密かなブーム
「な、何でしょうっ!?」
そもそも奴隷に給金を、それもこれほどまでに高額な給金を与えるなど聞いた事も無いし未だに嘘なのでは無いかなどと思ってしまうのも仕方のない事であろう。
そんなローズ様が怒る事、その事を知る事がむしろ恐ろしく感じてしまい逆に聞きたくないなどと思ってしまう。
今までに私はローズ様の逆鱗に触れる様な事をしているのかもしれない。
知りたい。だけど万が一無礼をはたらいているかもと思うと知りたくない。しかしこれから一緒に活動する為には知らなくてはいけない。
そんなジレンマに悩まされ始めた時、ウル様がついにその答えを言い始める。
「週二回儲けられる休日はしっかり休まないと真面目に怒られます。それはもう、どれほどこのブラックローズの為に働きたいと、働かせて下さいと懇願してもこれだけは決して折れてくれず、むしろ更に懇々と説教が長引く程です」
「………え?」
一体どんな答えが返って来るのかと心の準備をして待ち構えていたのだが、その内容を要約すれば休日は必ず休むという事でありなんだか拍子抜けしてしまった。
「その表情から拍子抜けしているようですね」
「す、すみません。そういう訳では決してないのですがもっとこう秘密結社っぽい内容かと思っておりました為ですね……」
どうやら私の感情が表情に出ていたらしく、それを指摘されて少し恥ずかしく思う。
いや、だって仕方ないじゃないですかっ!
秘密結社のトップであるローズ様の怒る事ですからもっと秘密結社っぽい内容だと思うじゃないですかっ!
何ですかっ!?休まなかったら怒られるってっ!
「まったく、良いですか?アナスタシオ」
そんな私を見てウル様は先輩奴隷風を吹かし、やれやれという表情をしながら喋り出す。
「休日は必ず休まなければならないという事はローズ様の為にあれやこれやと動く事も出来ないという事なんですよ?」
「………え?いやだってチョコレート専門店の仕事を休むという事ではないのですか?ローズ様の為に動く事は私達にとって生き甲斐であり、まさに生きる理由であると思うのですが?それすら出来ないというのは拷問に近いのでは無いのですか?」
「私もローズ様にそれはもう身振り手振り誠心誠意懇切丁寧にお伝えしてみたのですが『休む事も仕事のうちですわっ!』とそれはもう取り付く島も無いといった感じでした」
そう言うとウル様はその時を思い出したのか深いため息を吐く。
しかしながら丸一日ローズ様の為に何もしてはいけない、しかもそれが一週間に二日もあるなど想像するだけでその休日が恐ろしい。
「ちなみに今日、体調を考慮してアナスタシオ、そしてシフトの関係で私が休日です」
あぁ、なるほど。
だから私の側にいる事で、私をいつでもサポート出来る状況を作り出して間接的にでもローズ様の役に立ってるポジションにウル様はいる訳ですね。
しかし困ったのも事実である。
これからチョコレート専門店を手伝うかローズ様の為に何か私でも出来る事をと考えていたのだがそれら全て出来ないではないか……。
一体どうしたものかと考えていたその時、私はこの休日というルールの綻びを見つける事が出来た。
「あのウル様、私この『休日はローズ様の為に動いてはいけない』というものの綻びを見つけたかもしれないです」
「な、何ですかっ!その綻びはっ!?おおおお、教えてくださいっ!さぁさぁ早くっ!」
私のルールの綻びという言葉を聞きウル様が鬼気迫る表情で私の肩を掴むと、その綻びが何なのか早く教えて欲しいと激しく揺さぶって来る。
「言いますからっ!言いますからウル様、落ち着いて下さいっ!」
「うっ、す、すまない。少し取り乱してしまったみたいです」
少し?と疑問に思うものの、それを口に出すのを何とか抑える事に成功する。
「今日一日私と一緒に遊びに行きましょうっ!」
「うーん……それは別にいいのですが、それと休日ルールの綻びと何の関係があるんですか?」
「お土産を買ってくれば良いんですよっ!それも、あくまでもティータイム用のお菓子ですとか茶葉やコーヒー豆ですとか、ローズ様ではなくティータイムの為に買って来ましたとでも言えばあのローズ様でも納得してくれるでは?」
これだとあくまでもティータイム用に買ってきたのであってローズ様の為に買って来てはいないので大丈夫なのでは?と思ってしまう。
「………そっ」
「…そ?」
「それだぁっ!!でかしました、アナスタシオさんっ!!こうしちゃおられませんっ、早速一緒に遊びに行きましょうっ!!そうですね、少し帝都から離れた、片道馬車で二時間前後にある最近地味に流行りだしています観光スポットまで行きましょうっ!」
「ま、待ってくださいっウル様っ!観光スポットは逃げませんからっ!」
こうしてブラックローズのメンバーの間で休日はローズ様に何かしらのお土産を買うという事が密かなブームとなったのであった。
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「ついに動き始めたようですわね」
この言葉に意味はあるかと問われれば別段これといって意味はない。
強いて言うならば格好いいから、である。




