012 行けないよなぁ……
さて、木刀を作るとなれば用意するモノは木の棒と彫刻刀か小刀かな。
本格的に造ろうとしたらもっと他に必要な物とか出て来るだろうけれど、私の場合は有る程度剣の形に近くそこそこの重量感を持ち合わせていれば良い訳だ。
握りがあるとかね。
木はそこそこの重量感ってことは松じゃダメかな。
節目も多いし、加工しにくいし。
ならタモとか? 加工中は臭いけど。
いやそもそも今私ってどの位の物なら持てるんだろう? そういえば限界を確かめてないな。
取り敢えず、お姉様が貰ったあの巨大ぬいぐるみは見るからに無理としても、三キロ位はいけるかな?
でも人によってはある程度成長していても三キロが重いって感じる人も居るし、四歳じゃ無理かな。
一キロは絶対いけると思う。
というか、そこまで軟弱な体じゃないと思いたい。
私は近場に何か適度な重量感のあるものはないかと部屋の中を見回して、私自身の色がまるで無い大人たちによって決められた物で彩られた部屋のなかで、カーテンの方に目を向けた。
カフェカーテンを支えるポールである。
剣というよりはステッキに近い風であるけれど、取り敢えず私の部屋の中にあるモノの中では一番近いものだと思う。
というか部屋に棒状の物がほとんど無いんだよね……ベットの脚が棒に含まれるんじゃないかって思うレベルで。
そんな訳で、窓枠に収まるポールをカフェカーテンごと外して更にカフェカーテンをポールから外す。
お母様に棒を振り回しているなんてばれたら何を言われるか分からないし、証拠隠滅は確実にこなすとして、部屋に入って来た人の視界からは死角になる位置の窓から外した。
ポールを最大の長さまで伸ばしてみる。
窓がそこまで大きい物ではないので結構短い、私は比較的高身長に育っているし、四歳ともなれば平均的にももう身長はそこそこ伸びている時期だ。
年齢的に言えば私は幼女なのかもしれないが、一一六センチもあれば体感的にはもう『滅茶苦茶子供~っ!』って感じはしない。
視線はまだまだ低いけど、鍛えるのにも問題無い程度には成長していると言えるのではなかろうか。
童顔な日本人と比べれば私は大人っぽい顔付きをしている訳で、何も知らない人なら身長と顔付きで私は小学生位には見えることだろう。
取り敢えず振ってみた。
余り力を入れず、長物を振る感覚を思い出す様に型を意識して。
ポールはただ上から下に移動しただけのように動き、そして止まった。
勢いを殺し過ぎたのかなんかお遊戯みたいな感じになってしまう。
いやでもコレ、力入れたら今の私の力でも壊れそうだな……。
もっと縮めれば勢いよく振っても大丈夫そうだけれど、なんかそれだと柄だけになりそうな感じである。
ポールは求めているものとは違いそうだ。
うーん…………。
あ、ていうか思考が脱線してた。
えっと……なんだっけ? 確か木刀の素材について考えてて……私がどの位の重さまで持てるだろうって思って……ポールって棒状だけど素振りに使えないかなって実験してみてたんだっけ。
どうしてこうなった。
当初の目的完全に迷子だよ。
……いや、本当の意味での根本には繋がるモノがあるけれども、あるもので代用しようとするのは頂けないよね。
環境がやらせてくれないことを自分の意思でやろうとしているんだから、その中でまで妥協しちゃったら私何がやりたいのか分からなくなって来る。
私はポールとカフェカーテンを元の形にして窓の所へ戻す。
というか目撃者に無駄に気を使う暇があったら考えが脱線していることに気付こうぜ、私。
そういえばこの家ってSPが幾人か配置されているけれど、その装備の中に警棒ってないのかな?
ここ日本だし流石に拳銃を装備している訳じゃないだろうし、となると定番なのは警棒だ。
長さ的にはやっぱり足りないし、柄も短いから片手でしか持てないけどアレは完全な武器だよね。
木刀が作れ無さそうならそれを持ち出すのもアリかな?
まあまずは木刀だ。
彫刻刀とかはお姉様が持ってないかな~って思ったけど良く考えたら小学校で彫刻刀使ったのは四年生位だった気がするし庶民学校とお金持ち学校が同じカリキュラムとは思えないし何もしなかったら今後触れることすら出来ないかも。
それは拙い。
最悪、私は包丁で木を削る事になるのか。
凄く危ない……それは避けたいなぁ、短期バイトでマグロ解体ショーとかやったことあるから包丁の扱いにはそれなりの自信があるのだけれど、道具には適材適所があってだね。
包丁で木を切る行為はアウトだよ……。
……あ、でもゴボウを削る感じで行けば行けるかな?
行けないよなぁ……。
タモって固いし、切れないことはないだろうけど失敗しそう。
というか素材も道具も手に入る気がしなくなってきた。
遊ぶ時なら極稀に庭に落ちてる木の棒とかを使えば良いんだろうけれど、鍛練をするとなれば話は変わってくる。
それなりの厚みと長さがある木材が好ましいよねぇ、出来ればだけど。
でもこの家に木材を木材のまま入手する必要性って皆無だから、何かしらの工事で気を使う作業があれば手に入れられるかもしれないけれど、生憎とそんな予定は御座いませんのことですよ。
お父様に言う事が出来れば本物の木刀を手に入れることも出来ただろうけど、次のエンカウントは何時になるのやら……。
お母様は習い事を頑張れば比較的物を買ってくれやすい傾向にあるけれど、多分小刀を所望したら『駄目よ!』って帰ってくる。
また、『戦乙女アンリエッタ』の変身アイテムは良くて、『武将戦隊トウイツジャー』の武器は駄目という、女の子らしからぬ物を拒む傾向もみられ、私が『セパタクロー伝説XXI』っていう格闘系RPGゲームを所望したら駄目って言われたし。
『キメラの密林』っていうほのぼの系日常ゲームにしなさいって言われたし。
その時には『あれ、テレビゲーム自体は良いんだ。意外』と思っただけだったけど、お母様からしてみれば玩具はどれも等しく玩具に過ぎなくて、女の子らしいもので遊んでさえいれば良いらしい。
ゲームならやる姿勢は変わらないでしょうに……。
多分、野球盤とかはNGなんだろうなぁ。
まあそんな訳で、お母様は基本女の子らしく無いものは全部却下。
材料と道具は自分で何とかしなきゃなるめぇよ……。
いや、だから詰まっている訳なのだけれど。
「うぅ~ん……」
私は思わず唸る。
四歳という社会的に一人で買い物もしないだろう年齢であることがどうしようもなくネックになる。
はじめての御使いじゃあるまいし、というか一人で外を出歩くって事がまずないし。
幼稚園までの送り迎えは車だし、元々何の前準備も無く『ハピアン』の世界で外に出ることは余り得策じゃないから進んで外に出たがったりはしたことなかったんだよなぁ。
この世界に千壌土紫月の時の家族はいないだろうし、となれば会いたいと思う人も居ない。
他の人の家へお邪魔する事も滅多にないし、家に帰ればお姉様も居るし。
そんなこんながあり、いや、無くとも私は基本家の敷地から出ないし、出ても調達は難しい。
そもそも所持金がゼロなんだよね、うん。
小学生から一定額支給するってお父様は言っていたけれど、お姉様がお金の使い所に困っていたのを見るに、貰ってもお母様の超過保護がある限りは自由にできないのだろう。
「う、うぅ~ん」
思いの外高すぎる、お母様という名の壁。
お母様に隠れてやろうとするのにもお母様がネックになると言う余りに過酷に感じる幸先に私は再度唸るのだった。




