17話
「これはどうだろう?」
「却下ね。庭が少ないわ」
グレッグが良さそうな物件を提案するがすぐにエイミーに却下される。ゲームなのにそこまで考える必要があるのだろうか。アシュリーはアドンと一緒にまるで自分たちの家を探すかのように楽しそうである。もうお前ら結婚してしまえ。その方が安心だから。
サーシャですら真剣に物件を探してる。どうやら適当なのは俺とグレッグだけらしい。グレッグと目が合うとやれやれという呆れた表情をしてきた。何気に失礼である。
「物件探しって難しいな。リアルなら周りの住人とかも考えないとならないんだよな?」
「そうね。それこそ広くて周囲の音が聞こえないほどのサイズなら気にしなくてもいいけど、近いとどうしてもね」
一体どんな声を上げるつもりなんだろうか。いや、上げさせるつもりなんだろうか。同じ家で殺人とか嫌だぞ。復活するだろうけど。
「なら地下室とか良いかも知れないな。それなら幾ら大声を上げても大丈夫だろう」
「それよ!!」
俺が冗談を言うとエイミーが釣られる。え?ネタじゃないの?
エイミーはそのままカウンターの人に地下室のある物件を出してもらう。どうやら本当にあるらしい。ファンタジー怖い。
「予算ってどれくらいなんだ?」
「ん?大体10万くらいかな。一応手持ちはアドンたちと協力して12万はあるけど、家具も買わないと駄目だしね」
10万だと400㎡近くの物件がある。建物だけでそれとか、どう考えてもでかすぎです。6人どころか1人1室で10人は余裕で住める。
その時エイミーが声を上げる。サーシャではないが、最近こいつらと一緒に居ると何かの刺激が怖く感じてしまう。エイミーはその物件をアシュリーとアドンの所へ持って行くと、それを見せて同意を得たようだ。どんな物件なのだろうか。
「エイミー、どんなの見つけたんだ?」
「フッフッフ……これを見てひれ伏しなさい!」
物件を見せてもらう。グレッグじゃないんだから、ひれ伏すつもりはない。サーシャもそれを覗き込む。
「えーと、12LDK、離れに鍛冶場と調合用の部屋があり、風呂もでかいな。トイレはないが、ゲームだからそんなもんか」
「いや、でかすぎでしょ……何人で住むの」
グレッグが突っ込む。確かにこの物件は一体何人住むつもりなんだろうか。鍛冶や調合が出来るのは、プレイヤー向けという意味なのかも知れない。
「10万Gだとこれくらいのサイズばかりだったぞ?むしろ風呂の給湯方法と最後に書いてあるその他と言うのが気になるんだが……」
「ちゃんと調査済みよ。地下室と牢屋まで完備よ」
いや、地下室はいいとしても牢屋って……何に使うんだよ。いや、こいつらのプレイの幅が広がるのかも知れない。きっと俺たちでは触れていけない所なんだろう。
「ふーむ、俺はどうでもいいんだが、他のメンバーはどうなんだ?」
結局、俺は自室が貰えてキッチンと風呂があれば十分だ。
「ん、私は良いよ」
サーシャは同意してくる。言い出したエイミーと先程同意を得たアドン、アシュリーも問題ないだろう。残りはグレッグだ。
「うん、地下室いいね」
お前は結局そこか。エイミーはその様子を見てニヤニヤしている。どうやら妄想のネタにされている可能性があるかも知れない。まぁ、口に出さないならいいや。
「もう良い時間だし、決定は明日この物件を見せて貰ってからだな」
グレッグまでもが妄想に浸っていたので俺が締める。今日中に物件を直接見たかったが、終業時間らしい。探すのに3時間も掛かるとは思わなかった。
「アシュリーとアドンは宿はどうする?」
「わしらはいつもの宿へ行こう。明日の8時頃にここで集まるのはどうだ?」
アドンは明日の集合時間の提案をしてくる。俺はそれに承諾すると妄想に浸っているグレッグとエイミーをサーシャと協力して宿へと連れて行った。
翌日、時間通りに不動産屋に着くとアドンとアシュリーが居た。いや、パーティの位置表示で解かるのだが……。
「おお、おはよう。今日はこれから家の探索だな」
アドンが仰々しく言ってくる。家の様子を見るだけで探索ってこれから行く家はダンジョンなのだろうか。俺たちは朝の挨拶を交わすと不動産屋に入って昨日の物件へ案内してもらう。
「でけぇ……」
庭も家もでかい。現実だと掃除や手入れが大変だろうが、ゲーム内なのでそういうのは必要ない。不動産屋の人は建物を開けようとするが、エイミーがそれを止める。どうやら先に庭を見て回るらしい。
庭は庭園や菜園まであった。どうやら食材を自分で作れるらしい。どこまで自由度が高いのだろう。料理の素材を安く手に入れられるのなら歓迎である。サーシャは芝生の上に寝転がっていた。お前は犬猫か。
一通り庭を見て回り、そろそろ建物内である。扉を開けるとそこにはシャンデリア付きのホールが現れた。いくらなんでもこれは……。
「これは中々豪勢ですね」
アシュリーが目を輝かせながら見ている。こういうのが好きなのかも知れない。そして俺たちはリビング、ダイニング、キッチン、食堂、各部屋を見て回る。キッチンは俺用になりそうだが、設備に問題は無かった。世界観崩壊のガスコンロも設置してあったし。
各部屋は1階に同じ間取りの部屋が6部屋、2階はそれより大きい部屋が4部屋、3階の2部屋は更にでかかった。どうやら身分や立場で分ける為にあるらしい。と言っても一番小さな部屋でも6畳はあったので十分と言えば十分である。
「一番大きな部屋2つはグレッグとフィルム用ね。一応リーダーとサブリーダーだし、面目も必要でしょ」
エイミーが言うと他のメンバーも頷く。そう言うものなのだろうか。エイミーは大きな2つの部屋は基本的に他の部屋と隣接していないから選んだようにも見える。2つの部屋自体も結構離れている。
次は肝心な風呂だ。どんな給湯システムになっているのだろうか。手沸かしだと大変だ。俺たちが風呂場へ入ると、そこには自動湯沸かし器が付いていた。どうやら更なる世界観崩壊アイテムがあるようだ。
風呂は結構でかく、5,6人で入れそうなサイズである。ガスや水道代がかかったら面倒なので不動産屋の人に聞いてみるとそういうのはないとの事。さすがファタジー。
まとめるとこんな感じだった。
1階:部屋6畳X6室、リビング、キッチン、ダイニング、風呂、ロビー
2階:部屋12畳X4質
3階:部屋24畳X2室
どう考えても有り得ないサイズだ。エイミーとアシュリーはうん、うん、頷いている。どうやら満足したのかも知れない。
「そういえば地下はどうなっているんだ?」
すっかり忘れていた。どんな感じなのだろうか。1階の扉の1つまで行くと鍵を開ける。そこには暗い階段があった。日の光は入り込まないらしい。雰囲気のある階段を全員で降りていくとそこに2つの扉があった。鉄格子の覗き窓のある鋼鉄の扉だ。
そこを開けると中には石造りの部屋があった。どうやら拷問部屋のようだ。道具は無いが、周辺に血の跡でもありそうな雰囲気である。隣に居たグレッグがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。俺はもう突っ込まない。
もう片方の扉に入ると牢屋のようだ。ゲームなのにえらく精巧に出来ており、こんな所に入れられて放置されたら気が狂いそうだ。それが4つある。俺たちはそこに長く居ると変な気になりそうだったので地下室から戻った。
「いかがでしょうか?」
不動産屋が聞いてくる。まだ離れの鍛冶と調合の部屋には寄っていないので、何とも言えない。そこは本職が今、見に行った。
「そうね。今調べている離れ次第でOKを出してもいいわ」
エイミーが満足顔で言う。どうやら納得出来たらしい。俺には過分のような気がしてならない。
しばらくすると離れの確認に行っていた2人が戻ってくる。
「かなり良かったよ。必要な施設も最初から付いていたし」
グレッグがそう言うとサーシャも頷く。どうやら問題は無いようだ。
「問題は無いようね。契約のサインをする為に戻りましょうか」
エイミーがそう言うと俺たちは不動産屋へと戻って契約をする。税金や光熱費もかからず維持費もいらない。正にゲームと言えるだろう。
契約を果たし、俺たちは鍵を貰う。どうやら鍵はプレイヤーに吸い込まれるらしく、建物の入り口は全員が鍵を使わなくても入れるらしい。
後の部屋はメニューでの登録制だとか。各部屋を設定し、誰がどの部屋か登録する。これで該当する部屋に入るにはその人に許可を申請して同意を貰うしかないらしい。面倒だが、プライバシーは重要だ。
俺たちは残りのお金の取り分を分割する。これで好きな様に家具や生産品の素材や食べ物を買えという事らしい。やっと自分の財布を持てるようになった。皆で家具を買いに行く。
俺たちは最初の目標であった家を買った。明日はどんな冒険が待っているのだろうか。
ここで前半は終了です。
最初からの目標だった家の購入まで果たしました。




