何故
そう言うと男性は腕を広げ恍惚とした表情を俺へと向け、その瞳を見て俺はゾッとする。
それは俺を人間とは思っていない、標本にする羽虫を見る様な目で見つめ来る。
「あぁ、これこそ正に人間の本性、いわば人間そのものを体現した様な作品だとは、そうは思わないかね?何も持たない癖になんの努力もせず生まれが皇帝の息子というだけでまるで全てを手に入れたかの様なその傲慢な態度。民がいなければ成り立たない国というある種の集合体でありそれはある意味で平民よりも立場が低いという単純な事すら理解しようともせずのうのうと本能のまま生きていく。虫や獣にすら劣るその立ち振る舞いこそが丸裸にした人間という本性であると私は思うのだよ。実に君は素晴らしいっ!!」
天を仰ぎ、大袈裟に身振り手振り自分の思いの丈を唾を飛ばしながら述べて行く男性なのだが、聞く限りでは俺に恨みつらみがある訳でもなくむしろ、当然であるが俺のことを崇拝している様に見える。
では彼は本当に俺の事を助けたのではないのか?
そう思うとしっくりくる。
そもそもこの教皇である俺様が誰にも助けられないという事があるはず無いのである。
まぁ、少しだけ助けるのが遅すぎたとは思わなくもないのだが結果助かったので良しとしよう。
「おい、貴様のその気持ち悪い考えなどそうでも良い。早くこの拘束を解かぬか。先程から痛くて仕方ないぞ」
「………は?」
しかし彼は、俺がこの拘束を解く様に命令すると「何を言っているのだ?コイツ」といった様な目で俺を数秒観た後腹を抱えて笑い出す。
ここまで俺をバカにしたのだ。
拘束を解いた後死刑を宣告してやるか。
「おい、次はないぞ?早くこの拘束を解け。早く解かねば拘束を解いた後死刑宣告しかねぬぞ」
「ひぃっ!ひぃっ!これ以上俺を笑わせてくれるなよっ!笑いすぎてい、息がっ、息が出来ず死んでしまうではないかっ!」
「この俺をここまで馬鹿にしてっ!!もうお前は死刑決定であるぞっ!!」
「でさぁ、死刑宣告は良いんだけどさ、それ誰に宣告するの?この状況で。バカも休み休み言えよ全く。そう同じボケかまされてもさぁ毎度ウケると思ったら大間違いだぞ。流石にもう無理だわ。まあ良いや。もうお前からは何も得るものないしな、その身体以外は」
そう言うと男性は丸めた布を広げると、そこには様々な種類のナイフが横一列に規則正しく並んでいるのが見えた。
そして男性はその中からナイフを一本取り出して握り直すと俺の衣服を腹部が出るように裂きはじめる。
この一連の動作だけで俺はこの後何をされるのか知ってしまう。
それもそうだ。
俺自らコイツと同じ様な事を躾のなっていない下民共にやってきたのだから。
何故?
その言葉は頭を支配する。
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
いくら考えてもその答えは分からない。
しかし今の俺の立場はあの時の下民の立場と逆転してしまっている事だけは理解出来た。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!頼むっ!なぁ、何が欲しいっ!?金か?お、女か?それとも両方か?良いだろうっ!金も女も好きなだけ望むだけ用意してやろうっ!!なぁ、良い話だろ?だから俺を解放してくれっ!」
「今まで散々俺が今からお前にする事と似た様な事をやって来たのであろう?その立場が逆になったと知っただけであろう。それとも何か?今まで自分が行なって来た事が自分に跳ね返って来ないとでも思っていたのか?お前自身何もできない傀儡でしかないと言うのに。そろそろ黙らないと思わず目からそのまま脳味噌までぶっ刺してしまいそうだから静かにして頂きたいなぁっ!!」
男性がそう言うと共にダンッ!と言う音と共に俺の横にナイフが刺さる。
怒りに任せて投擲したのか俺の耳が少し切れるも痛みよりも恐怖が勝り声が出てこない。
怒りに任せて投げれる程、手元や力加減が狂って俺の頭へ飛んでしまい死んでも良いと思っていると言うことを理解してしまっては声など出よう筈もない。
「そうだ、黙っていれば俺も怒りませんよっと」
「ギャァアアアアアアアアアアアッ!!刺したッ!?俺の腹を刺したッ!?」
「んー、いつ聴いても良いものですなぁ。ねぇ、貴方もそう思いませんか?私と同じく何人もこうして殺して来たのでしょう?」
「頼むっ……何でもするから、いえっしますからっ!殺さないで下さいっ!」
「何でもするんでしょ?だったら私達シャドウクロウの為に死んで下さい」
「ガァアアアアァァッァァっ!!?痛いっ!痛いっ!痛いっ!」
「知ってますか?この銃という武器の弾丸は小さな塊に圧縮した結界なんですよね。そしてこの結界について調べ様にも余りにも結界魔術を扱えるサンプルが少なすぎた。こんな時に現れたのが皇帝の座を剥奪された貴方が私の目の前を走っているでは御座いませんか。普段は神など信用致しませんがこればかりは神の存在を信じても良いと思える程私は歓喜致しましたよ」




