015 凄く見た目麗しいのです
「そんな訳で、作戦会議だ」
「どんな訳でだ」
「思い付きで喋るとか無いわー」
「酷く無い!?」
そんな訳で、作戦会議です。
『戦』の。
幼等部のグランド、その芝生のところで円陣を組むように丸くなって私達は次回の戦いに備えて作戦会議という運びになりました。
いやまあ……やる前から分かっていることとして、作戦会議にはならないのだけれど。
「お前ら俺の事嫌いだろ!」
騒いでるのはガン。
鉄砲が好きだからガン、陽気でムードメーカーなのだけれど元気が空回りしてからかわれがち。
家は美術館を経営している。
『ハピアン』のストーリー上には登場しなかったから、ゲーム上ではモブかな。
モブには珍しい美形に育ちそうな片鱗が既にある。
まあだから何だという話になるのだけれど。
「嫌いだったら一緒にはいないし」
眼鏡を掛けてるのはトッキ―。
鴇って名前だからトッキ―、レンズマンって呼びたかったけど諦めた。
幼稚園児にしては落ち着いていて、ガンのやる事成す事取り敢えず一蹴する。何故……?
家は家具メーカー、木余ってない?
ガンと同じく『ハピアン』のストーリー上には存在しないモブである筈。
トッキ―もきっと将来は女の子にキャーキャー言われる格好いいメガネ男子に育つんじゃないかな。
私はもうキャーキャー言われたくないけどね。
「僕はまあ……普通」
浅海裕理。
コイツに関しては派手の一言だ、『ハピアン』の攻略対象の一人でありながら、雨ノ森クシェルの手下。
生徒会長でありながら雨ノ森クシェルの傀儡であり、一般的学校と比べて力を持つ生徒会を彼女の為に私物化するアホ、私は改心してもこのキャラを好きになる事は無かったのだけれど、友達が好きだったっけ。
友達は言った、『愚かしい所がマジ私好み』と。
マジ悪趣味。
というか、傀儡の片りんを既に見せ始めている彼は一体なんなの?
私何もしてないのに既に手下っぽくなってるし。
「ワロ」
最早単語の最後まで言わなかったのはX。
秘密主義でじぶんの事何も教えてくれないので、数学的発想でXということに。
名付け親は私、それまでは影野って呼ばれてた。
親御さんが何をやっているかは知らない。
なんか何時もフードを被っているけどそういうキャラ設定なのだろうか? でも影野ってキャラには覚えがない。
「マァマァ皆、ガンモ人ノ子、優シ苦シナキャ」
ジョン、外人。褐色色の肌と高身長が特徴、ガン、トッキ―の近くに出現することが多い。
『ハピアン』の世界だというのに、周囲に居る者達の美形比率がおかしい。
そんな一か所に溜まるなんてバランスの悪い事、『ハピアン』で起こり得るなんで……。
雨ノ森クシェルだからこそなのか。
「お前ら……結局俺の事馬鹿にしてるだろ!」
「「「「…………」」」」
「なんか言え────ッ!」
作戦会議……しないの?
私は男子達の会話に混ざる事も出来ずにそんな光景を憂うように眺めていることしかできない。
これが……性別の差か……!
「おいガン、我らが王が困ってるだろ、今すぐ黙れ」
「ヴァルサマも何とか言ってくれよ!」
「……そっとしておきましょう」
「そっとすんなよ! 構えよ!」
こんな感じに、何時も作戦会議が出来ぬままタイムリミットを告げるんだよね……。
正確には、お迎えまでのロスタイムが。
本来であれば戦が終わった時にでも作戦会議といきたいんだけど……ガンと裕理が負けた相手を煽るから……。
彼ら、年長さんで私達の一個上なんだぞ。
もうちょっと年上を敬おうよ。
そういえば私も今年で五歳かー……時の流れは速いもんだ。
「私、最近はそれどころじゃないんですわ」
「お、ヴァルサマが珍しくガンをディスったな」
「テメェなんかに構ってる余裕はねぇんだよって?」
「OH……ガンハ遂ニヴァルサマニマデ……」
「おいジョン、ヴァルサマにまでってなんだおい」
「…………」
「おい、黙んなよ」
ちょ、違うよ、そういうのじゃないよ。
ただ木刀をどうしようかって話なだけで。
「王よ、悩み事でしたらこの僕にご相談下さい!」
「いえ、なんでもないのよ? 本当に」
「テメェなんかに相談することはねぇってよ?」
「ふぅん……? ガン、僕は喧嘩なら買うぜ?」
「上等だ! いてもーたるぞごら!」
いや、なんでここで喧嘩になるの。
ガンと裕理が立ち上がるのを、ジョンが「マァマァ」と言いながら座らせる。
頭を抑えつけて強引に。
……戦にもその長身を生かせればいいのに。
喧嘩とかなら結構強そうだけど、アレは筋力がほとんど関係しないからなぁ。
それにジョンってなんか戦いを好まないっぽいし。
ガンとトッキ―がやるからやってますって感じがバリバリで、何時も瞬殺されてるし。
「ヴァルサマ、取り敢えず話してみろよ」
主に、この場に収集を付ける為にでしょう? 分かったよ……。
今だ火花を散らせているガンと裕理だが、私が悩み事を口にすれば裕理の興味は其方に向く。
そうすればガンの一人相撲だ、一応喧嘩は終わる。
「実は、木刀を手に入れられなくて……」
「? 買って貰えば良いだろ」
「この阿呆が! それが出来ない理由があるから王は困ってるんだろ!」
「裕理、お前はヴァルサマの悩み解決よりガンと喧嘩していたのか?」
「…………」
裕理が押し黙り、ガンが何かを言い返そうとするのをジョンが抑えることで話を続ける。
ちなみにXは終始無言、中々楽しい奴ではあるのだけれど、あまりしゃべる奴でも無い。
きっとXは『作戦会議はどうなったんだ?』とか考えている。
だってXって戦が大好きだから。
戦ってる時が一番生き生きしてる。
「お母様が────」
「私が何?」
「────凄く見た目麗しいのですわ」
「え、クシェル貴方何の話をしていたの?」
何時の間にか背後にお母様が居た。
何事。
「お母様……何故ここへ?」
「迎えに来ちゃった」
きちゃったって……いや、お母様がそんな人だっていうのは分かっていたんですけれども。
子供の悪巧みはすぐ親にばれるっていうのも『ハピアン』らしいといえば『ハピアン』らしいし……。
ちなみにゲームでは、連絡無しに外泊したり家出しようものなら即時警察に届けを出され、家に強制送還されることとなる、優等生キャラの主人公には少しの悪い事も許容されないのです。
警察に顔と名前を覚えられるレベルの悪行を行うとゲームオーバー、何回か家出しただけでも顔を覚えられるのでゲームオーバー。
なら何故家出っていうコマンドを用意したのか……『現実感』出したかったのねはいはい。
何時もなら運転手が私を呼びに来るのに今日に限ってお母様も来るという。
即時芽を潰しに掛かるとかどんな因果律なの……。
「貴方達はクシェルのお友達?」
「は、はい! お……クシェル様には何時もお世話になるばかりです!」
真っ先に挨拶したのは裕理だ。
王って言い掛けてなんとか思い留まった様子。
他の皆も続けざまに挨拶するけど、ヴァルサマ呼びは一人もいなかった。
あくまで子供内での呼び方、ということだ。
幼稚園児にその辺の配慮をさせる教育をするここは、やっぱり私はおかしいと思う。
「それじゃあクシェル、挨拶しなさい」
「それでは皆様、また明日。御機嫌よう」
私はお母様に手を引かれ、リムジンを止めてある駐車場へ。
それを見送る彼らの表情は何とも言えぬ者でした。
何を察したのか。
母に手を引かれている私はといいますと……。
ドナドナを、思い出しておりました。
ドナ、ドナ、ドナ、ドォーナ。クシェルを乗せてぇー。
ドナ、ドナ、ドナ、ドォーナ。車が揺れるぅ。




