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010 鬼か






 『ハッピー&アンハッピー』に置けるパソコンの立ち位置とは主に『ステータス』と『スキル』と『セーブ』の確認の役割を担っており、主人公は部屋でパソコンの前に座らなければセーブも出来ず、自己の状態を確認することすら叶わないのである。

 そもそも『ハッピー&アンハッピー』のメニュー画面には『アイテム』と『メール』と『装備』しか存在しない。


 ちなみに補足すると、『アイテム』は言わずもかな学園生活で手に入れたアイテム等を閲覧出来るものだが、当然のことのようにその日持っている物しか確認することが出来ず、入手しても部屋に置いてきてあるものは使うことはおろか確認することも出来ない。

 必須アイテムを持ってくるのを忘れてゲームオーバー、なんてのも無くは無いから笑えない。


 『メール』は正直、暴力の次に鬼畜かもしれない。

 文字通り携帯でメールをやり取りするものであるのだけれど、返信のタイミングが遅すぎると好感度が下がるし、早すぎると気持ち悪がられることもあり、それでも好感度が下がる。

 だが、そんな表面的なマイナスならまだいい。

 本当に恐ろしいのは、メール内容を作るのが自分で、そのメール内容によっては攻略対象や親友ポジションの女キャラとの間に亀裂が走ったりしようものなら『着信件数0件』『ブロックされています』『アドレスが違います』等の本気で心を抉る精神攻撃である。


 『装備』は単純に服装に関することで、平日は学校の制服があるから良いのだけれども休日の服装は自分でコーディネートしなければならず、センスの無い恰好で外を出歩き攻略対象と出会おうものならセンスの無さを理由に好感度が下がるという鬼畜っぷり。

 しかも一番無難で好感度に変化を及ぼさない一番最初に所持している服ばかり装備していると主人公は服もまともに買えない貧乏人のレッテルを張られるに加え、後半になると「お前って……何時も同じ服装だよな」なんて言ってドン引きされるのである。

 まあどちらにせよ、現実と同様に形ある物はいずれ壊れるということで服には耐久値が存在しそれがゼロになると服は等しく『~~ワンピース【ボロ】』という感じに表示され、それを着て外に出歩いたら間違いなく好感度マイナスになるという呪いのアイテムに早変わり。



 ……うん、日常生活で普通にやっている筈の事なのにゲームだと何故こんなにも鬼畜に思えるんだろう。

 話がメニュー画面に逸れてしまったけれども、パソコン操作で出来ることの中で『ハッピー&アンハッピー』内に置ける世界観的唯一の非常識が存在する。


 それは、『ステータス画面』と『スキル』である。

 一応、ステータスには『主人公による今日起こった出来事の正確なレポートから基づいたあくまでも目算的な数値』、スキルには『 同上 から基づいたあくまでも推測的に可能だろうという技術』という建前が立てられてはいたけれども、ステータスとスキルに反映されたスペックは明らかに主人公にも反映されており、それは唯一ゲーム的と言っても良い場所だった。


 ある意味でいうならバグ。

 ゲームであれば当たり前である筈なのだけれど、それでも『ハッピー&アンハッピー』の中ではそれに近しいものがあった。


 そしてそもそもの物語の始まりとして、主人公はそれを見付けるのである。

 私は早速セッティングされたパソコンの前に座り、キーボードを叩く。

 既にネット環境もばっちりなデスクトップには毎度お馴染みググール先生のトップ画面が映し出され、そこに『人の成り立ちとこれから超アウェーに飛び込むことになる一般人の末路』と打ち込んで、検索。

 そこから次へを三度繰り返して一気に10まで飛び、6に戻って7、8、9と行ってからの再び1へ戻る。そして下から二番目に表示されているサイトへアクセス。

 そこでウイルスかもしれない正体不明のソフトをダウンロードする。

 それが主人公の行動であり、私もそれを実践する。


「……ありましたわ」


 思わず呟いてしまったのは、画面の中の更に画面に映っていた怪しいサイトのトップ画面。

 トップ画面と言っても、そのサイトにはトップ画面しかなくて、それは一見どこにでもある面白くも無い広告だらけでクリックすれば必ずといって良い程他のサイトに接続されるまとめサイトのような造り。

 そんな中で一点、青文字の『今人生で一番困ってる方はココをクリック!』だけがダウンロード画面へと進むのだ。

 私がその文字をクリックすると、そのソフトはウイルスよろしくな感じに問答無用でダウンロードが開始され、キャンセルすることも出来ずに二秒で完了する。

 ここで焦った主人公はパソコンを消そうとしたりもするのだが、そんなのは無駄な抵抗なので置いておく。


 ……結局は消さなかったしそれが発動キーでは無いと思うしね。


 『P★ain』



 これこそが主人公唯一の味方にして希望。

 偶然の産物にして首の皮一枚繋がらせることとなった要因。

 これが無ければ『ハッピー&アンハッピー』の理不尽に対抗できないと言っても過言では無い。


 このソフトは先程言った通り、ゲームでは『ステータス』と『スキル』を確認出来るだけのものだったけど、今となっては『ハッピー&アンハッピー』では珍しい簡略化が行われていたことを自分でやらなきゃいけないんだろうなぁ。

 やらなきゃいけない事というのはその日一日に何があったかを事細かく『レポート』にして入力、送信することだ。そうすることにより情報は更新され自分の最新の状態を知ることが出来る。


 超メンドクサイ。

 でもやるしかない。


 主人公の性格は生真面目だったから本当にキッチリレポートを作っていた、なんて言う設定とかもあったっけな。



『以下の情報を入力してユーザー登録して下さい。』


 なんて、悉くシンプルなデザインの中に一行だけの説明。見た事のある画面に私の気は逸り、誰も見ていないだろうと高を括りブラインドタッチで求められた情報を入力して行く。




 【種族】

 [人間]

 【性】

 [雨ノ森]

 【名】

 [クシェル]

 【年齢】

 [4歳]

 【誕生日】

 [20XX年9月9日]

 【血液型】

 [Rhnull型]

 【髪の色】

 [白金]

 【目の色】

 [藍]

 【肌の色】

 [白]

 【血の色】

 [赤]

 【身長】

 [116.9cm]

 【体重】

 [16.22K]

 【視力】

 [20.0]

 【虫歯】

 [無し]

 【出身国】

 [日本]

 【信じる神】

 [無し]


 etc……以下九百八十四問にも及ぶ入力の末にようやく『P★ain』は起動する。

 鬼か、というかその内の約半数はツッコミ所が有り過ぎてヤバいんだけど。

 血の色って赤に決まってない? ゲームでは永延ログとして流れただけだったけど、実際やると時間掛かる……手が小さいから文字入力やりにくいし。




「や、やっとおわりましたわ……」


 ……というかその効果も知らずに主人公はよくこれをやったよね……藁にも縋る思いだったのかな。

 設定ではこの主人公、お金持ち学校に受かったは良いが、自分の身の丈の違いを冷静に分析できる頭を持っている故に行く前から高校生活に不安を覚えていた。

 そして案の定降りかかるのがゲームストーリーというなの試練である。

 鬼畜に外道を兼ね備えた様なそれと立ち向かうのに際し、『P★ain』は客観的に自分のスペックを分析してくれて、思い通りに上昇してくれない能力値は自分の身の程を知るのにちょうど良かった。

 このソフトで出来ると表示されていることは本当に出来るからこのソフトに意味を見出したなんていう後付感満載な理由もある。





 雨ノ森 クシェル 人間(人間と人間のハーフ) ♀

 ステータス:れべる『1』つよさ『D』かしこさ『E+』びぼう『S』

 スキル:【??? 1/10】【??? 2/100】【致命的なバグ(バランスブレイカ―) 1/1】



以後、一定数以上書き次第すぐ更新します。


学校が始まり、進級制作に追われる日々になってしまうので、周期をきにしてたら更新するタイミング逃しそうなので。

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