無事、生き残る事を願う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
防衛戦 part15
577 名無しの狩人さん
料理うめぇぇぇぇぇぇ
578 名無しの剣士さん
ああ、今まで酒場でしか食べたことなかったけど
料理スキルってここまで違うのか
579 名無しの重戦士さん
料理を調べてみろよ
HQ品だぞ?
580 名無しの槍使いさん
うお、マジだ
作った人ら頑張ったのな
581 名無しの魔術師さん
それより、リザードマンが凄く騒がしいんだが……
582 名無しの双剣士さん
諦めろ
あいつはいつもあんな感じだ
しかも強いから止めようがない
583 名無しの斧使いさん
ああ、初回の武道大会で2位の人だっけか
あの後の大会でもあの決勝のような戦いは見られないんだよな
584 名無しの付与師さん
うおっ男を椅子にしている女がいる
何?SM?
585 名無しの魔術師さん
ああ、アレ良いな
586 名無しの剣士さん
えっ?
587 名無しの槍使いさん
ここにも変態が居た
無礼講過ぎるでしょう?
588 名無しの忍者さん
こっちではイチャついているバカップルがいるし
何なのこの会場
589 名無しの双剣士さん
色んな意味で和むじゃないか
爆発しろ
590 名無しの魔術師さん
この前、この人爆発してたよな
また爆発しないかな




