014 楽しく殺し合いましょう
私達の戦いは総じて言うなればチャンバラである。
紙の束を筒状に丸め、剣に見立てた上でそれを武器として用いた疑似的な戦いを真剣に行う。
ただ、時代が変わると共に進化の兆しを見たチャンバラは真剣身を増した。
戦でありながら、今時には有り勝ちであるけれどルールなんてものも設けられている。
また、相手をKO出来ない遊びでありながら、明確に勝利条件が存在する。
……まあと言っても子供の浅知恵程度の単純なルールなんだけど。
ルール壱、三回斬られると脱落。
ルール弐、剣(紙の棒)以外のでの攻撃を禁ず。間接的なモノであっても攻撃に準ずる行為を剣以外で行った場合、以降その日の戦には参加できない。
ルール参、勝負はチーム戦で行う。男子参加者と私を入れた六対六の戦いで、チームは固定。
ルール肆、チーム内で一人、王様を決定しその王様を先に倒したチームの勝利とする。
ルール伍、王様以外の者は倒されても自分を倒した者が倒れれば復活出来る。
ルール陸、スポーツマンシップに乗っ取れない者の永久追放。男なら剣で語れ。
ルール漆、ルールを守り、楽しく殺し合いましょう。
といった感じのものがちゃんと紙に書かれ、明確なルールとして存在するのである。
因みにルール参のチーム固定は仲間意識を芽生えさせると同時に敵対意識まで生んでしまい、敵チームとの友情をブロークンしてしまったりもしている。
それだけ皆真剣なんだっていうのは分かるのだけれど、仲が良かった筈の子まで関係がクラッシュしたのには軽いショックを受けた。
ただでさえ、一部女子達から男女とか陰口を叩かれているんだからこれ以上敵はいらないのに……。
「今日こそが貴様の終わりだ! クシェル皇帝!」
「剣の腕もその御口位達者だったなら、もう少し楽しめましたのに、残念でなりませんよトウキ王」
「最早勝ったつもりか! 今日こそ俺達が勝利するぞ!」
「ハッ、犬が。獣の分際で身の程を弁えなさい」
なんて、どう考えてもこのギクシャクした関係は私が原因なんだよね、まことに申し訳ございません。
こんな最初の言葉の応酬が繰り広げられるようになってから結構立つ。
こういう演技なのかなって思って言葉の応酬に応じてたら実は相手本気で言ってたって落ちです、はい。
だって私の事ヴァルサマじゃなくて皇帝呼ばわりだったし! 悔しがって皮肉言ってたとは思わなかったんだもの。
『アンタチョットバカネーオオバカネー』的な感じなのかと思って売り言葉に買い言葉的に応じてたら『お前って本当に馬鹿だな、マジゴミ』的に捉えられた感じです。
日本語って難しい。
私の無意識な挑発が結果として双方に敵対意識を生み、最初は王様も交代制だったのに私が女王オンリーに。
今となってはこの言葉の応酬なくしては戦も始まらない。
ガンもジョンもトッキーも裕理もXも、今や私の国を守る近衛兵だ。
どうしてこうなった。
私女王様よりそれを守るナイトになりたいよナイト。
ナイトになりたい……バーサーカーじゃなくて女王でもなくてナイトなりたいよ。
私は、何かを守れるモノになりたい。
「じゃあ何時も通り、コインを投げて落ちたら開始だぞ」
「えぇ」
コインを投げるのは前回の勝利国の王の役目、つまりコインを投げるのは私だ。
ちなみに一度だってコインを投げることを相手にさせたことはない。
私達強い。
私は指でコインを高らかに飛ばし、ゆっくりと仲間達の後ろへ歩いて行く。
さあ。
「始めましょう」
私が振り向くと同時にコインが地に落ちる。
最近コインを打ち上げるのに慣れ過ぎて落ちてくるタイミングまで分かるようになっちゃったよ……。
勝者の余裕であるから良い事なんだろうけど……なんか余裕を見せつけてるみたい。
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」
男達は叫び声と共に剣を持ち、敵陣へ切り込みました。
幼稚園児にフォーメーションを覚えろというのも酷であるからして、早々に乱闘騒ぎ。
王を守るようにして兵士達が目の前の敵を斬る。
「ガン、左方より来ますわ」
「よっしゃ!」
ただ、有能な王は例え子供であっても有能な兵へ変えるものです。
雨ノ森クシェルの、よく通る声で前線で戦う者達へ指示を送るのは私の役目。
視野の広さには自信があるので。
「トッキー、右方敵が抜けますわ」
「あいよ!」
「X、二体一は不利ですわ、距離を置いて」
「了解!」
「裕理、前へ出過ぎです、陣形が崩れていますわ」
「我らが王よ! 王目前で後退せよと!?」
「……ガン、Xの援護へ、ガンから見て左方の敵影を排除すればジョンが復活しますわ」
「「もうかよ!?」」
ちなみにこの「もうかよ?」は「ジョンはもう死んだのか!?」という意味合いを持っています。
ジョンは何時も開始早々に瞬殺されるのでこんな扱いになりつつある。
裕理は……もう少し視野を広げようよ。
まあ戦術としては切り込み隊長が一人居た方が戦闘がすぐ終わって良いけど。
侑李の事は投槍かなんかかと思っとけばいいんだよ、……投げ遣りに言ってる訳では無いからね?
「クシェル皇帝! 覚悟!」
右方の敵が抜けた。
一人は防衛に参加しないし、初っ端から一人を欠いてるし、仕方がないか。
それに、こうでなくちゃ……面白くないだろ。
ニタリ。
こういう時私はそういう擬音の良く似合う下衆の笑みを浮かべているのだと言う。
堕ちたヴァルキリー、悪逆非道のクシェル皇帝。
どんな煽りさ、本当に幼稚園児の考えた名前かね。
さて置き、私は手に持つ剣を片手で構える。
「そのような剣が私に届くと思うたか、雑兵」
回避できる敵の剣を敢えて剣で受け、その勢いを殺さぬまま横へ流し、無防備な背中を一度、二度、三度と斬り付ける。
ただ、早く動かし過ぎると剣は曲がるし敵は終わった事に気付かないしで良い事ないので、結構ゆっくりだ。
……因みに台詞は演技だからね? 熱くなりすぎて我を忘れたとかじゃないからね……?
雨ノ森クシェルにも千壌土紫月にもそんな設定はない。
「人数が同じになりました。私も前に出ますわ、各個撃破して」
「「「了解!」」」
「全滅するのが先か、僕が王を倒すのが先か!」
というか、相手の王様とは私がやりたいのですけれども……。
大将対決とか燃える展開じゃないか。
まあそうはならなそうっていうかなったこともないんだけどね。
「クソ! 舐めるなよ! お前らもそんな奴らさっさと倒してこっちに援護を寄越せ!」
「お前は一人で戦えない時点で我らが王の足元にも及ばないんだよ!」
どうでも良いけど裕理はガチで私を王って呼ぶよね。
平時でも。他の皆はヴァルサマなのにさ。
でも相手はそんなに煽らんといてー……これ以上関係が悪化すると修復不可能になるからさー。
「よし! ジョン復活だ! ヴァルサマーバック!」
「えぇ!?」
マジですか。
いや、人数的にそうなるのは分かるんだけどさ。
くっそー、一兵卒だった時の方が自由に動けて楽しかったぞ。
私は仕方が無しに後ろに後退する。
「ジョンがやられたー!」
「「「もう!?」」」
早っ!? 私下がった意味なかったよ!
今度はジョンが復活する前に狩る。
私はジョン死亡報告を聞いてすぐにダッシュで敵へ突進するのだった。
そんな風に苛烈な戦いが毎日休み時間になると繰り広げられ、昼休み後の授業中、最初の方男性陣は若干グッタリしていたりもするが、すぐに回復するのだから若さというものを感じる。
ちなみにコレ、幼等部内で結構有名な遊びだったりする。
観戦者もいたりして、別のグループもあったりして。
女の子達はアウトオブ眼中だけど。
……いやあ、でも何だかんだ言って休み時間が一番楽しいな。




