10話
「よう」
「やっと来たね」
俺は酒場に入ると、グレッグが出迎えてくる。皆俺をじろじろと見てくる、どうしたのだろうか。
「どうした?」
「ああ、うん。やっぱり誰かが倒されるとね。痛覚とかがリアルと同じだから、味わいたくないとかで引き篭もってしまうプレイヤーもいるんだ」
確かに死ぬ瞬間はバラバラになるような激痛が走った。とは言え一瞬だったし、そこまで気にはしていない。もう二度と味わいたいとは思わないが。
「幸い一瞬で死んだからな。そこまでトラウマになっていないぞ。これがじわじわ削られたら別だがな」
防御盾の人たちは凄いと思う。普通の精神では出来ないんじゃないかな。俺がそう言うと皆安心したようだ。
「引退なぞされても困るからな。無事なようで何よりだ」
「復活のスキルがあると少しは和らぐらしいんですけどね。やっぱり仲間が倒されるのは慣れません」
アドンとアシュリーはそう言ってくる。復活の魔法を使うとあの痛みがどうにかなるのだろうか。聞いてみると。
「死ぬ瞬間に与えられた痛みを忘れられるらしいです」
と答えられた。なにそれ怖い。記憶操作?
サーシャとエイミーの方を見るとサーシャがエイミーの腕に捕まって震えていた。エイミーは優しくサーシャの頭を撫でている。なんだろう?
『前に死んで広場で目を覚まさなかった人も居るらしいよ』
グレッグが個人チャットをしてくる。痛覚が大きいからショック死する事があるのだろうか。心臓が弱い人はVRMMOを禁止されていた気がするんだが……。
『それでサーシャはこの調子か。怖がらせてしまったな』
感情を表に余り出さないだけで感受性は豊かなのかも知れない。そういう情報が入ってくると知り合いが死んだ時に怖くなるだろう。
『しかし、このゲームってデスペナがないのな。ちゃんとボス戦の経験値も入っていたぞ』
『デスペナはある意味その痛覚かな。ショック死や廃人化する可能性があると考えれば凄い嫌なデスペナだと思う』
確かにその通りだろう。ゲームのデスペナじゃないと思う。俺はエイミーとサーシャの方に向かうと言い放つ。
「サーシャ、俺は無事だ。何も問題ない。いつも通りだ」
俺はサーシャに声をかけて頭を撫でる。今まで撫でられなかった分を勢い良く、髪がボサボサになるほどに。
「……やめて」
さすがに嫌だったのかサーシャが言ってくる。こっちを見上げる顔はいつもの表情だ。櫛をどこからか取り出して髪を整えている。何時の間に買ったのだろう。
「さて、戦利品の分配をしよう。今回も3つだね」
グレッグは苦笑して言う。そして、テーブルの上にローブ、スクロール、すり鉢?と棒のセットを置く。調べるとこんな感じだった。
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紋章のローブ
効果
魔力が付与されたローブ。DEF+12、MDEF+16、MATK+10
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フリーズストームⅡ
効果
フリーズストームⅡを覚える事が出来る。
使用可能職業
ウィザード系
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達人のすり鉢
効果
調合をする際にボーナスが付くすり鉢。ATK+5
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え?すり鉢で殴るの?と考えてしまう。初心者装備より高威力だ。ローブはアシュリーかサーシャ、スクロールはアドンだろう。すり鉢があるからローブはアシュリーかな?
「実はもう希望を取ってあるから、配布してしまうね。フィルムは欲しいものないでしょ?」
「ああ、今回はお金がいいな」
そう言ってローブをアシュリー、スクロールをアドン、すり鉢をサーシャに渡す。予想通りだ。俺たちには2000Gずつ配布された。これで目標の5万まで半分まで来た。
「さて、わしらはこの辺で行くとしよう」
「では、今日はありがとうございました」
そう言ってアドンとアシュリーは席を立つ。あれから数日しか立っていないし、まだ経験を積む為の旅に出るのだろう。俺は元気でな、と2人に声をかけて見送る。
「さて、金を受け取れ」
「私も分もね」
そういって俺とエミリーはお金をグレッグに渡す。一応、分配という事で各自に渡す形を取っていた。その方が違和感はないだろう。
「今日は戦闘は終了かな。宿を取って休もう。僕とエイミーは鍛冶場に行くよ。サーシャと一緒に宿を取っておいて」
そう言ってグレッグは席を立ち上がる。俺に宿代100Gと何か食えと50G渡すとエイミーと一緒に歩いていった。サーシャは表情は落ち着いたようだが、まだ震えが収まらないらしい。立ち上がろうとしない。
「ここで何か食うか」
「うん」
俺はそう提案するとサーシャは乗って来る。一応酒場だし、料理くらいはあるだろう。メニューを見ると面白いものがあった。
「サーシャ見てみろ。チョコレートパフェだってよ。ファンタジーの世界観が完全に壊れているよな」
「!!」
サーシャが目を見開く。嫌な予感がする。俺はもしかしたら選択肢を間違えてしまったのかも知れない。
チョコレートパフェ 50G
そういえば、クレープが40Gの世界だった。甘いものは基本的に高いのだろう。だが、それを頼まれてしまうと俺が何も……。
「チョコレートパフェ1つ」
「かしこまりました」
「・・・oh」
気が付くとサーシャが店員に頼んでいた。全ては手遅れだった。せめてジュースの1つも飲みたかったが、仕方ないと諦める。水すらないのは少し悲しいが。
「え?」
俺は微妙な顔でサーシャを見ていると驚いた表情をしてくる。自分でやった事に気が付いていなかったのだろうか。
「てっきり、頼んでいいよ、という事なのかと……」
自分の都合が良い様に解釈してしまったようだ。好きな物が目の前にあるとこうなるのか。まだまだ子供だなと思い苦笑しながらサーシャの頭を撫でて「いいよ」と伝える。これだけでも良かったと思えてくる。俺ちょろすぎ。
これで変なパフェが出てきたら全部壊されるな、と思っているとどうやら出来たようだ。普通でよかった。サーシャはそれ見て顔を綻ばせるとゆっくりと食べていく。幸せそうで何よりだ。そんな時間を邪魔をしないように掲示板を遂に解禁する。見知った台詞のスレがあったが、それはスルーしておく。
その中に観光スレとか変なのがあった。どうやら色んな所を旅をしている人は結構いるらしい。危険なのによくやるものだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
観光スレ part7
114 名無しの魔術師さん
遂に、俺は遂にやったぞ!!!
海のある町に辿り着いたぞぉぉぉ
115 名無しの剣士さん
海・・・だと・・・
116 名無しの槍使いさん
このゲームで水着ってあるのかね
117 名無しの弓使いさん
どうなんだろうな
変な物があったりするし、あるんじゃね?(適当)
118 名無しの魔術師さん
水着らしきものはあるな
ちなみにふんどしはあった
119 名無しの肉壁さん
ふんどしだけの変態が現れてしまうwwwww
このゲームのインナーって下着ってよりハーフパンツみたいな感じなんだよな
120 名無しの回避盾さん
謎のふんどし集団か
本当に現れそうだから困る
121 名無しの剣士さん
さすがにリアルと同じ顔なんだからないだろ
・・・ないよな?
122 名無しの治療師さん
解からんぞ
で、その町ってどうやって行ったの?
123 名無しの魔術師さん
最初の町の南門からずっと街道沿いに歩いた所だな
大体3日くらいのマルタの町って所
124 名無しの剣士さん
目的地がないのに3日歩き続けるとか正気の沙汰とは思えないwwwww
125 名無しの槍使いさん
それで海には入れたのか?
126 名無しの魔術師さん
入れたぞ
客が1人も居ないから占有し放題だ
127 名無しの付与師さん
海って専用の魔物とかいそうだから怖いな
128 名無しの魔術師さん
それは何とも言えないな
ちょっと波打ち際にいるだけだし
周囲を見る限りでは何も居ない
129 名無しの槍使いさん
波打ち際なら安全か
ちょっと見に行く感じだとよさそうだな
130 名無しの弓使いさん
おいwwwwwww転移ゲートにマルタの町あるぞwwwwwwww
しかも100Gとかwwwww
131 名無しの魔術師さん
132 名無しの剣士さん
やっぱりゲートにあったか・・・
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
海かー水着がどうか解からないが、見に行ってみるのも面白そうだ。サーシャの方を見ると器の下の方に残っている溶けたアイスをどうやって取り出そうか悩んでいるようだった。
「飲めばいいんじゃないかな……」
ボソッと呟く。サーシャはハッと驚いた表情をするとスプーンを置いた。プライドが勝って諦めたようだ。
「さて、出るか。宿を取ってそれで調合をやってみるんだろ?」
俺はまだテーブルに置いたままのすり鉢を指差して言う。サーシャは頷くと席を立ち上がった。金額は料理が来る時に払っている。俺たちはそのまま酒場から出て宿へ向かった。
俺は今、宿の部屋でサーシャと一緒に居る。調合がどんなもんか見るためだ。一応材料として宿の近くの井戸から水も汲んできている。器はあの鍋だ。
「はじめ、ます」
サーシャは緊張した面持ちで薬草を取り出す。初めてやる事だから緊張しているのだろうか。変に驚かせたら恨まれそうなので黙って見守る。尻尾がブンブン動いている。捕まえて動きを止めたい。
薬草をすり鉢に入れて棒でゴリゴリ潰す。サーシャの表情は真剣だ。生産スキルは基本的にそれを作る方法と材料が表示される。それを見ながら作るという感じだ。ネットで調べた方法が目の前にずっと表示されていると思ってくれればいい。素質やスキルレベルの補正は完成品にかかる。つまり、素質が高くても不器用な人は結局失敗するという仕様だ。
サーシャの尻尾を見ていると今度は動かずに固まっている。相当緊張しているのかも知れない。耳も先程までは良く動いていたが今は全然動いていない。
サーシャは潰した薬草に水を入れる。すると何故か液体の入った瓶が出てきた。
「え?水を入れたのになんで瓶に入っているの?」
見ると前に道具屋で買ったポーションと全く同じ見た目をしている。成功したのだろうけど、作る過程はしっかりしているのに、いきなりゲームっぽくなるのはちょっと納得できない。
サーシャはそれを手に持ち調べているのだろうか。そしてがっくり肩を下げる。そして俺に渡してくる。
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回復ポーション-1
効果
HPを回復する。HP+30
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どうやら効果が少し低いらしい。緊張していたからだろうか。
「初めて作って失敗しなかっただけ良いんじゃないか?」
そう言ってサーシャの頭を撫でる。そうするとサーシャ小声で「ありがとう」と言ってくる。そしてサーシャは残りの薬草を使ってポーションを作っていく。慣れてきたのか緊張が解れたのか次からのポーションは標準以上ばかりだった。
サーシャは最後のポーションを作り終えて息をつく。結構精神的に来ていたのだろうか。
「最後にMP回復作れた」
どうやら少し難易度の高いポーションを作っていたようだ。俺には全部同じ草にしか見えない。サーシャは作ったポーションを並べてご満悦だ。俺も早く料理を作りたいと思う。生産スキルから作れる料理のリストを開く。
・野菜炒め
・兎肉のステーキ
これだけだった。道具屋で素材を全て買おうとすると野菜炒めは10G、兎肉のステーキは20Gかかる。野菜はどうしようもないが、肉は魔物を狩って手に入れたい。だが、俺1人では兎すら狩れないのが悲しい。
『フィルム、鍛冶が終わったよ。今から宿に向かうから出向かえよろしくね」
『部屋は201と202だ。上って来い』
どうやらグレッグは終わったらしい。パーティを解散していないのだから位置が解かるだろうに何でわざわざ聞くのか。
しばらくサーシャと雑談をしていると部屋の扉がノックされる。どうやら来たようだ。扉を開けるとグレッグとエイミーが揃って入ってくる。
「ポーションを作った」
そう言って2人に並べたポーションを見せる姿が微笑ましい。そして効果を確認しながら俺たちに配る。いくつかはアシュリーに渡すらしい。
「僕の方はこれだね」
そう言って輪のような物を取り出す。完成したのは1つだけなのだろうか。
「これだけなのか?」
「うん、僕達に必要無さそうな物は全部売ってきたよ」
どうやらちゃんと処分をしてきたようだ。スキル上げも大変そうだ。調べると面白い効果が見つかった。
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黒鉄のサークレット
効果
黒鉄製のサークレット。DEF+5、MDEF+7、詠唱速度上昇+3%
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詠唱速度が早くなったり短くなるのはネトゲでは定番だろう。1つ1つの効果が低くても集める事で大きな効果になったりする。
サーシャは受け取り喜びながら頭に付ける。サークレットってどうやって頭に固定しているのだろうか。良く動き回ってズレないものだ。
「そろそろいい時間だし、部屋に戻ろうか」
「そうだな、それじゃおやすみ」
「また明日」
「おやすみー」
俺たちは挨拶を交わし、部屋に戻る。明日はどうなるのやら。
マルタの町は東南アジアの某国の町から
適当な世界地図を開いて探してもじると便利です。
転移ゲート:お金を払う事で一瞬で別の町にいける機能。1度払えばずっと無料で使える。
次回は水着回




