コキュートス
その事実に私はゾクリと身体を震わせる。
それはまるで大人が子供を相手にする程の差があると言われている様でプライドよりも恐怖がなお一層増してくる。
どんなに足掻こうが絶対に勝てると分かっているからこそのあの態度なのだ、と。
「なぁ、嬢ちゃん。一人でここまで来た事は褒めてやるがよぉ、ちょぉーと俺らを馬鹿にし過ぎたようだな。名前はなんてーの?親は誰だ?あ?教えてくれたら命だけは取らないでやるよ」
「まぁ、その身体が男性達の欲望の捌け口にされちゃうかもだけど、死ぬよりマシでしょう?」
「はいはいはーい。一番最初は俺がやりますわ。他人のやった後とか想像しただけで萎えるしね。あと、気持ちいい事だけじゃなくて俺達に舐めた態度を取った報いもやってあげるから覚悟しといて」
しかし、他の者達は逆にそのプライドが邪魔をして怒りという戦いにおいて最も抱いてはいけない感情に支配されてしまい最早まともな考えは出来ないであろう。
それが静かな怒りであれば逆に集中力が増して良い方向作用する場合も少なからずあるのだが、プライドを煽られただけで簡単に引き出してしまう様な怒りではその僅かな希望すら無いであろう。
であるならば、コイツらを囮にしてどうやって逃げるかを考えなければならない。
「フッ、猿が何かキーキーと喚いておるが何を言っておるのか全く理解出来ぬわ。しかし、例え猿とて敵であるのならば一応は敬意を評して名乗っておこう。我が名はアリシア。いと尊きお方であらせられるローズ様率いるブラックローズ、その中でもNo.III、コキュートスのアリシアとは我の事である。それ以下でも以上でもない」
そんな中件の少女は自身の事をブラックローズのNo.III、コキュートスのアリシアであると傲岸不遜な態度でもって名乗りを上げる。
この光景をフランが見たのであれば「コキュートスと名乗るのであればせめてNo.ナインにしときなさいよっ!コーキュートスのある場所は地獄の最下層にあたる第九圏でしてよっ!アリシアさんっ!」と元とは言え中二病の先輩として突っ込んでいたであろう。
「殺し合いは遊びじゃねぇんだよこのクソガキがぁっ!!水魔術段位四・水弾ッ!」
「氷よ、我れを仇なす者を反逆者としてその罪を捌きたまへ。カイーナッ!」
そのアリシアの見え透いた挑発とも取れるパフォーマンスに対して普段であれば遇らうのだが怒りで状況判断が出来ないのであろう。
怒りに任せてガランが水系攻撃魔術を仕掛けるがそこからは圧巻であった。
ガランの放った水弾は全て対抗魔術により落とされ、その落とされた水弾は氷り床に転がっている。
それだけでも目を見張るものがあるというにも関わらずガランの胸付近に三本もの氷柱状の氷が突き刺さっているではないか。
あの短時間で防御と攻撃を同時に行うのもさることながら、ガランが作り出した六発もの直径三十センチはあろうかという水弾を一瞬にして凍らせてみせたのである。
それがどれ程凄い事か、分からぬ者はこの部屋には居ないし、そんな者は帝国宮廷魔術師などには一度たりともなれない。
この中で一番水魔術が得意なガランでさえ未だに氷を作り出すだけでもかなりの時間を有するのである。
たった一回。
それも一秒程度。
それだけで目の前のアリシアという少女は我々との格の違いを見せつけたのである。
「そ、それがなんだっていうのよっ!たまたま幻の氷魔術が得意ってだけでしょうがっ!!どのみち氷は炎には勝てないのよっ!!炎魔術師段位三ッ!炎息吹ッ!!」
「氷よ、我に刃向かう者を反逆者としてその罪を捌きたまへ。アンテノーラッ!」
「まだだよっ!!二人相手にいつまで余裕な態度でいられるかなっ!?風魔術段位三ッ!鎌鼬ッ!!」
「氷よ、我に向かって来る者を反逆者としてその罪を捌きたまへ、トロメアッ!」
そしてキャシーが放った魔術、炎魔術である炎息吹は吹き荒れる吹雪により阻まれ。アレンが放った魔術、風魔術である鎌鼬は突如現れた氷の壁に阻まれてしまう。
これ程までに氷魔術を扱える者がいるなどこの帝国、いや他国を含めて聞いたことがない。
まさに天才であり化け物という言葉がしっくりくる。
しかし、私はこの馬鹿どもがアリシアに攻撃を仕掛ける時をずっと待っていた。
私はこの混乱に乗じて気配を消し逃げる為に行動を起こした。
この好機を逃せば私が逃げるチャンスは限りなくゼロになってしまうであろう。
「氷よ、我から逃げようとする者を反逆者としてその罪を捌きためへ、ジュデッカッ!」
「うぐあッ!?そ、そんな馬鹿なっ!?」
しかし私のその行動も全てこのアリシアという化け物には御見通しっであったらしい。
私は逃げる為の足を、私の腰から下を氷漬けにされ、勢い余ってそのまま床へと倒れてしまう」
「氷は全てを見通す。逃げれると思わない事ね」
そしてアリシアは唱える。
「氷の監獄」
化け物め。
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「おいフランッ!どうやってその水をそんな瞬時に氷へと変えたんだっ!!」
少し冷たい飲み物が欲しいと思い手頃なサイズへ水を氷に変えて見せたらいきなりノア様が叫び始めた。




