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017 それはポイズン

お久しぶり過ぎますよね……。

「このくらいかしら」


 ボールにこんもりと盛られた白い粉。

 うへへ……これだけあったらどんだけ金になるのか……って違う違う、これただの砂糖だよ。

 幸せの白い粉じゃないよ。

 じゃなくて。


「あの……お母様?」


「なあに?」


「目的は小麦粉のお山にトンネルをつくるとかではなくお菓子作りですよね? 分量とか計らなくてよいのでしょうか?」


「いいのよ」


「ダウト」


「ダウト!?」


 いやこれは絶対おかしいよ。こんなの絶対おかしいよ。

 これじゃあ前世is私の二の舞だと確信できるから二回言うけれどもさ。

 何がおかしいって? 私と作業手順が一緒なんだよね。

 つまり、ぜったい、ちがう。


「レシピは何処ですか? まずはそれで分量を見て……」


「無いわ!」


「えっ」


「無いわ!」


「えっ」


「でも愛があればなんでもなるわ!」


 何故なると思ったのか。

 愛はスパイスであってレシピじゃないよ。隠し味に求めて良いスペックを遥かに凌駕しているよ。


「ねー朱夏ー」


「ねーお母様ー」


 二人はとってもいい笑顔で頷きあっているけれど、いやいやじゃあここからどうするの。

 ボールが既に砂糖でいっぱいなんだけど。


「そんな訳で続けますよ? 朱夏、小麦粉をこっちのボールに入れてくれる?」


「わかったわ!」


 ボール、二個目突入。

 マジでか。

 そうしてお姉様の手によって『どさー』という絶対おかしい擬音と共にボールへぶち込まれた小麦粉は砂糖と同じようにボールの中でお山を作り出した。

 ――――砂糖と小麦粉の割合5:5!?


「……あの、お母様、お姉様」


「「何かしら?」」


「これ、絶対違いますわ」


「「!?」」


 こっちは『そんな馬鹿な!?』みたいな顔された事にびっくりなんですけど!?

 ちょっと考えたら分からない!?


「レシピが無いなら無いでちゃんと料理人に話を聞いて……」


「駄目よ!」


「何故ですの!?」


 何がびっくりって、今の否定に私が武術を学びたいって言った時位の勢いが有ったことだよね。


「愛に不純物が混じるじゃない」


「その不純物を混ぜずに調理を続行した結果生まれるものは何でしょう、それはポイズン」


「ぽいずん?」


暗黒物質(ポイズン)ですわ、お姉様」


「それは食べられるのかしら?」


「食べられません。乾燥剤を凌駕して食べられません」


「えぇ!? それ……た、食べるとどうなるの……?」


「ポイズるんですわ」


「ぽ、ぽいずる……!? なんて恐ろしい響きなの……!?」


 いや、そうでもないと思いますよ? なんかマヌケな感じで。

 顔を青くして肩を震わせるお姉様を見るに、どうにかこうにかお姉様には状況を理解していただけたようではある。

 これでお姉様を味方につけた。……これなら。


「ポイズりたくなければクッキーの作り方を知っている人にそのレシピを聞くしかないのですわ」


「たいへんだわ……早くコックさんに聞きにいかないといけないわね」


 行きましょ、と私の手を取ってお姉様は走り出す。

 しかし厨房の扉を前にして降り注ぐ影。


「駄目よ!」


 お母様である。

 何でやねん。


 一応、今ならまだ取り返しが利くのだ。

 なにせ砂糖と小麦粉を別々のボールにぶち込んだだけだからね。

 だけどここからバターやら卵やらを投入してしまったらもうアウトだ。

 取り返しがつかない、というか素材がデストロイされてしまう。

 失敗したら食べなきゃいい? とんでもない! 小麦粉やら砂糖やらを一袋無駄にするだなんてただでさえこの家に備え付けられた食材は一級品ばかりなのだ。

 勿体なさすぎるし、怒られる、いろんな方面から怒られるよ。顔面パンチを覚悟しなきゃいけないのは嫌だ。となれば是が非でもスタッフに美味しく頂いていただかなければならない。いや、この際美味しく頂けなくてもいいから口にぶち込まなければならない。

 けれどこの量の小麦粉でクッキーなんて作ったらどうなる?

 一体幾つの胃袋が犠牲になるのかわかったもんじゃない。


「あのお母様」


「駄目よ!」


「おか」


「駄目よ!」


「お」


「駄目よ!」


 デジャヴ過ぎるんですが。

 というか杭気味過ぎません?

 けれど今回という今回は駄目ですよ、何せ目に見えた実害がありますから。

 


「お」

「駄」


「お母様っ!」


 と、私とお母様の言い合いに差し込まれる怒声。

 声の方に向き直れば腰に手を当てて如何にも怒ってますといったポーズのお姉様。


「しゅ、朱夏……?」


「さっきから聞いてたらだめだめだめだめ……もうだめって言葉を聞きたくないわ!」


「で、でも、だって」


「このままじゃクッキーじゃなくてぽいずんになっちゃうってクシェルが教えてくれて、それをなんとかするのがいけないことなの!?」


「ちがう、けど」


「けど、なに!」


 お母様、お姉様を前にしてタジタジを通り越してタジッタジ。

 クフフ……お母様の敗因、それは忘れていた事ですわ。

 いざという時に発揮されるお姉様の爆発力を。


「けど……けれど……私が貴女達に教えてあげたかったんですもの」


「……お母様?」


 ……ん?


「この家で毎日食卓に並ぶのは料理人が腕を振るった料理、それは味覚を磨く上でこの上ない教材だし、決して悪い事じゃないわ」


 あれあれ?


「けどね、母親としては子供達に母親の味っていうのを知ってもらいたいと思ってしまうものなのよ。さっき言った女の子なら料理が出来なきゃっていうのはただの方便ね。本当は一緒に料理をしたかっただけ」


 この流れは……。


「でも駄目ね、料理なんてやった事も無いクシェルにも分かるほどの大失敗にも気付けてないんだから。……朱夏の言うとおりね、駄目じゃ、ないわ。料理人を呼びに行きましょうか。そして、美味しいクッキーを作るの」


 お母様はそういうと通せんぼを辞めて扉の方に向き直ると扉に手を掛ける。


「待って、お母様」


「……朱夏?」


「私も、お母様の味を食べてみたいわ」


「けど……美味しくないかもしれないわよ?」


「今日はそうかもしれない、けどつぎは? そのつぎは? お料理するのはこの一回だけなんて決まってないわ! そうでしょ? なら今日は私達で作って、次からコックさんに何処がだめか教えて貰うの」


「朱夏……」


「ほらほらお母様、次は何をすればいいの? 私お母様に教えていただきたいわ!」


「……うん、うん。じゃあ次はバターをドロッドロにしてから――――」


 しゅーりょー。まさかの逆転まけー何このムリゲー。


 その後、繰り広げられる正常な料理とは程遠い調理が施されていくのを目前にして、私は何もできないが故に考えるのを辞めた。

 用いられる食材達は正に阿鼻叫喚であっただろう、唯一の救いだったのは作業台の上の置かれていたのがクッキーの材料のみであったということだろう、食べれない物は一切入っていない。それこそ生地を伸ばすのに用いられた綿棒やら色々な形の片貫やらを突っ込まなければの話だが。

 そうして出来上がったクッキーはチョコクッキーでもないのに黒かった、茶色っ気なんか一切ないどす黒さをしていた。お約束ではあるが、地獄の業火によりコンガリやられたクッキー生地は炭にその姿を変えていた。

 そんなクッキーの第一被害者は今迄不味い物なんて口にした事が無く、危機管理能力の乏しい天然母娘。

 一個目でノックアウト、まずそもそもの問題点として噛んだ時の音からしておかしかった、せんべいより余程良い音を立てて呑み込んでいた。

 お母様は「やっぱり美味しく出来なかったわねー」なんて笑顔で言いながらぶっ倒れた。お姉様もそれに答えようとしながらにパッタリ。

 うん、この中にお医者様はいらっしゃいませんか。


 流石にこれを配り歩くのはテロだと無駄に量があるデスクッキーは焼却炉行きとなった、スタッフの全滅を覚悟すればいけなくも無いだろうが、お母様とお姉様が食あたりでぶっ倒れたのでそれはやらない方が良いだろう。

 きっと許してくれる、これは無理だ。

 人類の食物じゃない(確信)


 因みに私は食べた。

 外はガリッツガリで中はかみ砕く事すら出来ずに口の中に残り続け、プレーンなクッキーにあるべきふんわりとした甘みは一切無くひたすらに炭の苦みと形容し難い渋みに加えて終始目の前で焼肉の煙の様な臭いに鼻を刺激され一刻も早く呑み込もうとしようものなら辛うじてかみ砕けたクッキーの鋭利な破片が喉に突き刺さって魚の骨が喉に刺さった時よりも数段上の痛みが襲い掛かって来たかと思えばそれを飲み下そうと口に含んだお茶とどんな化学反応が有ったのかは知らないが苦みが更なる高みに上り詰めて茶を吹き出すも席込んで尚口の中からクッキーが無くならず、四苦八苦している間に視界がぐにゃりと曲がって気が付けばベットの上だった。


 ……うん……うん。


 因みに、『P★ain』を起動してステータスを画面を確認してみればこのようなものが追加されていた。



 雨ノ森 クシェル 人間(人間と人間のハーフ) ♀

 ステータス:れべる『1』つよさ『D』かしこさ『E+』びぼう『S』

 スキル:【剣術……? 1/70】【料理ではない 1/10】【??? 2/4】【??? 1/10】【??? 4/100】【致命的なバグバランスブレイカ― 1/1】



 料理ではない 1/10

 説明:キッチンで料理ではない何かを創りだした。

 効果:料理成長保進 -50UP



 うん……うん……。

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