016 限りなく微妙なのだけれど
今日、幼稚園はお休みです。
学校って別に苦痛でなくても休みが嬉しいものだけれど、これって家族以外の人間に会うことが実はストレスになっているってことに他ならないよね。
人類皆コミュ障、と。
それはさて置いて、ここ数日で目立った成果が得られなかった訳ですけれど、日々の生活から得られたものもあります。
コツコツと積み重ねて来た成果とも呼べるでしょう。
雨ノ森 クシェル 人間(人間と人間のハーフ) ♀
ステータス:れべる『1』つよさ『D』かしこさ『E+』びぼう『S』
スキル:【剣術……? 1/70】【??? 2/4】【??? 1/10】【??? 4/100】【致命的なバグバランスブレイカ― 1/1】
剣術……? 1/70
説明:剣のようなモノで剣士の真似事のようなことをした。
効果:剣術成長保進 10UP
日々の戦と毎晩のレポートが実を結び、剣術が出ました。
限りなく微妙なのだけれど、というか1で習得の時点でアレなのですけれど。
“剣のようなモノで剣士の真似事のようなことをした。”ってほぼ何も出来てないじゃないか。
スキルは規定値に達するとスキル名が表示され、横に次のノロマが表示される、【剣術……?】は使ってるのが新聞紙であったが身のこなしが剣士のそれであったから獲得することができたのだろう。
幾ら前世から引き継いだ剣術の技量があったとしても、此方で如何様にでも実行しなければ使えることにはならないしスキルの糧にもならない。
スキルの効果、剣術成長促進だけれど、名前だけなら大変うれしいものだ、ただ一〇しか上がらなければ効果は素振り百回にプラス一回分の成果が着いて来るとかそんなんだけど。
というか『ハピアン』の世界に剣術なんて概念が存在したんだなぁ、なんてしみじみ思う。
てっきりそう言ったベクトルのスキルはないものと……主人公が獲得出来ないスキルが数多にあるとか流石安定の『ハピアン』クオリティ……。
この世界はゲームであろうけれど、小さな成果が数値として現れるのでとても良い。
ゲームの中の人ってこんな気持ちだったんだな。
いや、中の人はレベルとか分からないのかな? でも行動は(プレイヤーが操作しているということを無しにすれば)一貫してレベル上げとか、敢えて敵に向かっていくなんていう本来であれば自殺行為に等しい活動に勤しんでいるのだから、知っていそうな気もするけどね。
いや、設定的にはお金稼ぎなのかな?
でもそれにしたってそもそも何でモンスターが人間の通貨を持ち歩いてるのか。
実は人間に紛れてリンゴとか買ってるのかな。
それはさて置き。
まだ『P★ain』の、スキルの、『ハッピー&アンハッピー』という名のゲームシステム上の効果を得られるかどうか確認できる程の成果を得られる効果を持つスキルを得てはいない。
……確認を容易に出来るスキルもあるし、すこし武芸以外に目を向けても良いかもしれない。
例えば料理。
料理に関わるスキルを一定値以上まで上げると“包丁で怪我する確率0%”という能力を得ることが出来る。
ゲームでの料理は食材選び(鮮度や賞味期限等)から始まるのは当然として、食材の使う部位捨てる部位を仕分けして、行程を間違わず選択し、焼く時間や煮込む時間を設定して、皿選びから盛り付けまで、料理スキルをMAXまで上げたなら知識だけであれば料理人の方と同等レベルまで行ける。
……あ、料理技術は別にしてだよ? 勿論。
一応、私は記憶力が高い方だ。
英語のテストも単語をこたえる問題だけ何時も全問正解だった。
しかも付け焼き刃的に勉強したことであっても滅多な事ではそれを忘れない、頭の回転だけは無駄に良いなって担任の教師にも言われた。
だからゲームの攻略とかも一回ちゃんと攻略本を見ればクリアは容易だった。
つまり、ゲーム内でやった調理法なんかもしっかり覚えている。
……現実で実践した時は大惨事だったけど。
私は器用ではなかった。
ただ、盛り付けだけは褒められるんだ。美的センスはあるんじゃないかと言われた。
すみません、『ハピアン』における良い盛り付けを模倣しているだけでした。
「う、う~ん……」
料理……できるかぁ?
誰に強要された訳でも無く自分でやろうと考えたことなのに、正直出来る気がしない。
いや、雨ノ森クシェル自体は全てにおいてそつ無くこなすから、もしかすると私でもできるかもしれない。
今の私になってから、無い頭をよく使う様になったせいか悩み事が絶えない。
必然的に唸る事も増えている気がする。
唸るというと、何と無く獣の威嚇を思い浮かべるけれど、この場合は思考を巡らせる際にそれが上手く行かないから思わず漏れる声、という意味合いの唸るである。
決して私が獣っぽいわけではない。
「クシェルー?」
「お姉様、どうかなさいましたか?」
「一緒にクッキーをつくりましょう? お母様が教えてくれるそうよ!」
「クッキーですか?」
「えぇ! い~っぱい作るの!」
渡りに船、とはこのことだろうか。
しかしお菓子とはまた難易度の高い……分量を間違えた時の惨事は通常の料理を遥かに超えます。
私には、ムースを作ろうとしてクリームをバターにしてしまって試食会にテロを齎した前科が前世にあるからな……。
いやまあそもそも、参考にしたネット上のレシピがゴミだったんだけど。
私は料理をすること自体が少ないから気付けなかったんだけど、後から他の人がそのレシピを見て分量が明らかにおかしいって言ってた。
ああいうのって人気の人のレシピ以外は信憑性が薄いから参考にしちゃいけないんだってね。
そんなの知らないよ……。
でも、クッキーか。
お菓子の中では比較的作りやすい部類だよね……。
漫画じゃあるまいし、炭にもなるまいし。
「是非、作りたいですわ」
「よかった! じゃあ一緒に厨房まで行きましょう!」
言って、私の手を引っ張って駆けるお姉様の歳相応な幼さがアクセントとなる可愛らしさといったら。
私もああなりたいと思わなくもないけれど、既に手遅れ感が……。
女子達の談笑の輪の中に居ないで男子達とチャンバラしている時点で……ねぇ?
このまま行くといずれ一人称が『私』から『僕』に変わるんじゃないかって予想してます、ゆくゆくは『俺』?
いや、まあお母様が居れば一線を越えることは絶対に一〇〇パーセントないんですけど。
雨ノ森宅のキッチンは広い。
お姉様が言った通り、これはもう厨房だ。
といっても食事を取る人間が多い訳では無いから、料理スタッフは三人位しか居なかった筈。
宝の持ち腐れでは、と思わなくもないけれど隅から隅まで綺麗に清掃された厨房を見るに料理人達のここへの思入れが見て取れる。
きっと腐らせることなく使ってくれているのでしょう。
何時も美味しい料理ありがとうございます。
「お母様、連れて来たわ!」
「ありがとう、朱夏」
「うふふ~」
母に頭を撫でられて笑うお姉様。
微笑ましい……私にもあんな頃が……なかったです。
「お母様、どうして急にお料理を?」
「どうしてって、女の子なら料理位出来なきゃ」
あぁ、お母様の『女の子論』が要因でしたか。
何と無く、お金で解決できる上級層の方は料理をする必要が無いって思っているイメージがあったのだけれど、それは間違いだった。
特にお母様は、お母様の女の子論は、殿方に求められる女性像に近いものがありますし。
やっぱり料理の出来る女性はポイント高いらしいですから。
「それに、家族のコミュニケーションも必要なの。折角学校が休みなんだから」
「……そうですわね」
材料は既に用意されていた。
恐らく料理人の方が必要な材料だけを出しといてくれたのだろう。
バターに砂糖に薄力粉にバニラエッセンスに………………うん、結構手の込んだクッキーを作るんだな。
力仕事と盛り付けは任せて。
って、それじゃダメなんだった。
私は料理スキルを手に入れなきゃいけないんだから。
私達は上からヒラヒラのついた可愛らしいエプロンを着けると、しっかりと手を洗って早速作業に入る。
といっても最初はお母様の解説しながらの実演から。
お母様は真っ先にボールを掴み、薄力粉の入った紙袋を手にして言いました。
「まずは砂糖を適量いれるのよ」
そして目分量でドサドサと大きな山になる程の薄力粉をボールの中へ突っ込んだのです。
ん゛ん!?




