物欲の一種
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俺はあの日から焦っていた。
当たり前だ。
今まで見下していた女性、それもあのフラン相手に完膚無きまでにボコボコにされたのだ。
しかも、それはまるで子供と大人、いや下手をすれば赤子と大人の様な力量の差をまざまざと見せつけられ俺のプライドは見事に粉々にされた。
当時はその事実に怒り、フランへその怒りを向けていたのだが今ではむしろあの頃の何も知らなかった俺の、何も知らない奴が築き上げて来たプライドを粉々に砕いてくれて感謝しかない。
何も知らない奴の持つプライド程意味の無いものは無いと思えるきっかけをくれたのだから。
そして当初は怒りから、途中からは置いていかれたく無いと、最近になると隣に立ち支えることが出来るまでとガムシャラにレベルを上げていった。
しかし武闘大会で俺は世界の広さ、そしてフランの強さを思い知らされる。
レベルと強さは必ずしも比例せず経験や知識、そして戦闘センスもまた磨けばそれは強さとなる事を武闘大会で思い知らされた。
そして武闘大会チーム戦では今の俺はフランの強さの足元にも及ばないという事をまざまざと思い知らされた。
フランの部下ですらあのレベルなのである。
であるならばフランは一体どれほどの強さなのかまるで見当もつかない。
しかし、この想像を絶する強さを見せた部下よりも弱いわけがない事くらいは分かる。
明らかに個人戦で優勝した奴よりもフランの部下の方が強いと分かるのだから笑えない。
自分が強くなれば強くなるほど、それに比例してフランの圧倒的な強さを思い知らされる。
フランは一体何と戦っているのか。
そして今の俺レベルではフランの助けになるどころか足を引っ張りかねない現状に悔しさが溢れ出す。
奴隷達がいるとは言え、フランは一人で今も何かと戦っているのである。
そして俺達を避ける理由、それは俺達を巻き込まない為であると、この俺が依然護られている立場であるということが悔しくてたまらない。
そして俺は気がつけばフランを目で追っていた。
そして俺は気がつけば常にフランの事を思うようになった。
それは不思議な感覚であった。
恋とも愛とも違う。
好きだとか嫌いだとかでもない。
まだ何かの感情になる前の、でもなんだか温かい、そんな感情をフラン対して想うようになった。
もちろん俺が好きなのはシャルロッテでありフランではない。
そのため俺はシャルロッテに常に告白をしているのだがそれら全ては同じ理由でシャルロッテから断られていた。
『レオ様が私に向けている感情は愛だの恋だのと言った好きという感情ではなくて、ただの物欲の一種です。美しい、綺麗、だから手元に置きたい。そういった感情ですし、私はその感情を嫌という程向けられて来ましたので今ではそれが本物の恋心か物欲か分かるのようになったんです。ですからレオ様、レオ様が本当の意味で私を愛してから、外見なんて関係ない、私でないと、私しかいないと思った時また告白して下さい』
と、決まってこの言葉でもって振られ続けていたのである。
そしてこの言葉を言われる度に俺の想いは偽物なんかではない。本物であると思っていた。
そんなある日、学園で昼食の為に食堂でホットドッグを数個買って歩いているとフランとフランの側仕えのが蔦の手提げ鞄を手に何処かへ向かっていく姿が見え、俺は気が付けばフラン達の後を追っていた。
そしてフラン達はどうやったのか空を飛び学園校舎の屋根上へと飛んでいくではないか。
飛行魔術など一体どれ程、世界各国数多の魔術師の夢であるのか武術メインの俺でも理解できる程とんでもない魔術をフランだけでなくフランの側仕えまでいとも簡単に行使している事に一瞬驚くも、あのフランだしなとすぐさま納得してしまう。
そもそも圧倒的な強さで有耶無耶になったのだが、思い返せば武術大会でもフランの部下であろう奴隷が空中を浮遊していたので奴隷に出来てフランに出来ない道理はない。
しかし、あの頃ならまだしもあれから更に鍛えて来た今の俺ならばこれ位の高さなど意味をなさない。
そして軽く跳躍して屋根に登るとフランとフランの側仕えが仲睦まじく昼食用の弁当を広げている姿が目に入ってくる。
そのフランの姿は、まさかこんな所に自分達以外来るはずないと思っているのかいつも見る常に何かに警戒している様な姿ではなく、そこには年相応の、コロコロと表情を変えるフランの姿があった。
俺はそのフランの姿を見たとき何故か無性にイタズラをして困らせたいと思ってしまう。
「えっと、アンナさんや。つかぬ事をお聞き致しますがその本日のフラン様報告会という───」
「うむ、初めて食べる料理だが意外とイケるなコレ」
「………は?え?れ、レオ………って、あぁーーーーーーーーーっ!!!!わ、わたくしのおにぎりをよくもっ!!返しなさいっ!!今すぐ返しなさいよっ!!」
「良いじゃねか、まだあるんだからよ」
「よくありませんわっ!!二つのうちの一つ、言うなれば半分も食べたという事ではないですのっ!!それは即ちわたくしの楽しみを半分も奪ったと言っても過言でも───」
「うむ、この玉子料理も初めて食べるが美味いなコレ」
「きぃぃいいいっ!!この脳みそ筋肉男むごむごむごごっ!!?」
「まぁまぁ俺の昼飯のホットドックを一つあげるからそれでチャラにしてくれや」
そして、珍しくフランが素の感情を前面に出して俺へ抗議してくる。
それが何故だか嬉しくて、またフランにイタズラをしたいと思ってしまうから不思議である。
誤字脱字報告ありがとうございます!!
毎回物凄く助かっておりますっ!!^^
ここ最近フラン様を描きたい衝動にかられております^^




